神なる冬

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コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 天空のリング

2010-09-10 23:48:12 | SF
『天空のリング』 ポール・メルコ (ハヤカワ文庫 SF)




最近、短編集か重厚長大な長編が多かったので、このぐらいの量と軽さの小説はちょうど良く、ものすごく気持ちよく読めた。

5人で一人の人間といえば、スタージョンの『人間以上』、小隅黎の『超人間プラスX』。超能力とまでは行かなくても、少年たちがそれぞれの能力を生かしてチームになって事件を解決するというのは『マガーク探偵団』。それらの物語はある程度定型化されていて、戦隊モノまでも受け継がれているわけだが……。

この物語で新しいのは、彼らがフェロモンを介して思考を共有する群体であるということ。

脳味噌を電子的につないで新たな存在へ進化するといえば、シンギュラリティ物でよくある(《レヴェレーション・スペース》の連接脳派とか)なあと思っていたら、原題が『Singularity's Ring』だったでござる(笑)

複雑な思考がどこまで化学的フェロモンで交換できるのかという疑問はあるが、インターネットの隆盛で忘れ去られつつある電子的以外のネットワークという意味では非常に興味深いのではないかと思う。

“天空のリング”に住んでいた電子的ソケットを持つ共同体人はシンギュラリティ物の象徴であり、電子ソケットに対するアンチテーゼとしての“フェロモンによる情報交換”が生まれ、それが世界を救うかもしれないというのが、この作品の肝なのだ。

しかし、その一方で、この物語は、勇気と友情が勝利を招く、上質なジュブナイルでもある。あんまり難しいことを考えずに読める作品である。


ネットの感想を呼んでの追記:
一部でマイナスポイントにされているキャラクターの書き分けはこれくらいで十分だと思うんだが。5人でひとりという設定を生かせば、まったく別人格の書き分けになっていれば逆にそれは設定を生かしていないでしょ。中の二人は双子なんだし。


以下ネタばれ追記↓










しかし、シンギュラリティで高みへ飛び立ったと思われた人々が、実は接続されていたおかげで全員一度に死んじゃっただけというオチが、一番新しいかったのかも。