今日は五節句のひとつ『重陽の節句』です。
重陽の節句は、平安時代の初めに中国から伝わりました。古来中国では、奇数は縁起が良い「陽数」、偶数は縁起の悪い「陰数」と考えられていて、陽数の最大値である「9」が重なる9月9日を「重陽」と呼んで節句としました。
実際の重陽の節句である旧暦の9月9日は現在の10月中旬ごろにあたり、
菊が美しく咲く時期です。菊は古来「仙境に咲く霊薬」として邪気を払い長寿の効能があると信じられていて、その菊を行事に用いたために重陽の節句は別名『菊の節句』とも呼ばれています。
さて、重陽の節句には菊の花を浮かべた菊酒を呑んで長寿を願うのですが、さすがに新暦の9月9日に菊の花は咲いていないのでそれも儘なりません。ということで、去年もやりましたが今回もプッチーニの《菊》というタイトルの音楽を聴こうと思います。
《菊》は
ジャコモ・プッチーニ(1858〜1924)作曲の唯一の弦楽四重奏曲です。プッチーニの出世作である歌劇《マノン・レスコー》の作曲に取り組み始めた頃に発表されました。
《マノン・レスコー》の作曲中だった1890年1月にプッチーニのパトロンでもあったアオスタ公アメデオ1世が急逝しため、プッチーニはそのアオスタ公の追悼のために一晩でこの曲を書きあげたと伝えられています。後にプッチーニは、この曲のメロディを《マノン・レスコー》の終幕の場面に取り入れています。
作曲の意図が明確なので、ヨーロッパでは弔事の音楽として用いられています。弦楽四重奏のために書かれた作品ですが、コントラバスを加えた弦楽合奏による演奏もしばしば行われています。
そんなわけで、重陽の節句の今日はプッチーニの《菊》をお聴きいただきたいと思います。2019年に76歳で逝去した指揮者マリス・ヤンソンスの追悼のための、バイエルン放送交響楽団弦楽セクションによる演奏を御堪能ください。
この曲を、昨日薨去されたイギリスのエリザベス2世女王陛下の御霊に捧げます。合掌。