やむなく禁煙を始めて半月になる。
タバコを吸う姿でいちばん魅力的だったのは、男性ではわたしの父だった。
わたしが小学生の頃、父が吸っていたのは、たしかピースの両切りでそのあとショートホープになったと記憶している。
昔は「紫煙」と言われた如くタバコの煙はブルーがかった紫色で、その不思議なくゆり方を眺めているだけで夢の世界に誘いこまれるような気がしたものだ。
父が時々作ってくれる煙のドーナツみたいな大きな輪っかや、ポポポポと頬を突きながらオートメーションみたいに出てくる小さな可愛い輪っかを手品のように楽しんだものだ。
とりわけ仕事をしているときのタバコの持ち方と煙の吐き方に、本当にすてきな大人の男を感じたもの。
タバコを吸う姿でいちばん魅力的だった女性は、母の母(わたしの祖母)である。
墨田区向島の大きな質屋のおかみさんだった祖母は、タバコ盆を前に下町のキップ(気風)のよいきれい好きな人で、かなり年取ってからもきちんと毎日自分の部屋を掃除し、ビシっと着物を着て、空いた時間に美味しそうにタバコを吸っていた。
わたしがタバコを吸うようになったのは大学2年の夏くらいから。
合唱の合宿の休憩室で練習の合間に湖を眺めながら吸うたばこは最高だった。
それが発覚?したとき父は「吸い過ぎないように注意しなさいよ」と言っただけだったし、
母も同じであまり強く止めなかった。たぶん母もタバコの煙が好きだったと思われる。
若い頃、「若いうちの通り道」みたいのように、一緒に喫煙していた仲間(主に男性)たちも、殆どが今はやめてしまった。
日本人の肺も健康的になり、クリーンな空気の国になっていくのだろう。
それはいいことだ、うん、いいことなのだ。もうすぐまた値上げもあることだろうし。
タバコを吸う時のちょっとアンニュイというかデカダンティックな気分を捨てて、生きてゆくのはきっといいことなのだ。
70,80歳になってもタバコを吸う姿の魅力的な女性をめざしていたのだけれど、体の事を考えればこれはいいことなのだ。
この頃は、ろくさんが隣で吸ってもあまり気にならなくなってきた。
一番吸いたくなるのはひとりで考え事をしているとき。
↑イチジクの甘煮。柔らかい歯触りと自然なピンク色のシロップが抜群!
この季節の定番であります