碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

“さりげなさ”がいい『カンテツな女』

2010年03月02日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

『日刊ゲンダイ』の連載コラム「テレビとはナンだ!」。

今週は、NHK『カンテツな女』について書いた。


見出し:
「勤労女子」に密着する「カンテツ」のさりげなさがいい

コラム本文:
テレビの制作現場では、作業終了が朝になるのは日常茶飯事。完全な徹夜、いわゆる「カンテツ」だ。

しかし、カンテツは業界だけの話ではない。他の業種にも、男女を問わず一睡もしないで夜を過ごす人たちがいる。

そこに注目したのがNHK「カンテツな女」である。

この番組の特色は、登場する女性はもちろん、ディレクター陣も全員女性であること。カメラ持参で取材対象に密着するのだ。

先週放送分の主人公は36歳の女性トラック運転手。

大型トラックに重さ10~40㌔の荷物を200個も積み込み、三重県から千葉まで500㌔の道のりを走破する。

彼女にとってのトラックは寝泊まりする住居でもある。パーキングエリアでの入浴はわずか10分だが、洗車には2時間かけていた。

また隣に座るディレクターとのやりとりの中で、なぜトラッカーになったのか、何を思って走っているのかなどが明かされる。女同士だからこその濃い話だ。

これまでに登場した「勤労女子」は美容師、居酒屋店長、介護福祉士など。いわゆる有名人ではなく、ごく普通の女性たちだ。

それぞれがハードな日々を、さりげなく真剣に生きていた。

番組は社会の断面を垣間見せてくれるが、教訓めいたことも言わず淡々と終わっていく。そこがまたいいのだ。

同じニッポンの空の下、今夜もカンテツで働くすてきな女たちがいる。
(日刊ゲンダイ 2010.03.02付)


・・・この番組、先週このコラムで書いた、テレビ東京『極嬢ヂカラ』と同じように、女性制作者たちによる意欲作だと思う。

しかし、テレビというのは、様々な立場の人が見る。

先日、過労死遺族らでつくる「全国過労死を考える家族の会」などが、長時間の深夜労働を礼賛するような内容だとしてNHKに改善を求める申入書を送ったという。

この番組が、いわゆる抗議を受けたわけだ。

「力強い生き方には感動するが、常軌を逸した長時間の働き方に無批判な番組づくりは疑問」として、過労死の危険性も踏まえた番組制作を求めている、そうだ。

果たして、『カンテツな女』は、抗議した側がいうような「長時間の深夜労働を礼賛するような内容」なんだろうか。

正直言って、私にはそう思えない。

礼賛には見えないし、美談にしている作りでもない。

それとも、深夜労働を“批判していないことは賛成していること”という解釈なんだろうか。

うーん、それも違うと思うのだが。

いずれにせよ、『カンテツな女』の制作陣には、こうした意見があることもきちんと押さえた上で、ヘンに委縮せず、自分たちが見た「女性たちの現在(いま)」を伝え続けて欲しい。