碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

一日遅れで加藤和彦さんの誕生日を祝う

2010年03月22日 | 舞台・音楽・アート

昨日(3月21日)は、昨年秋に亡くなった加藤和彦さんの誕生日だった。

1947年生まれの団塊世代。

お元気であれば63歳になっていたはずだ。

KAWADE夢ムック文藝別冊『<総特集>追悼・加藤和彦~あの素晴らしい音をもう一度』(河出書房新社)を入手した。

加藤さんへのロングインタビューやエッセイ、小田和正や細野晴臣との対談、何人もの追悼文、論考などが集められている。

インタビューが行われたのは6年前の今日(3月22日)だ。

その中で、「常々、僕言ってるんだ。全部任せられるプロデューサーがいたら任せたいって。いないから自分でやってきたわけで」と語っているのが印象的。

確かに、加藤和彦をプロデュースできるプロデューサーは、探すのが難しい。

というか、加藤和彦を加藤和彦以上にプロデュースできるプロデューサーは、なかなかいないだろう。

それくらい音楽に関して“一筋縄のひと”じゃなかったわけで。

「世の中は音楽なんて必要としていないし。私にも今は必要もない。創りたくもなくなってしまった。死にたいというより、むしろ生きていたくない。生きる場所がない、という思いが私に決断をさせた」(一般向け遺書)

加藤さんは、ずっと自分の「場所」は自分で創ってきたから、やはり誰かが用意したそれではダメだったかもしれないなあ。

自分の仕事、生活に関して、細部に至るまで“完璧主義のひと”だったと思うが、自身の「これから」についても完璧であろうとしたのかもしれない。わからないけど。


一日遅れですが、加藤さん、誕生日おめでとうございます。

『井上ひさし全選評』の眼力(がんりき)

2010年03月22日 | 本・新聞・雑誌・活字

なんという厚さ、そして重さ(笑)。

いや、そんなことより、この本の“企画”自体がすごい。

『井上ひさし全選評』(白水社)である。

各種文学賞の選考委員を務めている井上ひさしさんの、まさに「選評」だけを集めて一冊にしたのだ。

井上さんが出席した選考会は、昨年までの36年間で、370を超える。

候補に残った作品たちの、何を、どう評価し、受賞作を選んだのか。

実は、受賞作を決めることは、選ぶ側もまた自身の力量や文学観・演劇観を問われることでもある。

たとえば、ここに集録された選評を読んでいて面白いのは、選ばれた人たちがその後どうなったか。

一番の印象を言わせてもらうなら、「新人賞は、取った後が難しい」(笑)ということだ。

キャリアを積んでいる作家が対象となる直木賞などは別だが、新人賞を与えられた人たちの名前の中には、知らないものが非常に多い。

つまり、受賞後、期待通りの“活躍”が見られなかった人たちが大量にいるのだ。

もちろん逆のケースもたくさんある。

1979(昭和54)年の「オール読物新人賞」は、佐々木譲さんの『鉄騎兵、跳んだ』が受賞作だ。

選評のタイトルは「脱帽するのみ」。

井上さんは、それまでの6年にわたる選考委員活動の中で「これだけよく出来た小説が、そして豊かな将来性を窺わせる作家があったかどうか」と書いている。

先ごろ直木賞を受賞した佐々木譲さんのデビューに関して、見事な“産婆役”となったわけだ。

新人の作品を真っ先に評価するのも大変なら、直木賞のようにプロたちを評価するのも、これまた大変な気苦労だろう。

いずれにせよ、この本全体が文学・演劇の紛れもない“現代史”となっており、資料としても一級品の価値をもつのは確かです。