なんという厚さ、そして重さ(笑)。
いや、そんなことより、この本の“企画”自体がすごい。
『井上ひさし全選評』(白水社)である。
各種文学賞の選考委員を務めている井上ひさしさんの、まさに「選評」だけを集めて一冊にしたのだ。
井上さんが出席した選考会は、昨年までの36年間で、370を超える。
候補に残った作品たちの、何を、どう評価し、受賞作を選んだのか。
実は、受賞作を決めることは、選ぶ側もまた自身の力量や文学観・演劇観を問われることでもある。
たとえば、ここに集録された選評を読んでいて面白いのは、選ばれた人たちがその後どうなったか。
一番の印象を言わせてもらうなら、「新人賞は、取った後が難しい」(笑)ということだ。
キャリアを積んでいる作家が対象となる直木賞などは別だが、新人賞を与えられた人たちの名前の中には、知らないものが非常に多い。
つまり、受賞後、期待通りの“活躍”が見られなかった人たちが大量にいるのだ。
もちろん逆のケースもたくさんある。
1979(昭和54)年の「オール読物新人賞」は、佐々木譲さんの『鉄騎兵、跳んだ』が受賞作だ。
選評のタイトルは「脱帽するのみ」。
井上さんは、それまでの6年にわたる選考委員活動の中で「これだけよく出来た小説が、そして豊かな将来性を窺わせる作家があったかどうか」と書いている。
先ごろ直木賞を受賞した佐々木譲さんのデビューに関して、見事な“産婆役”となったわけだ。
新人の作品を真っ先に評価するのも大変なら、直木賞のようにプロたちを評価するのも、これまた大変な気苦労だろう。
いずれにせよ、この本全体が文学・演劇の紛れもない“現代史”となっており、資料としても一級品の価値をもつのは確かです。