明日元気になれ。―part2

毎日いろいろあるけれど、とりあえずご飯と酒がおいしけりゃ、
明日もなんとかなるんじゃないか?

欅の木の下で(完結)

2008-07-05 13:32:27 | 仕事
土曜だというのに朝から取材で八尾の方へ。
昨日は堺(北野田)で取材で、毎日長旅だ。
駅のホームで「狭山」という駅名を見て、そういえば高校のときクラブの試合で狭山高校に行ったなぁと思い出した。
あの頃はまだ心斎橋より南の大阪へ行ったことがなく、めちゃくちゃ遠い!と思った。
今は仕事であちこちに行くから1時間半くらいはたいした距離ではないけど。

でも暑い中の移動はしんどい。
駅のホームって必ず階段を上がって下りて…だから、重い鞄(一眼レフや資料)を背負って歩くのは結構きつい。
外回りの営業さんって大変やなぁ…

大阪の北、阪急沿線で育った私には、南大阪は馴染みがなく、同じ大阪でも別世界。
肌に合うか合わないかと言えば、合わない。

これは大阪以外の土地でも同じで、関東なら京王線沿いが好きだとか、この駅で降りるといつも気が滅入るとか、いろいろある。
都会だからいいとか、田舎だからいいとか、そういうのでもない。
なんだろうな…。やっぱり感性に合うかどうか?

今日は近鉄大阪線のある駅で降りた。
少し歩き出してすぐに、あれ?と思った。
なんか落ち着く、この町…。

駅からずっと小さな川が流れている。
いや、川と言ってもキレイなどぶ川程度のもの。
でもその川沿いにずっと桜の木が植えられていて、周りの家もきれいに庭や花壇を手入れしているから、緑がいっぱいだ。

川沿いを歩いていたら山が見えた。
ああ、この距離感。山がこれくらいの距離で見えるとなんだか安心するのだ。

ちゃんと広い歩道があるのもいい。

アスファルトの照り返しが強くて、暑さにぼぉ~っとしてしまいそうだったけど、歩くのはさほど苦痛ではなかった。

取材先は老舗の和菓子屋さん。千坪ある敷地に和風の店舗と庭がある。
お菓子もきちんとこだわりを持って作っていたし、感じもよかった。

庭の離れにある和室に通された。
正座して取材というのも初めてで変な感じだったけど、
とても居心地の良い場所だった。

インタビューが終わり、店舗に戻って撮影。
すべて終了して帰ろうかと思ったら、担当のNさんが声をかけてくれた。
「カキ氷でもいかがですか?」
私の辞書に「遠慮」という文字はない!!
「わ~いいんですか~ありがとうございます~」
といただくことに。

しばらくすると、美味しそうな宇治金時が運ばれてきた。
室内だったのだが、お庭にもテーブルがあって食べられるようだったので、
「外でいいですか?」と聞くと「どうぞ、どうぞ」と運んでくれた。

大きな欅の木の下。
ちょうどいい具合に陰になっていて。
外はうだるような暑さだというのに、この場所だけが涼しい。
宇治金時にスプーンを入れ、口に運ぶ。
濃い抹茶の味と、上手に煮られたあんこ、それに白玉がどれも美味しい。
これを食べただけで、このお店のお菓子はきっと美味しいんだろうなと思えた。

Nさんと世間話をしながら宇治金時をかき込む。(溶けるので)
静かで、涼しくて、なんだか別世界。
この欅は水をやるのに30分もかかるのだとか。
しっかりと広く根を張って、枝が何本にも分かれ、
緑の葉をたくさんつけて生き生きとしている。
この下にいるだけで、パワーをもらえるようだ。

すぐに心を開いてくれそうな気がして、幹に触れて話しかけてみたかったが、
変人だと思われそうだったので我慢した。

でも、きっと「いい欅の木」に違いない。
形も葉の色も、出てくるオーラも、全部優しかったから。

宇治金時を食べ終わると、今度はNさんが庭を案内してくれた。
アーモンド、レモン、かりん、桃、イチジクなどが栽培されている。
これは皆、お菓子に使われるのだ。
アーモンドの木なんて初めて見た。

とても素敵な場所で、もう少しいたかったが、そろそろ帰ることに。
すると、Nさんが「お願いごとを書いていってください」という。
何かと思ったら、七夕飾りが。
短冊をもらい、願い事を書いて笹につるした。

 『家族や周りの人が健康で、毎日楽しく過ごせますように』

Nさんに「お書きになられました?」と尋ねると、
「いえ、まだなんです」という。
それから、「書くなら、世界平和ですかね。最近は物騒な事件が多いので」
とおっしゃる。
周りの人間のことしか考えていなかった自分を少し恥ずかしく思ったが、
こんな人がいるんだから、世の中はまだ大丈夫、という気にもなった。

「お気をつけて」
と見送られ、和菓子屋を出た。

一歩敷地を出たら、暑くて汗が一気に噴出してきた。
Nさんが言っていたことを思い出す。
「ここは涼しいでしょう?下が土だからですよ」
アスファルトはやっぱり照り返しがきついんだなぁと実感。
土の上はなんて涼しいんだろう。

土と木陰のある暮らし。
日本人は一体いつから捨ててしまったのかな……

スーツにパンスト、重い荷物、噴出す汗をぬぐいながら、
不自由な私はアスファルトの道を歩く。

欅の木の下で過ごした短い時間が、なんだか夢のようだ。
とてもよい出会いだった。