かぜねこ花鳥風月館

出会いの花鳥風月を心の中にとじこめる日記

剣十七景について

2023-02-16 18:01:12 | 日記

「一山百楽 私の山旅決算書」と前書された田淵行男さん81歳のご著作「山の手帖・田淵行男写真文集」(朝日新聞社昭和62年3月15日出版)を借りてきてパラパラと開き、なぜか最終章にあたるⅦ補遺から読み始める。

この章に随想「我が未登頂記」というのがあって、白山・有明山・餓鬼岳・雨飾山など近くに住まわれていても登れなかった山々が口惜しそうに綴られているが、その随想の最後のところに「剣十七景」という見出しがある。

何だろうと読んでいたら、田淵さんは被写体としての剣岳を大分気に入っていて、長い写真家生活の間に剣岳の「My展望台」というビューポイントを十七ヶ所ほど選んでいて、その「剣鑑賞の特別席」を「剣十七景」(つるぎじゅうななけい)と名付けているのだ。

長い間持ち歩いていた地図には、剣岳を中心として放射状の直線が引かれているが、いずれの線もその十七ヶ所の展望台から引かれている線である。

具体的には、時計回りに

①毛勝・猫又・釜谷の三山(毛勝三山)

②池の平山

③白馬岳

④唐松岳

⑤五竜岳

⑥鹿島槍ヶ岳

⑦爺ヶ岳(後立山)

⑧ハシゴ谷乗越

⑨新越乗越

⓾針ノ木峠

⑪烏帽子岳

⑫立山雄山

⑬剣御前尾根

⑭天狗平(立山)

⑮奥大日岳

⑯大日岳

⑰馬場島(バンバ島)

であるが、その展望地として挙げた中で、①の毛勝三山、⑧のハシゴ谷乗越、⑰のバンバ島だけはさまざまな事情で行けなかったことを悔やんでいる。それにしても、「剣岳専属写真家」ではないのに、かくも多方面から多数の撮影スポットを持ち球として地図に仕込んでいるとは、いかにも博物学者らしい、几帳面で、偏執的ともいえるこだわり方である。

人まねみたいに、オイラもヤマケイ新年号付録の地図帳にある剣岳に十七ヶ所の展望台からの直線を引いてみた。そしたら、オイラもこの50年近くの間に、十七ヶ所のうち十三ヶ所の展望台に立った経験があることが分かった。田淵さんが未踏の上記3カ所と烏帽子岳を入れて四ヶ所は足を踏み入れていないが、他の展望台には全部立ち寄っていることになる。

だが、そこからの剣の姿を、最近歩いた⑫雄山、⑭天狗平、⑮奥大日岳からの雄姿以外はあまり覚えていないし、撮影記録もどこかに行ってしまってる。せっかく「剣鑑賞の特別席」に招待されていたのに、剣の魅力を思い出として残していなかったことはさみしいかぎりである。。

だが、何もこれから剣に登れと言っているのではない。あらためて地図に書き入れた展望台の三つや四つにこれから向かうことは、そんなに大それたことではない。こないだは、鹿島槍にもう一度行きたいと考えていたではないか。⑥鹿島槍、⑦爺ヶ岳、⑨新越乗越を再訪し、「裏剣」(うらつるぎ)の雄姿をもう一度じっくり味わうことはこの夏でも可能ではないか。

①の毛勝三山、⑧のハシゴ谷乗越、⑪烏帽子岳だってちゃんとした登山道はあるのだし、行こうと思ったら行けないことはない。とくに、毛勝からの剣は、剣を北側から間近に眺めるのであり、あの冠松次郎さんも「毛勝岳こそ日本北アルプス中最もすぐれた山の展望台と言えよう」と激賞されているとのことで、願うなら目の黒いうちに山頂に立ってみたい。(ただし、バスを降りてからのアプローチが長く、さらに登山口からの登りが8時間であり、ビバーク覚悟でいかないとならんだろう)

 

田淵さん、ありがとう。またおみやげを残してくれていた。

 

        

            田淵行男「山の手帖」から

 

     

 

 

 

     

                 奥大日岳からの剣岳

 

     

                   立山天狗平方向からの剣

 

 

 

 

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