昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

昭和少年漂流記:第五章“パワーストーン” ……24

2014年04月09日 | 日記

第24回

心ここに在らずに見える高山の表情に、めぐみはその視線の先を追う。高山の目は、めぐみの隣席のハンバーグに注がれているようだ。ナイフの先がハンバーグの上の半熟卵に入り、ゆっくりと黄身が流れ出ている。

「お腹空いてるの?何か食べる?」

高山の視線を遮るように顔を覗き込む。

「ううん。大丈夫」

高山は笑顔を返してくるが、目は笑っていない。

「さて、そろそろ行こうか?」と、つと立ち上がる。

「え?!どこに?」

めぐみはふと意地悪をしてみたくなる。

「どこに?って、帰るんだよ」

「どこに?」

「どこに?って?」

「だから、どこによ?」

めぐみは動こうとしない。

「何言ってるんだよ。……あ!昔の……」

高山は気付き、苦笑いをしながら、ストゥールの端に尻を乗せる。

「懐かしいけど、こんなところで……」

めぐみの耳に囁き、腕を引き上げる。

めぐみ20代、高山が30代の頃、夜遅く落ち合い、軽い食事を済ませ、馴染みのバーに行った後、帰り際にいつもしていたやり取りだった。

その頃はそのやり取りが楽しく、つかまらないタクシーを求めて行きつけの店を転々としている間、店を出る度に交わし、次の店に向かう道すがらにも交わしていたものだった。

そしてお互い、そんなやり取りがあることがお互いの距離を保つ助けになっている、と微かに意識していた。

「じゃ、行こうか!」

めぐみが立ち上がり、高山に微笑んだ顔を店内に巡らす。

「ここは、俺が……」

レジ位置を確かめ、高山はめぐみの背中をそっと押す。

「ごちそうさ・ま!」

めぐみがトートバッグを肩に掛け、先を行く。大きく左に傾き、いかにも重そうだ。

「持とうか?」

2~3歩追いかけ、声を掛ける。

「大丈夫よ」

肩越しに振り向いためぐみの目と合目がう。トートバッグに掛けようとしていた高山の手が止まる。

「じゃ、ここで」

そう言うと、高山はレジへ、めぐみは反対の出口へと別れて行った。

                                *次回は4月11日(金)予定    柿本洋一                           

*第一章:親父への旅http://blog.goo.ne.jp/kakiyan241022/e/84e40eba50c5c6bd4d7e26c8e00c71f7

*第二章;とっちゃんの宵山 http://blog.goo.ne.jp/kakiyan241022/e/f5931a90785ef7c8de01d9563c634981

*第三章:石ころと流れ星http://blog.goo.ne.jp/kakiyan241022/e/0949e5f2fad360a047e1d718d65d2795

*第四勝:ざばぁ~~ん http://blog.goo.ne.jp/admin/editentryeid=959c79d3a94031f2e4d755a4e254d647

 


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