横浜スローライフ -- My slow life in Yokohama

位置情報、地理情報に関するサービス、その他日常生活から思ったことを気ままに記す不定期のんびり日記

コモディティ化の時代

2009年01月24日 23時15分30秒 | ビジネスetc

国内の自動車販売数が落ち込んでいて、2~3月はメーカーによっては工場稼働日を通常の半分くらいに下げるという。

昨年からの金融恐慌のあおりで、皆が財布のひもを縛っていることによる減少幅も結構あると思うが、ベースには、クルマ自体に対する「過剰な購入」が終焉を迎えたことにあると思う。既に2007年末時点で、国内新車販売が前年比6.7%減という数字が既に出ていたし。

若者のクルマ離れ、という表現をよく見るが、別に若者でなく私のようなおじさんだって、冷静に実用性や経済性を考えれば、クルマにことさらお金をかける理由は無くなってしまう。ただ、クルマの市場はものすごくでかいので、クルマにプレステージ性を求める層は、絶対数は減っても一定数はあるから、そこではそれなりのマーケットが成立するだろう。何でも、このご時世でもフェラーリは販売台数が維持されていると新聞にも書いてあった。

ともあれ、クルマにお金をかけるという価値観が廃れてしまうと、これに連れてカーアクセサリーの市場が大きく変わる。筆頭に上がるのがカーナビ。ナビは実用品としての価値は高いが、最近では10万円未満のポータブルナビで実用性が担保できることがわかってしまった以上は、30万円もするナビを購入する必然性は無くなってしまう。

私は、いくらナビが役に立つからと言って、それに30万円もかける行為自体が不思議でならなかった。実用品なら、せいぜい数万円で購入できるべきであって、その価格帯のものが実用性が無いのであれば、その市場自体はまだ成熟していなくて、贅沢品としての部分が多くを占めていると解釈してきた。

そういう視点からは、高額なナビの出荷台数が何百万台...というバブルな状況が10年以上も継続してきたのは奇跡に近い。

今、クルマにプレステージ性を感じる人が少数になった以上、高価格ナビのバブルも崩壊したと言える。本来なら徐々にそれが進行したのだろうが、たまたま金融恐慌が重なって、劇的に進行したに過ぎない。この金融恐慌が落ち着いても、マニアを相手にした一部の高級ナビを除き、以前のようなプレステージ性で売れる商品では無くなって、コモディティ(実用品)になっているだろう。

今まで高額ナビに依存していた企業は、バブルがあまりにも長かったために、さながらゆでガエル状態だ。成功体験が忘れられず、ポータブルナビを「安かろう悪かろう」と軽視して、「収益重視」とばかりに過剰品質の高額品に注力していたら、この先の企業生命は無い。劇的な構造変化を直視し、それにどれだけすばやく対応できるかで、生き残りや次の成長がかかっている。

ナビほどの市場規模ではないけれども、私がかって在職していた地図会社でも似たようなことがあった。その会社は80年代半ばから90年初頭にかけて出版道路地図の表現技術で顕著な実績を挙げた。「きれいで見やすい地図」と評されるが、その実は「情報量を増加させてもノイズとならない表現技術」がもたらす印象であった。そして、その会社はやや高めの価格設定でありながら、強い商品力によって指名買いされてグングン売上を伸ばして行った。

残念なことに表現技術というものは真似されやすいし、著作権としてグレーゾーンで守りにくい。他社が表現技術を模倣するまでには年月はそれほどはかからなかった。いつの間にか、出版道路地図は全て似かよったものとなり、市場に溢れるようになった。「きれいで見やすい地図」はその会社の専売特許でも何でもなく、コモディティになったのだ。コモディティのフェーズになったら、それ以上「きれいで見やすい地図」づくりのための投資を行ってもリターンはほとんど期待できない。

だが、過去の成功体験は組織の感受性を鈍磨させる。市場では商品力の差が見えなくなっても「うちが一番きれいで見やすいから売れるはず」「うちこそ一番商品力のある地図が作れる」という論理が組織を貫き通してしまいがちだ。

私は、90年代に企画営業や新規事業開拓に従事していた。

最初は「きれいで見やすい」で優位に仕事を進められたが、程なくして、それだけでは出版道路地図でそれが通用しなくなり、続いて、有力なライバルが少なかった電子地図市場ですら、優位性を維持することが次第に難しくなっていることを感じるようになった。そして、別の方向で事業性を見いだしていかないと大変なことになると心配し、システムやサービスの中で使われやすい地図作りが必要だと思うようになった。コモディティ化しつつあった地図市場は、それまでの理屈が通じないものに変質しつつあったからだ。

冷静に市場を見ていれば、供給過剰かつ縮小傾向の出版道路地図分野に巨費を投じるというトンチンカンな経営判断はあり得ないのだが、私が退社して2年ほど経ってからなされた決定は、その「あり得ない」ものだった。その結果がもたらしたものは、出版道路地図市場からの退場に留まらず、2004年末の経営破綻だった。当時のマネジメント達には、このレベルのマーケティングすらできていなかったことになる。


さて、時代を今に戻そう。

Googleが地図をWebの中に取り込んでしまってから4年近くが経った。その後、乗換案内やストリートビューなど、「地図」以上の要素を追加している。しかも、多くが無償で使えるAPIとして開放されている。Googleによって、地図と周辺機能のコモディティ化(日本語的には”ユニクロ化”と表現した方がわかりやすいかも)が大きく進んだ。

結果として、Googleの地図がなかなか更新されなくても、意外に情報量が少なくても、色づかいが大味で判別性に劣っていても、"検索エンジンと連動していてそれなりに使えるレベルであれば、他に多少優れたものが存在していたとしても、多くの人はそこに集まってしまう。私のように地図に一定のこだわりがあれば、複数の地図サイトを比較したりするが、そういう愛すべき物好きは10%もいないだろう(逆にこのブログの読者には多いと思うけど...)。

残念ながら地図の世界には、クルマと違ってプレステージな市場も無いので、Googleと類似の分野で事業の有効性を見いだすのはかなり困難だ。その代わり、業務用途に特化するとか、地図そのものではない周辺領域を事業テーマとする必要があるだろう。いずれにしても事業成立は容易ではない。業務用途はGoogleMapsAPIを使えば結構なことができるので、期待するほどには市場は出来上がらないし、カーナビはGoogleが”まだ来ない”分野として有効だったが、上で述べたとおりの状況である。

市場がコモディティのフェーズになったら、それまでは先進性や専門性で食べてきた企業は路線を大幅に転換しなければならない。地理情報分野は、それ自体がコモディティのフェーズになった。株式投資で昔の値段を覚えていては失敗してしまうように、現実に即した対応のみが価値を持つようになる。

地理情報分野のプレーヤーは、良く言えばおっとりと、悪い表現では鈍感に構えているところが多いので、果たして激動の今年一年、どう対処できるだろうか。と、勇ましく書いてみた私も、その中の一人なんだけど。


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3 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
カーナビ使ったことないんですが。。。 (Masaki Ito)
2009-01-25 15:48:44
カーナビ(それはもはやハードウェアではなくSmartPhone上のソフトウェアかもしれませんが)は,人の行動を制御してしまう魔法の道具でもあるので,米国で3Gネットワークが十分に広まれば,広告モデルを基本に様々な試みが出てくるかと思っています.今はdash(http://www.dash.net)が出てきた程度ですが,インターネットの普及初期に行われた,広告を前提とした端末の無料配布などもカーナビにおいてはあり得るモデルかも,などと妄想しています.ネットワーク化が進んで,リアルタイムで地理情報を提供するプラットフォーム化が実現すれば,Web広告以上に効果のある媒体だと見なされる時代も来るかと思っています.
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パラダイムのチェンジ (moritoru)
2009-01-25 22:34:31
そうですね。コモディティ化の行き着く先は、ユニクロを通り越して100円ショップあるいは無償モデルです。
人の移動=位置情報に付随したコマースは、大手ポータルならみんな狙っていますね。それはそこが間違いなく巨大な市場だからですね。iPhoneだってナビはApple以外に勝手に始められないようになっているし、Googleは地理情報分野をメインビジネスである広告と統合したプラットフォームを作りつつあるし。遅かれ早かれ、カーナビ分野も、大手ポータルの一部にマージされていくでしょう。
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カーナビの未来 (玉置三紀夫)
2009-01-26 10:43:12
意外かもしれませんが、カーナビよりもPNDが苦境に陥っています。PNDの代名詞であるTomTomは株価急落で存続が危うくなっています。NavteqやTelatlasなど地図会社の買収事案も白紙に戻るかもしれない事態になっています。

世の中不況になるとオプション製品の購入から見合わせる傾向があります。クルマは必需品だから買い換えるがナビは景気が良くなってから、もしくは中古品で代用となるのです。純正品は車の生産台数に左右されますがゼロにはなりません。オプションは急激に落ちる可能性があり、どんな製造業でも予定より20%も生産が落ちたら黒字は維持できません(10%が限界という説も)。

カーナビに対する不満はユーザーインターフェースにあります。何故いちいち視線を走行方向から外さないと指示が見えないのか疑問です。まっすぐ前を向きながらナビの指示が見られるように改善すべきです。技術がありながらトライしないのは(理由が一杯あることは承知していますが)、やはり生産者の怠慢です。これらをクリアしない内に技術の限界が来ているみたいな発言をするベンダーや評論家は信用できません。
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