破戒と男色の仏教史 (平凡社新書)松尾 剛次平凡社このアイテムの詳細を見る |
本書で、仏教における女性差別に関する歴史もうかがうことができた。
仏伝に依っても、仏陀は養母マハー・パジャパティの出家をなかなか許そうとせず、弟子のアーナンダの取りなしによって、やっと許されたとある。その際に、差別的な条件が出された。八敬法(はっきゅうほう)である。
我が国に、国立戒壇ができてからも、女性の比丘尼に対する受戒は行われることがなかった。一人前の尼になれなかったのである。藤原氏がその権勢で、道長の娘彰子のために尼戒壇がつくられたのは、あくまでも例外であった。
比丘尼の前段階の雛尼になるについても、男性と比べて戒律の数が多かった。
仏教における女人五障説から女性のままでは成仏できないとされていた。死に際して、男となって成仏するとの転女成仏説が一般だった。あるいは、変成男子の考えが。
戒律復興運動を展開した叡尊らにより、鎌倉時代になって初めて奈良の法華寺に尼戒壇が樹立されたのである。
なお、日蓮に関しては、女人五障説の立場ではなく、女人成仏の考え、つまりは、南無妙法蓮華経を唱えれば女身のままで成仏できると説いたのは注目に値する。
禅宗でも、道元は出家して座禅修行すれば、女性でも成仏できると説いている。
仏教史における女性差別の問題も避けては通れぬ問題である。
本書において、こうした視点からの言及があることは意義深い。
※ 五障説
女性はどんなに精進しても、仏、転輪聖王、帝釈天、魔王、梵天の五つの地位に就けないとする説で、女性の成仏を否定した。