『アードマン連結体』 ナンシー・クレス (ハヤカワ文庫 SF)

読書メーターの感想には「人間を描かなくてもいいSFがあっても、人間を描くためのSFがあってもいい」と書いた。
SFに対する批判のひとつに、人間が描けていないというものがある。というのは有名な都市伝説(笑)だが、ナンシー・クレスの作品はまさしく人間を描くためにSF的状況を利用しているのではないかと思える。
しかし、この短編集で主人公に据えられることの多い老人へ感情移入することが難しく、読みが停滞しがちだった。やっぱり、まだまだ気分は少年だからな!
その分、少年を主人公に据えた「マリーゴールド・アウトレット」はナイフが突き刺さるように痛すぎだ。
高齢化社会とか、家庭崩壊とか、現代日本の病巣ともいうべき部分にも触れているが、日本発ではない分、深くえぐるというよりはただのシンクロ。何かを考えるきっかけにはなるだろうが、ここには答えは無い。
「ナノテクが街にやってきた」
ナノテクがモノを作り出す原理なんかにはさっぱり触れず、ニール スティーヴンスンの『ダイヤモンド・エイジ』を彷彿させるような、何でも簡単に手に入るユートピアに生きる人々の心を描いた寓話。怠惰と愚鈍を露骨に表す人々に嫌悪感を覚えると共に、生産が完全自動化されたユートピアはありえるのかとか、ベーシックインカムの行く末などを考えるのも面白かった。
「オレンジの値段」
「昔は良かった」と無理矢理説得するようなタイムパラドックス物。老人たちに感情移入するのはちょっと難しく、孫?娘は何がしたかったのかよくわからんが、ノスタルジックな雰囲気だけでも読ませる。
「アードマン連結体」
これも老人が主人公で、サポート役が若い女性というパターン。高齢化社会が『幼年期の終わり』的人類の変異を引き起こすというネタは興味深いが、やっぱり、老人への感情移入が難しい。
「初飛行」
新兵訓練にはよくある話。
「進化」
パンデミックにはよくある話。
「歳の泉」
これも老人が主人公。なんだか老醜というか妄執というか、居心地の悪い作品だ。“歳の泉”にさせられてしまった永遠に若い女性の方に視点を持っていった作品も読んでみたい。
「マリゴールド・アウトレット」
これは主人公の幼い少年の視点で描かれるため、最初は何がなんだかわからないが、だんだんと明らかになる彼の家族と、彼の境遇が心に突き刺さる。見つかるのを恐れて子猫が鳴かないように押さえつけ、死んだんじゃないかとおびえ、死なないホログラムの猫を始終見つめ……。
育児放棄が話題になる昨今、今の日本でこそ読まれるべき作品。
「わが母は踊る」
生めよ殖やせよという教義に従い、地球外惑星に播種されたロボット生命体の様子を見に来た一家の話。播種された生命体は人間ではないのに、やはりそこで描かれるのは、創造者者側と被創造者側のそれぞれの人間性なのではないかと思う。
SFネタとしては、生めよ殖やせよが教義になった経緯や、その教義の元で地球外起源の生命体をどのように見るのかという方が興味があったが、その方向には話は進まず……。

読書メーターの感想には「人間を描かなくてもいいSFがあっても、人間を描くためのSFがあってもいい」と書いた。
SFに対する批判のひとつに、人間が描けていないというものがある。というのは有名な都市伝説(笑)だが、ナンシー・クレスの作品はまさしく人間を描くためにSF的状況を利用しているのではないかと思える。
しかし、この短編集で主人公に据えられることの多い老人へ感情移入することが難しく、読みが停滞しがちだった。やっぱり、まだまだ気分は少年だからな!
その分、少年を主人公に据えた「マリーゴールド・アウトレット」はナイフが突き刺さるように痛すぎだ。
高齢化社会とか、家庭崩壊とか、現代日本の病巣ともいうべき部分にも触れているが、日本発ではない分、深くえぐるというよりはただのシンクロ。何かを考えるきっかけにはなるだろうが、ここには答えは無い。
「ナノテクが街にやってきた」
ナノテクがモノを作り出す原理なんかにはさっぱり触れず、ニール スティーヴンスンの『ダイヤモンド・エイジ』を彷彿させるような、何でも簡単に手に入るユートピアに生きる人々の心を描いた寓話。怠惰と愚鈍を露骨に表す人々に嫌悪感を覚えると共に、生産が完全自動化されたユートピアはありえるのかとか、ベーシックインカムの行く末などを考えるのも面白かった。
「オレンジの値段」
「昔は良かった」と無理矢理説得するようなタイムパラドックス物。老人たちに感情移入するのはちょっと難しく、孫?娘は何がしたかったのかよくわからんが、ノスタルジックな雰囲気だけでも読ませる。
「アードマン連結体」
これも老人が主人公で、サポート役が若い女性というパターン。高齢化社会が『幼年期の終わり』的人類の変異を引き起こすというネタは興味深いが、やっぱり、老人への感情移入が難しい。
「初飛行」
新兵訓練にはよくある話。
「進化」
パンデミックにはよくある話。
「歳の泉」
これも老人が主人公。なんだか老醜というか妄執というか、居心地の悪い作品だ。“歳の泉”にさせられてしまった永遠に若い女性の方に視点を持っていった作品も読んでみたい。
「マリゴールド・アウトレット」
これは主人公の幼い少年の視点で描かれるため、最初は何がなんだかわからないが、だんだんと明らかになる彼の家族と、彼の境遇が心に突き刺さる。見つかるのを恐れて子猫が鳴かないように押さえつけ、死んだんじゃないかとおびえ、死なないホログラムの猫を始終見つめ……。
育児放棄が話題になる昨今、今の日本でこそ読まれるべき作品。
「わが母は踊る」
生めよ殖やせよという教義に従い、地球外惑星に播種されたロボット生命体の様子を見に来た一家の話。播種された生命体は人間ではないのに、やはりそこで描かれるのは、創造者者側と被創造者側のそれぞれの人間性なのではないかと思う。
SFネタとしては、生めよ殖やせよが教義になった経緯や、その教義の元で地球外起源の生命体をどのように見るのかという方が興味があったが、その方向には話は進まず……。