夫の誕生日祝いの続きです。
夜、予約していた先斗町の「炭火割烹いふき」へ。
ここは前から目をつけていたお店で、予約の電話をしたとき既に、自分の勘は間違っていなかったと思った。
ご主人なのか、従業員なのかわからないが、優しくゆったりとした口調で私の話を聞いてくれる。
「夫の誕生日なので、何かお祝い風のお料理、できますか?」
そう尋ねると、ちょっと困ったような声で、
「う~ん……。そういうのは受け付けてないのですが、ケーキでしたらご用意させていただきますよ」
と言ってくれた。
「それでいいです!お願いします!」
できるだけのことをしてあげたいという気持ちが電話の声から伝わってきて、予約の電話をしただけなのに、もうこの店のファンになっていた。
実際行ってみると、先斗町の少し路地を入ったところにあった。
ぼんやりと灯りが揺れている。
引き戸を開けると、清潔感のある風情たっぷりの空間が現れた。
決して広くはないが、ゆったりとした時間が流れていくような落ち着いた空間にほっとする。
カウンターはすべて予約でいっぱいで(こういう割烹は絶対にカウンターがいいのだけど)、横にある掘り炬燵式のテーブル席へと案内された。
向かい合って顔を見合わせると、思わず二人とも笑みがこぼれる。
大好きなやさしい時間がふと訪れて、食べる前からもう幸せな気分。
ビールで乾杯したら、1品目が運ばれてきた。
毛蟹の上にウニが乗っている。下はズイキ。
京都らしい上品な味付けの先付けだ。素材の味がしっかり生きている。
お造りは、タコ、鯛、鱧。
やっぱり京都の夏は鱧だなぁ。
せっかく美味しい鱧なので、できれば梅肉はやめてほしかったけれど。
まあ、海原雄山風に言えば、「なぜ鱧には梅肉なのだ?ほかの物を試したことがあるのか?」という感じ。
鱧には梅肉と決まっているようだけど、私はいつもこれが納得いかない。
梅肉の味が強すぎて、鱧の味が完全に失われてしまうからだ。
そんなことを考えていたら、すごいのが出た!
焼き鱧の寿司だ。
まるでウナギかアナゴのようだが、確かに鱧。
初めて食べたけれど、アナゴより美味しいかもしれない。
鱧嫌いの人が嫌がるあのちょっと骨っぽいザラザラした食感が、焼くことによってむしろ心地良いカリカリとした食感に変わっている。
これは絶品!
そうそう。鱧はこんなふうに料理してほしかったのだ。
焼き物は加茂茄子の田楽。
新銀杏がまた色を添えて綺麗だ。
茄子は口の中で柔らかく溶け、味噌もいい塩梅。
割烹の善し悪しを決めると言ってもいいほど存在の大きい椀物は、あわび、水茄子、ゴマ豆腐。
あわびがメインなのだろうけど、ゴマ豆腐のとろとろ感がなんとも美味しい。
ゴマの味もしっかりコクがある。
あとはメインだけだなぁと思っていたら、女将さんが鯛のおかしらを持ってきてくれた。
通常なら身の部分だけなのだが、誕生日祝いということを意識してくれたらしい。
「ご主人がお誕生日とお聞きしましたので、おかしらも添えました。食べにくいかもしれませんけど、二人でつついてくださいね」
そう言ってくれる。
私も彼も「カマ」好きなので、二人でつつきまくった。
うまい。
そして、心遣いが嬉しい。
メインは佐賀牛。
これ以上焼いてもダメだし、少し早くてもダメ。
そういう絶妙の焼き具合で出てきた。
滅多に家では分厚い牛肉なんて出さないので、彼はものすごく喜んでかぶりついていた。
目を閉じて堪能している。
……よかった。
最後にさっぱりとした1品が。
もずくと長芋とおくらの酢の物。
酢の味もきつすぎず、さっぱりといただけた。
もずくがまた旨いんだ、これが……。
ラストはご飯。
香の物と、鱧の炊いたん。
今日3度目の鱧だけど、これがまた素晴らしい。
鱧はこうして炊いても旨いのだ。
最初のお造りで梅肉のことをあれ?と思ったことを反省。
いろんな鱧の食べ方を知っているからこその梅肉だったのだと思えた。
そして、女将さんのアドバイスにより、鱧の炊いたんをご飯にのせ、お茶漬けで食べてみる。
さらさらとかきこんで、あっと言う間に食べてしまった。
旨い~!
デザートは桃と葡萄。
甘くて美味しい。
全部堪能して、二人ともかなり満足した。
やっぱりこの店を選んで間違いはなかった。
お酒もいくつかはいいものをそろえていて(アホみたいに高かったが、そこはまあ、先斗町価格)、二人で2合ほど飲んだ。
彼は何度も「美味しかった」「ありがとう」と繰り返す。
あたたかいお茶を飲んで、ほっこりしていたその時、女将さんがケーキを運んできてくれた。
びっくりする彼。
「お誕生日ということで、奥様からです。お切りしましょうか?」
女将さんが尋ねても、彼はまだびっくりして声も出ない。
女将さんがケーキを一旦切りに持って行ったら、やっと彼が言った。
「びっくりした……」
本当に驚いたようだ。
サプライズ、大成功!!
まあ、まさかこんな店でケーキが出るとは思わないもんなぁ。
切ってもらったケーキを食べた。
アンリシャルパンティエのケーキだった。
残りは箱に入れてもたせてくれた。
夜の京都の町を二人で歩く。
「こんな美味しいもの食べて、その後、またブライトンホテルに帰れるなんて!」
このセリフを彼はホテルに辿り着くまでに5回ほど言った。
よほど嬉しかったらしい。
ああ、よかった。
最高の誕生日になった。
「よし、帰って飲み直そう~」と二人。
酒飲み夫婦の夜はまだまだ長いのだった。
夜、予約していた先斗町の「炭火割烹いふき」へ。
ここは前から目をつけていたお店で、予約の電話をしたとき既に、自分の勘は間違っていなかったと思った。
ご主人なのか、従業員なのかわからないが、優しくゆったりとした口調で私の話を聞いてくれる。
「夫の誕生日なので、何かお祝い風のお料理、できますか?」
そう尋ねると、ちょっと困ったような声で、
「う~ん……。そういうのは受け付けてないのですが、ケーキでしたらご用意させていただきますよ」
と言ってくれた。
「それでいいです!お願いします!」
できるだけのことをしてあげたいという気持ちが電話の声から伝わってきて、予約の電話をしただけなのに、もうこの店のファンになっていた。
実際行ってみると、先斗町の少し路地を入ったところにあった。
ぼんやりと灯りが揺れている。
引き戸を開けると、清潔感のある風情たっぷりの空間が現れた。
決して広くはないが、ゆったりとした時間が流れていくような落ち着いた空間にほっとする。
カウンターはすべて予約でいっぱいで(こういう割烹は絶対にカウンターがいいのだけど)、横にある掘り炬燵式のテーブル席へと案内された。
向かい合って顔を見合わせると、思わず二人とも笑みがこぼれる。
大好きなやさしい時間がふと訪れて、食べる前からもう幸せな気分。
ビールで乾杯したら、1品目が運ばれてきた。
毛蟹の上にウニが乗っている。下はズイキ。
京都らしい上品な味付けの先付けだ。素材の味がしっかり生きている。
お造りは、タコ、鯛、鱧。
やっぱり京都の夏は鱧だなぁ。
せっかく美味しい鱧なので、できれば梅肉はやめてほしかったけれど。
まあ、海原雄山風に言えば、「なぜ鱧には梅肉なのだ?ほかの物を試したことがあるのか?」という感じ。
鱧には梅肉と決まっているようだけど、私はいつもこれが納得いかない。
梅肉の味が強すぎて、鱧の味が完全に失われてしまうからだ。
そんなことを考えていたら、すごいのが出た!
焼き鱧の寿司だ。
まるでウナギかアナゴのようだが、確かに鱧。
初めて食べたけれど、アナゴより美味しいかもしれない。
鱧嫌いの人が嫌がるあのちょっと骨っぽいザラザラした食感が、焼くことによってむしろ心地良いカリカリとした食感に変わっている。
これは絶品!
そうそう。鱧はこんなふうに料理してほしかったのだ。
焼き物は加茂茄子の田楽。
新銀杏がまた色を添えて綺麗だ。
茄子は口の中で柔らかく溶け、味噌もいい塩梅。
割烹の善し悪しを決めると言ってもいいほど存在の大きい椀物は、あわび、水茄子、ゴマ豆腐。
あわびがメインなのだろうけど、ゴマ豆腐のとろとろ感がなんとも美味しい。
ゴマの味もしっかりコクがある。
あとはメインだけだなぁと思っていたら、女将さんが鯛のおかしらを持ってきてくれた。
通常なら身の部分だけなのだが、誕生日祝いということを意識してくれたらしい。
「ご主人がお誕生日とお聞きしましたので、おかしらも添えました。食べにくいかもしれませんけど、二人でつついてくださいね」
そう言ってくれる。
私も彼も「カマ」好きなので、二人でつつきまくった。
うまい。
そして、心遣いが嬉しい。
メインは佐賀牛。
これ以上焼いてもダメだし、少し早くてもダメ。
そういう絶妙の焼き具合で出てきた。
滅多に家では分厚い牛肉なんて出さないので、彼はものすごく喜んでかぶりついていた。
目を閉じて堪能している。
……よかった。
最後にさっぱりとした1品が。
もずくと長芋とおくらの酢の物。
酢の味もきつすぎず、さっぱりといただけた。
もずくがまた旨いんだ、これが……。
ラストはご飯。
香の物と、鱧の炊いたん。
今日3度目の鱧だけど、これがまた素晴らしい。
鱧はこうして炊いても旨いのだ。
最初のお造りで梅肉のことをあれ?と思ったことを反省。
いろんな鱧の食べ方を知っているからこその梅肉だったのだと思えた。
そして、女将さんのアドバイスにより、鱧の炊いたんをご飯にのせ、お茶漬けで食べてみる。
さらさらとかきこんで、あっと言う間に食べてしまった。
旨い~!
デザートは桃と葡萄。
甘くて美味しい。
全部堪能して、二人ともかなり満足した。
やっぱりこの店を選んで間違いはなかった。
お酒もいくつかはいいものをそろえていて(アホみたいに高かったが、そこはまあ、先斗町価格)、二人で2合ほど飲んだ。
彼は何度も「美味しかった」「ありがとう」と繰り返す。
あたたかいお茶を飲んで、ほっこりしていたその時、女将さんがケーキを運んできてくれた。
びっくりする彼。
「お誕生日ということで、奥様からです。お切りしましょうか?」
女将さんが尋ねても、彼はまだびっくりして声も出ない。
女将さんがケーキを一旦切りに持って行ったら、やっと彼が言った。
「びっくりした……」
本当に驚いたようだ。
サプライズ、大成功!!
まあ、まさかこんな店でケーキが出るとは思わないもんなぁ。
切ってもらったケーキを食べた。
アンリシャルパンティエのケーキだった。
残りは箱に入れてもたせてくれた。
夜の京都の町を二人で歩く。
「こんな美味しいもの食べて、その後、またブライトンホテルに帰れるなんて!」
このセリフを彼はホテルに辿り着くまでに5回ほど言った。
よほど嬉しかったらしい。
ああ、よかった。
最高の誕生日になった。
「よし、帰って飲み直そう~」と二人。
酒飲み夫婦の夜はまだまだ長いのだった。