『日刊ゲンダイ』の連載コラム「テレビとはナンだ!」。
今週は、NHK『カンテツな女』について書いた。
見出し:
「勤労女子」に密着する「カンテツ」のさりげなさがいい
コラム本文:
テレビの制作現場では、作業終了が朝になるのは日常茶飯事。完全な徹夜、いわゆる「カンテツ」だ。
しかし、カンテツは業界だけの話ではない。他の業種にも、男女を問わず一睡もしないで夜を過ごす人たちがいる。
そこに注目したのがNHK「カンテツな女」である。
この番組の特色は、登場する女性はもちろん、ディレクター陣も全員女性であること。カメラ持参で取材対象に密着するのだ。
先週放送分の主人公は36歳の女性トラック運転手。
大型トラックに重さ10~40㌔の荷物を200個も積み込み、三重県から千葉まで500㌔の道のりを走破する。
彼女にとってのトラックは寝泊まりする住居でもある。パーキングエリアでの入浴はわずか10分だが、洗車には2時間かけていた。
また隣に座るディレクターとのやりとりの中で、なぜトラッカーになったのか、何を思って走っているのかなどが明かされる。女同士だからこその濃い話だ。
これまでに登場した「勤労女子」は美容師、居酒屋店長、介護福祉士など。いわゆる有名人ではなく、ごく普通の女性たちだ。
それぞれがハードな日々を、さりげなく真剣に生きていた。
番組は社会の断面を垣間見せてくれるが、教訓めいたことも言わず淡々と終わっていく。そこがまたいいのだ。
同じニッポンの空の下、今夜もカンテツで働くすてきな女たちがいる。
(日刊ゲンダイ 2010.03.02付)
・・・この番組、先週このコラムで書いた、テレビ東京『極嬢ヂカラ』と同じように、女性制作者たちによる意欲作だと思う。
しかし、テレビというのは、様々な立場の人が見る。
先日、過労死遺族らでつくる「全国過労死を考える家族の会」などが、長時間の深夜労働を礼賛するような内容だとしてNHKに改善を求める申入書を送ったという。
この番組が、いわゆる抗議を受けたわけだ。
「力強い生き方には感動するが、常軌を逸した長時間の働き方に無批判な番組づくりは疑問」として、過労死の危険性も踏まえた番組制作を求めている、そうだ。
果たして、『カンテツな女』は、抗議した側がいうような「長時間の深夜労働を礼賛するような内容」なんだろうか。
正直言って、私にはそう思えない。
礼賛には見えないし、美談にしている作りでもない。
それとも、深夜労働を“批判していないことは賛成していること”という解釈なんだろうか。
うーん、それも違うと思うのだが。
いずれにせよ、『カンテツな女』の制作陣には、こうした意見があることもきちんと押さえた上で、ヘンに委縮せず、自分たちが見た「女性たちの現在(いま)」を伝え続けて欲しい。