横浜スローライフ -- My slow life in Yokohama

位置情報、地理情報に関するサービス、その他日常生活から思ったことを気ままに記す不定期のんびり日記

FOSS4G PDX話 その4 「ポートランドについて」

2014年09月14日 00時50分54秒 | OSGeo/FOSS4G
 今回のFOSS4Gカンファレンスが開催されたのはオレゴン州のポートランド

 これまでに何回(何十回になる)アメリカを訪問しているが、私が生まれて初めてこの国を訪れたのは1999年。最初に降り立ったのがここポートランドだ。私にとっての最初の「目にしたアメリカ」はここの空港だ。

 当時私は名古屋に住んでいて、名古屋空港からアメリカ西海岸に行くには、(ノースウエストを買収する以前の古い)デルタ航空の名古屋ーポートランド便しか選択肢がなかった。その時は、西海岸ではなく、ここから乗り継ぎでジョージア州のアトランタに行き、さらに乗り継いでニューヨーク州のオルバニーにあったMapInfoコーポレーションを訪問した。合計で20時間を超える道のりは、当時まだ30代半ばと若かったけれども、とにかく本当に疲れたことを思い出す。

 その翌年、フロリダ半島のリゾートホテルで開かれたMapInfoのカンファレンスに参加した時も、このポートランド経由だった。帰国便はトランジットの関係でポートランド市内で1泊したのだが、時差の中無理して仕事をしていたため、体調を崩してしまった。帰国してすぐに肺炎で一週間少々入院した苦い思い出がある。実はそれが、私が転職をして名古屋を離れるきっかけになった。

 ポートランド空港は比較的コンパクトで、清潔で、内装のセンスも気に入っている。当時、ポートランド空港は、英語がほとんどできない日本からの観光客が大量に別室送りになって送還させてしまう入国審査で悪名高かった。名古屋ーポートランド便が廃止され、名古屋ーロサンゼルス便に替わってしまったのも、それが理由の1つだろうとwikiペディアに書かれているくらいである。ただ、この街自体がそういう排他的なカルチャーがあるのでは無く、むしろ逆のようである。

 ポートランド空港からはMAXというトラムで市内各地にアプローチできる。日本人旅行者の視点からは、とても便利でありがたい。西海岸では、この他サンフランシスコも公共交通機関が発達していて、タクシーやレンタカーを使わなくても比較的広範囲に移動ができる。ポートランドとサンフランシスコに共通するのは、ダウンタウンがまだ機能していることだ。それは、都市の性格もあるし、それを維持させようという都市の政策もあるだろう。私はそういう都市が好きである。

 今回、実に15年ぶりのポートランド。アジア便がデルタの成田便しかなく、そのデルタも機材はB767なので、旅客数も限られている。西海岸の他の主要空港と違いDFSも無いし、国際空港と言うにはいささか寂しい。でも、このくらいの閑散具合が私は好きだ。ちょうど東京都内の喧噪よりも横浜の空の広さとやや田舎っぷりが好きなのと同じである。今回は、慌ただしくて街歩きや観光をする時間は全く取れなかったが、自然条件にも恵まれた良い街のようだ。また次に訪問する機会があったら、少し足を延ばしてみたい。


FOSS4G PDX話 その3 「往年のプロジェクト」

2014年09月12日 19時33分10秒 | OSGeo/FOSS4G
 2004年9月に私がバンコクで開催された最初の「FOSS4G」に参加してから、丸っと10年が経った。OSGeo財団の設立は2006年ではあるが、2005年にミネソタ州のミネアポリスで開催されたMapServerのカンファレンス、2006年にスイスのローザンヌのFOSS4G、さらに2007年にカナダのビクトリアにも参加し、翌年の2008年の皆にアフリカのケープタウンを除いて、私はずっと参加している。見ていると、FOSS4Gの世界には流行り廃りがあるが、その中にあって、「インフラとして」の存在にまでなっている歴史の長いツールがいくつかあることがわかってくる。

 その代表的な存在は、クライアントソフトウェアのGRASS(1982年から)とQGIS(2002年から)、地理データ可視化エンジンのMapServer(1994年から)とGeoServer(2001年から)、そして空間DBのPostGIS(2001年から)である。これらはいずれも10年以上の歴史があり、開発チームもしっかりしていて、利用者数も膨大で、オープンソースであるかないかを問わず、地理空間情報の世界のインフラとしての存在になっている。多分、この先まだ10年という単位で利用され続けるだろう。

 今回のカンファレンスでも、それぞれの開発プロジェクトの「顔」達が1年間の機能追加や改良の報告をするセッションを持っている。今年の場合、GRASSはMarkus Neteler、QGISはPilmin Kalberer、MapServerはSteve Lime、GeoServerはAndrea Aime、PostGISはPaul Ramsey、少しこの世界にいるならば名前は知っているはずだ。そしてそれぞれのプロジェクトの往年のコアメンバー達が顔を揃える。壮観である。しかも、それぞれのプロジェクトは着実に進化している。例えば、GRASSにはついにモデラー機能が追加されたし、QGISはリアルタイムのレンダリングができるようになったし、MapServerはUFT Gridに対応したし、ヒートマップも生成できるようになった。

GeoServerとGeoToolsの顔はAndorea, Jody, Justinだ。

 ちなみに、GRASSとQGISは北米よりも欧州で盛んなので、セッションの参加者は昨年のノッティンガムに比べると少ない。一方、MapServerとGeoServer、そしてPostGISは北米に開発メンバーが多いことから、今回は参加者が多い傾向がある。そのため、昨年のノッティンガムがまるで「QGISカンファレンス」に感じられたのとは違い、今年は特定のツールに人が集中する感じはしない。

 それにしても、開発プロジェクトを長く担ってきたメンバーに、私は心から敬意を表明する。決して華々しくなく、むしろ地味な開発の連続で、ストレスも半端ない。利用者の中には無償のサポートが得られると勘違いする人もいるだろうし、開発者の苦労を理解せずに好き勝手に批評する人もいるはずだ。そして、プロジェクト自体が、その時の流行の荒波を乗り越えなければならない。技術面だけではなく、個性豊かなエンジニア達をまとめるという点で人間面でもいろいろ試される。

 そして、市場経済の中でのオープンソースプロジェクトである。10年という単位で開発プロジェクトを続けていくのは、とりわけ財政面で並大抵のことではない。

 MapServerを例に取れば、最初はミネソタ大学が政府からの資金で作り、それをカナダのDM Solutions Group(Jeff McKennaやDaniel Morisetteはここの出身)が商用で使えるレベルまで機能拡張して、今は主としてDaniel Morisetteが作ったMapGearsという企業が開発の主体を担っている。GeoServerも、ニューヨークのOpenGeo(現在の社名はBoundless)が主体となっていて、PostGISはビクトリアのRefractions Researchが初期の開発を行い、その後責任者のPaul RamseyがOpenGeoに移ったこともあり、OpenGeoが主体になっている。このように資金を継続的に提供できる仕組みを作ったプロジェクトが「持続可能」になる。

 時々誤解があるが、OSGeo財団は「財団」という名称からか、資金豊富と見なされることもある。残念ながら実態は全然違い、資金面では楽ではない。ボードメンバーは全員、無報酬でやっている。それでも、サーバーなどのインフラなど、経費はそれなりに発生する。年に一度のFOSS4Gカンファレンスの収益の50%を得ることで、何とかまかなえていける(注:日本支部とは完全に別会計)。このカンファレンスが南半球(ケープタウンやシドニー)で開催されると、参加者数が伸び悩むのと、スポンサー企業が減るので、その翌年の財団の運営は厳しい。来年はソウルで開催されるが、「極東」は欧米から果てしなく遠い。OSGeo財団日本支部としても参加を広く呼びかけるが、海外からの参加者数がどこまで伸びるか、欧米のスポンサー企業がどのくらい出るのかは予断を許さない。

 このように、オープンソースプロジェクトには、テクノロジーが大事であるのはもちろんであるが、持続可能な仕組みづくりが最も大切で、それは人とお金の両方、つまり「組織運営」そのものの問題をクリアできたところだけが成長し続ける。往年のプロジェクトからは、ビジネス的な視点からも学ぶことが実に多い。



FOSS4G PDX話 その2 「CartoDB」

2014年09月12日 12時20分06秒 | OSGeo/FOSS4G
 CartoDBをご存じだろうか。
スペインのマドリッドで創業し、事業拠点をニューヨークに置く新興企業だ。
日本では、この世界にいる人からもまだあまり知られていない。

 私は、昨年9月にノッティンガムで開催されたFOSS4Gで、その存在に釘付けとなった。当時、クラウドサービスとしてのGISを目にするようになっていた。MapBox(これをGISと呼んで良いかどうかは人によって違うが)が国内でも話題になってはいたが、CartoDBは当時(多分今でも・・)日本では全然注目されていなかった。私はクラウドベースのGISに興味を持っていたので、それに関するセッションを探して聴きに行ったら、その部屋にChris Holmes(GeoServerのファウンダーでOpenGeoの社長だった)がいて、彼はこの会社のアドバイザーをしているのだという。スペインの企業をChrisがアドバイザーとして参画するというだけで、これは何かあるに違いないと確信した。そして、社長のJavierを紹介してくれた(私と色違いのIncaseのバックパックを持っていたのですぐに打ち解けた)。

 それ以外、Javierとは何度かメールでやりとりしていたが、ちょうど1年後の今回、ビッグニュースが飛び込んできた。USD8M(8億円あまり)の資金調達に成功したという。TechCrunchのニュースは日本語訳があるが、どうやらあまり彼らのビジネスを理解していないようで中身がない。一方、こちらのニュースは英語だが、Javierの言葉も掲載されていて、彼らの目指すところが何であるかを理解するには適している。


 昨年、私はJavierに、オークニーがセールスフォースから出資を受けてクラウドサービス事業に転換したことを話をした。Javierが、「セールスフォースか・・・とても興味深い」と話をしていたのを覚えている。この話が彼にそうさせたのかは確認していないが、CartoDBはは今年10月にサンフランシスコで開催されるDreamforce14(セールスフォースの年に1度のイベント)に出展もするという。

 時代は1年で様変わりする。オークニーと違い、CartoDBはデータと地図を繋ぐ「地理的可視化サービス」にフォーカスしている。日本国内だけでは、このマーケットはそれほど大きくはないが、グローバルで考えた場合は、「カラフルなロングテール」の積分値でもあり、かなり大きくなる。8億円のリターンがどのくらいになるかはわからないところだが。

 ところで、FOSS4Gカンファレンスはテクノロジーフォーカスだ。今回の参加者でスーツを着ている者は皆無。女性比率は1~2%(苦笑)。ランチテーブルでも、「こいつら何だ?」と笑えてくるくらい、ポリゴンとかレイヤスタイリングとかJavaScriptとかの単語しか聞こえてこない。いや、これはこれでジオ系のエンジニアにとってパラダイスなんだが。一方、私のようなビジネス指向の参加者はちょいと肩身が狭い。

 GartoDBは、今回ゴールドスポンサーになっているので、複数のセッションを提供している。既にいくつか参加したが、満席と言うにはほど遠い。オークニーがFOSS4GTokyoで自社サービスを説明しても、エンジニアの関心対象ではないのと同じことだ。でも、私にとっては、FOSS4Gにルーツを持つ企業が成長していくことは、心から嬉しい。確かにFOSS4Gはテクノロジーではある。しかし、そのテクノロジーを支える持続可能な資金供給源として、企業が成功していくことはとても大切なことだと思っている。その意味で、CartoDBの成長を期待している。

FOSS4G PDX話 その1 「LeafletとOpenLayers」

2014年09月12日 01時29分29秒 | OSGeo/FOSS4G
 いきなりツールの話になるが、しかしながらツールの話ではない。

 Leafletは2008年にOSMコミュニティーのコアメンバーがVCから出資を受けて設立したCloudMadeという会社の社員が作った。当時、Webで地図と言えば2006年に登場したOpenLayersが定番であったが、当時22歳の若者だった開発者(Vladimir Agafonkin、現在はMapBoxに在籍)にとって、OpenLayersは多機能過ぎて動作が遅く、メモリを消費するものとしか映らなかった。Leafletと名前をつけてオープンソースとなったのは3年後の2011年。私が初めてLeafletの存在を知ったのは、その年にバルセロナで開催されたFOSS4Gだ。当初は機能が足りない、動作がまだ安定しないなど、主としてOpenLayersのユーザーからは批判的なコメントもあったが、今やLeafletを採用しないサイトの方が珍しくなるくらいにまで普及を遂げた。

 対するOpenLayersのコミュニティは、Leafletに対抗するために「OL3」プロジェクトを2012年夏に立ち上げ、その最初のリリースが今回のFOSS4G PDXの直前に実現した。ちなみに、オークニーはこのプロジェクトに5000米ドルを寄付している。これは、オークニーが”OpenLayers陣営”にいるからというのではなくて、オークニーの事業が、このFOSS4Gツールによって支えられ、成長してきたことへの少しものお礼と思ってのことだ。

 OpenLayersとLeafletは、開発が始まった時点では3年の差がある。その3年は「パソコンのブラウザで地図を取り扱う」のが最先端だった時代からiPhoneなどの「スマートデバイスで地図を取り扱う」時代への大きな変わり目に位置している。数の上で圧倒的な存在であるスマートデバイスでスムーズな動作をしないツールが生き残れるわけがない。この点で、OpenLayers(Version2)が歴史的使命を終えるのは自明のことと言える。

 そうした技術革新の他に、利用者にも違いがある。

 しつこく書くが、「地理空間情報分野はカラフルなロングテール」である。OpenLayersが光り輝いたのは、Webブラウザでありながら、デスクトップGISツール並みの様々な操作を提供し、しかもOGCのスタンダードなど、様々な形式の地理空間データにアクセスできる汎用性を、従来のGIS利用者が高く評価したからである。「GIS」の利用者は専門家層であり、多機能、複雑さを求める傾向があるが、「OSM」ではそこまでは求めない。むしろ、シンプルさ、動作の軽さのほうが大事だ。利用者の裾野が広いOSMからスタートしたLeafletは、シンプルさを維持しつつも、GISの中でもマスのニーズをうまく取り入れていくことで、GIS利用者の中にも瞬く間に浸透していった。

Leafletの開発者、Vladimir Agafonkin

 今回、Leafletの開発者、Vladimir Agafonkinの講演を聴き、彼がシンプルさとクリエイティブさの二つが大事だと強調したことに、私はとても共感を覚えた。人は成長して学ぶにつれて、シンプルさとクリエイティブさを失うと彼は言う。その通りである。「あれもこれも必要」「無いよりは有った方がいい」「とにかくやるんだ」と意気込むあまりに、「そもそもそれは誰をハッピーにするの?」という人間の根源的な欲求を忘れてしまわないだろうか。僕らは、日々の仕事を通じて、シンプルさとクリエイティブさを維持して、顧客をハッピーにしているだろうか。


FOSS4G PDXについて

2014年09月11日 08時56分06秒 | OSGeo/FOSS4G
 「もし、この世の中がどう変わっていくかがわかったら、どんなに素晴らしいことだろう」と子どもの頃漠然と思っていたのだが、私にはただ一つ「この世界」、つまりGeoSpatialの世界がどうなっていくか、以前から不思議と手に取るようにわかる。

 もちろん、座してネットを検索していてわかるのではなくて、実際に自分が動いてみて、その結果わかるのだ。新しい潮流が、まだほんの兆しでしかない時に、それが大きな流れとなっていく数年前に、そのトレンドが手に取るようにわかる。その昔、電子地図ソフトに全精力を注いだのも、「GIS」の世界に身を転じたのも、「オープンソース」を仕掛けたのも、そして今、私の会社で手がけていることも、いずれも「そうなると手に取るように見えた」からだ。

 残念ながら、人生は一回しかない。そして、複数のことを同時に手がけることはなかなか難しい。今私が仕事で注力していること以外にも、「この世界」がどうなるかが、いくつか見えている。きっと私以外の世界の誰かが手がけるだろうとしか言えない。

 今、FOSS4G PDXに来ている。
FOSS4G PDX

 このカンファレンスは、オープンソースによる地理空間情報技術を取り扱うグローバルカンファレンスで、OSGeo財団が主催して年に1度開催される。昨年はイギリスのノッティンガムで、今年の会場はオレゴン州のポートランド(PDX)である。ここの参加者は、多分最新の技術情報を入手することが主目的だろう。以前から私は言っているが、地理空間情報分野はカラフルなロングテールであり、実に多数のニッチ分野から構成される。そのため、このカンファレンスも、個別のソフトウェアツールとその活用に関する発表でおおむね構成されている。毎年続けて参加していると、人気になる分野が変わっていくのがわかる。一つ一つ(波の高い低いは)のトレンドも見えるが、全体的な傾向(潮の流れ)も見えてくる。

 毎回「今年も来て良かった」と思う。私は技術者ではないが、経営者としても「参加する価値のあるカンファレンス」である。

 残念ながら、今年のカンファレンスは日本からの参加者が3人と、とても少ない。うち一人は「浪速のドイツ人」(^^;)ことダニエルさん。残る一人は私の知らない人のようだ。そこで、参加できなかった人のためにも、私が気がついたことのいくつかを、このブログで簡単に報告したいと思う。