横浜スローライフ -- My slow life in Yokohama

位置情報、地理情報に関するサービス、その他日常生活から思ったことを気ままに記す不定期のんびり日記

OSGeo財団の役員選挙

2010年08月29日 11時54分23秒 | OSGeo/FOSS4G
 OSGeo財団の本家の役員選挙が先日行われ、Arnulf Christl、Daniel Morissette、Frank Warmerdam、Tim Schaubの4名が選任された。
役員はOSGeo財団の運営を行っており、この役員から代表者が選出されている。任期は2年で、毎年半分が改選されることになっている。
再任が認められているので、実績(人気)がある役員は継続して選出される。今回は、ArnulfとFrankが再選された。

立候補するには、まず本人がCharter memberでなければならない。そして、投票権もこのCharter memberにのみある。Charter membermは、これまた投票で選ばれる(私をはじめとして日本人も数名)。

 なお、役員選挙の仕組みはこちらに解説があるので、詳しくはご覧いただきたい。

 今回は、ラガワン先生も立候補されたのだが、残念ながら当選には至らなかった。ここには、OSGeoの運営が、欧米(特に北米)に重きを置いていることが原因で、ラガワン先生の実績や能力とは関連性があまりない。選挙権のあるCharter memberの氏名を見ても、どう見ても英語圏の名前である人が半分はいる。アジア系と思われる名前は数名のみで、この比率が役員選挙にどうしても反映してしまう。

 ちなみに、今回の役員選挙の結果、現在の役員は下記の通りとなっている。
 * Arnulf Christl(ドイツ)
 * Chris Schmidt(アメリカ)
 * Daniel Morissette(カナダ)
 * Frank Warmerdam(カナダ)
 * Geoff Zeiss(カナダ)
 * Jeff McKenna(カナダ)
 * Markus Neteler(ドイツ)
 * Ravi Kumar(インド)
 * Tim Schaub(アメリカ)
 9名のうち、北米が7名、欧州が1名、アジアが1名だ。南米とアフリカからはゼロだ。
 欧州でのFOSS4Gの浸透を考えると、欧州からは3名位いてもおかしくないが・・・

 オープンソースコミュニティは、他のIT産業と同じように、歴史的には発展した先進工業国で発生して、成長してきた。FOSS4Gツールの誕生と開発プロジェクトの運営母体、その後の発展は、北米と西欧を中心とした工業国から始まった。アジアにおいては日本での普及が欧米型に近いものの、他の諸国はITそのものが民生分野に普及するのが遅れがちで、結果的にFOSS4Gツールを推進するローカルコミュニティ(=OSGeo財団の各地域支部)も未熟である。こうした傾向が残る限り、役員選挙における北米の圧倒的優位は続くだろう。
 
 それから、言葉の問題がある。日本でのコミュニティ運営には英語はまず不要だ。英語を使うフェーズは、日本語を理解しない相手がいた時だけである。だから、英語圏の人からは、「日本のOSGeo財団ってHPを見ると(読めないけど)結構活発そうだけど、いったい何やってるのだろう??」という風で、”透明性”が結果として下がってしまう。「では、積極的に英語で発信したらどう?」という意見もあろうが、すべての活動を英語で発信したら日本では活動は成り立たないし、イベント的なところだけを英語のメーリングリストで書く程度では、インパクトに乏しく現状の打開にはほど遠い。

 これは中国でも韓国でも同じだろう。例えば、中国支部はHPでその活躍を垣間見ることができるが、日本人なら漢字がある程度読めるのでまだ理解できるが、英語圏の人には写真を見て様子を想像するしかない(ここでもラガワン先生が活躍!)。結果的に、コミュニケーションは地域単位に閉じてしまう。

 そこで、日本支部では、毎年のFOSS4G Tokyo/Osakaで、「本家」のキーマンを招き、そこでの日本支部のメンバーとの交流を通じて、活動をPRしている。幸い、日本は貨幣価値が高いので、こうした招聘は他のアジア諸国よりも費用面でのハードルが低いし、日本経済の諸先輩の尽力のお陰で、日本そのものへのイメージが良いので、はるばる遠く極東まで喜んで来てもらうことができている。また、例年のFOSS4G(本家の)カンファレンスで開かれる、OSGeoの年次総会で、日本支部の活動をスライドにまとめて簡単に報告している。その場を通じても、日本支部の活動はOSGeo財団の活動の一部として、適切な認知が得られるよう努力している。

 来月6日から9日までバルセロナで開催されるFOSS4G2010は、私にとっては、OSGeo財団の支部と本部、支部と支部が直接交流できる年1回の貴重な場でもある。

 

FOSS4G2010 Tokyo/OsakaにPostGISのPaul Ramseyが来演

2010年08月20日 10時12分50秒 | OSGeo/FOSS4G
 OSGeo財団日本支部が主催するイベント「FOSS4G2010 Tokyo/Osaka(東京11/1~2、大阪11/5~6)」のゲストスピーカーとして、PostGISコミュニティの責任者であるPaul Ramsey氏が決定した。

 Paul Ramsey氏は、カナダのビクトリアの在住、の社長として、会社を成長させると共に、オープンソースの空間データベース拡張ツール「PostGIS」の開発プロジェクトを2001年の黎明期から牽引してきた。その後、社長業を退き、フリーランスでGISコンサルタントとして活躍し、ここ2年ほどはOpenGeoのメンバーとして、引き続きPostGISコミュニティを取りまとめている。

 と、彼の経歴を書くまでもなく、PostGISが無かったら、FOSS4Gのこれほどまでの普及も無かったであろうし、セカイカメラも含め、最近我が国でブームとなっている「ジオメディア」系のサービスの高機能化も実現しなかったであろう。とにかく、彼の功績は特筆すべきものがある。

 彼を日本に招待したいと前々から計画していたのだが、日程が合わずにこれまで実現しなかった。昨年シドニーで開催されたFOSS4G2009の場で、私が彼に直接「来年は日本にぜひ来て欲しい」と要請して、ようやくこの話が実現する運びになった。

 そういえば、このシドニーでの彼の基調講演は、超一流のエンターテインメントだったのは皆さん覚えているかな?(あ、それとジオメディアサミットでシドニーからリモート出演した”変な外国人達”の中に彼がいたことも)

 ということで、皆様こうご期待!

ジオ分野で始まった動き

2010年08月17日 15時50分51秒 | 地理情報関連
 位置情報連動広告サービス提供を行う(というよりもジオメディアサミットの主催会社と表記した方が知られている?)シリウステクノロジーズが、ヤフーに買収されたというニュースが流れて話題になっている。

 位置情報に連動した広告サービスという概念は、私が2000年にMapInfoという米資本の企業に就職した際に、本社で行われたLBSについての説明にも掲載されていたので、アイデア自体は目新しくはない。また、2001年のアメリカのITバブル崩壊直前までは、LBSプラットフォーム分野の様々なベンチャー企業が、位置情報連動広告機能にも言及しており、実装技術という点でも、一通り枯れた分野である。ただ、当時は利用環境(デバイスとネットインフラ)が未成熟で、それが故に、ベンチャー企業は自らサービス提供者となるのをあきらめ、通信キャリアやインターネットポータルサイトに対して、自社の技術やプラットフォームを販売することによって、事業を成立させようとしのぎを削っていた。しかし、市場がなかなか見えないうちに、ITバブル崩壊になってしまい、その後しばらくトンネルに入ってしまった。

 そして、日本ではどうかというと、携帯電話の分野は通信キャリアがサービスの流れまでを独占する状況がごく最近まで続いていたので、キャリアの協力(というか統制)無しには、どんな可能性のあるサービスでも実現できなかった。実際には、アメリカのLBSプラットフォームベンダーが、日本の携帯通信キャリアに何度も売り込みに来ていたし、そのお手伝いも私自身していた(注;オークニーは設立当初は食うためにこういう仕事もしていた)のだが、それは成果の出ない苦労であった。

 シリウステクノロジーズは、キャリアの役割が変化する兆しが見え始める中、日本における位置情報連動広告サービス提供にテーマを絞って事業展開を行ってきた。私がそれを知ったのは、今からわずか2年少々前に過ぎないのだが、2001年頃のアメリカを知っているが故に、この分野はベンチャー企業が手がけるにはいずれ無理があると、うすうす感じていた。インフラが黎明期であれば、通信キャリアがすべてを握っているし、それがオープンになれば、巨大資本のサービス事業者がフルラインアップサービスの一環として自らにそれを取り込んでしまうのは必定だからだ。賢明な経営陣は、おそらく早い段階からそれには気がついていて、どうしたら企業価値を高くできるか、どのタイミングで事業売却をするかを熟慮してきたのだろう。2010年のまさに今ならば、ヤフー(@日本)のようなインターネットでのフルラインアップサービスプロバイダが、その買い手としてベストマッチだ。


 さて、この件、何故私のブログで書き始めたのかというと、単に”よく知ってる会社”だからというのではなく、一連の動きがまさに始まったな、と感じ、それに言及をしておきたいと思ったからだ。

 この、「一連の動き」とは、ひとことで言えば、サービスプロバイダがテクノロジープロバイダ(あるいはテクノロジーホルダ)を買収することやグループ化する動きが、いわゆるジオの分野で進むということだ。

 ジオメディアサミットの熱狂とも言える関心の高まりが象徴するように、あらゆるネットサービスは「ジオ」を自らのモノとして取り込まないとそれが弱点になってしまうことが予想される。今はまだこの課題を深く見極めることなく、単にジオ=Googleマップと思っているプレーヤーもあるかもしれないが、真剣にサービス強化を考えれば考えるほど、そのレベルでは圧倒的に足りないことがわかるだろう。技術者を採用して自前のチームを作るには時間がかかりすぎる。そうなると、外部にその力を頼ることになり、具体的には日本国内で、ジオについてコアテクノロジーを持った企業を探す流れになろう。これはと思う会社に出会えば、会社ごと買収して、ライバルに対する優位性を確保したいと思う企業も出てくるだろう。

 なお、日本はアメリカと違って、企業の完全買収はそれほど一般的ではない。従って、業務提携レベルにとどまるものが多く、今回のような派手な事例は少ないかもしれないが、それでも”本気”の買収事案は、これから間違いなく発生するだろう。

 先日、「GISとジオメディアの断絶」という話題について触れたが、ジオメディアのプレーヤーにとって、ここでGIS業界が持っている技術が頼りになってくる。ただし、GIS業界と言っても、日本の場合は測量技術や地球観測・解析技術の比重が高くて、コンテンポラリーな意味でのITをベースとしたチームは、私の知る限りでは多数ではないし、さらにコアテクノロジーと呼べるモノを持っている会社ってどれだけあるのかな?? ってのが現実。ある意味でそれこそがリアルな「断絶」なのかもしれないが・・・

さあ、明日からまた仕事だ。

2010年08月15日 23時31分29秒 | スローライフ
 今年の夏は一週間の休みをとった。その夏休みも終わろうとしているが、とにかくこの暑さに参ったなぁという印象ばかりが残っている。もともと、酷暑で知られる名古屋に30年以上も住んでいたので、夏には慣れてはいたはずだが・・・

 この休みを機会に、たまっていた片付け仕事でもこなそうかと思っていたが、結局は帰省に3泊4日費やし、残りは休息の睡眠(昼寝)に取って代わったり、息子達との団らんに使ってしまった。結果的に「(業務用の)トラック」(MacBookAir)を使う回数が極端に減り、大半はiPad(宅内)かiPhone(移動中)でメールチェックやWebアクセスを行う程度であった。これらiPadにしろiPhoneにしろ、息子達は瞬く間に使い方をマスターして、ふと私が気がつくと、Webブラウジングやアプリの利用で持って行かれてしまっていた。PCと違って、使い方に習熟する必要がない機器は、これほどまでにネットそのものを生活に溶け込ませてしまうのかを改めて感じた。

 さて、この休み中、もう一つの「トラック」(WindowsPC)の修理をした。このマシンは、昨年夏にMacへ移行するまでは、自宅での業務メインマシンとして活躍していた。古いメールや、Windowsでしか動作しないアプリケーションがあるので、月に1度位利用をしていた。それが、先日から起動途中にストップしてしまうようになっていた。今回、マシンを取り外してふたを開けてみて、その理由がわかった。何かの衝撃でCPUファンが外れてしまっていたのだ。そのため、起動してすぐに高温となり、保護回路が働いていて止まっていたのだ。早速CPUファンを取り付け直したら、無事起動するようになった。

 Windowsマシン(というか自作PC/AT互換機)の良さは、こんな感じで自在にメンテができることである。そのための補修パーツも結構揃えてある。私がハードウェアのメンテナンスを担当している自宅マシンはこれを入れて5台がまだ現役なのだが、大体年に数回どこかが調子が悪くなって、手を入れている感じだ。ただ、最近はそのメンテが億劫になり、Macのような「完成された利用環境」のお手軽さを知ってから、どうも気合いが入らない。しかし、Macは単一の会社が販売している製品であり、その会社の方針変更一つで、この利用環境がこれ以上保障されないかもしれない、というリスクがある。なので、PC/AT互換機を捨て去ることは自分はする気はない。PC/AT互換機の場合、OSにはマイクロソフト以外にLinuxなどのOSが選択できるのでとても開かれた利用環境だ。

 そういえば、OracleがSunを買収した悪影響が、OpenSolarisプロジェクトの終了という形で現れたことを最近知った。OracleはSolarisをエンタープライズOSとして位置づけ、ソースコードは(オープンソースライセンスがあるので)製品をリリースした後に公開するという。これは、コミュニティによる今後の開発を完全に拒否していることになる。OpenSolarisを採用している企業は、そのまま使い倒すか、新たに商用ライセンスを購入するかをいずれ迫られるだろう。Oracleは、とかく独占指向の強い企業なので、エンタープライズ領域での事業性が低いOpenOfficeはともかくとしても、MySQL(ライセンスモデルが違うが)への悪影響が気になるところである・・・

 このように、一つの企業が提供していた特定のプラットフォームやクラウド環境などが、買収などに伴う方針変更により、今までどおりには使えなくなってしまうと言うのは現実のリスクとしてよく認識しておくべきだろう。私のお気に入りのiPadやiPhoneにも、それは当てはまる。今は最高の利用環境を提供してくれているが、なんと言ってもアメリカの西海岸の上場企業だから、例外はないだろう。

さて、明日から仕事再開だ。

Googleマップの5周年イベントは出なかったです・・・ハイ。

2010年08月07日 00時49分42秒 | 地理情報関連
 日本にGoogleマップが登場してから5年、本日その記念イベントが開催された。私はというと、イベントの案内を目にしたが、どうも参加する気になれずに、昼間都内にいたにもかかわらず、午後はみなとみらいの会社に戻って、しばし港の向こうにかかるベイブリッジを眺めていた。

 ずっと地図関係の分野で仕事をしている私には、いくつかの実績もあるし、同様に古傷もある。古傷に触れられるとうずくものだ。Googleマップの開発パートナーであっても・・・

 実績といえば、90年代後半の日本の電子地図の黎明期において、特に日本特有の”印刷品質”の電子地図の普及を推進したことが一つ、それから、2000年代前半から日本でのFOSS4Gの利用推進を行ったことについては、私としても自負しているところである。いずれの場合も、私は事業のプロデューサーという立場で関わっており、立場上のミッションは、「事業として成功させること」になる。

 前者の電子地図、カーナビ系の味気のないワイヤーフレームのベクトル地図を、グラフィカルな印刷品質の地図でもって凌駕して、熱心なマーケティング活動で、当時PCの必須アイテムとまで言われた「電子地図ソフト」の最右翼の地位を確保し、必勝パターンを手中に収めたかと思った矢先、97年春にマピオンという「地図がタダで見れる」サービスが出現した。マピオン自体は、アメリカで先行していたMapQuestやVicintyの模倣サービスだったのだが、国内業界のことしか知らなかった私には、とにかく驚きだった。こんなサービスが成立してもらったら、電子地図ソフトの市場は伸び悩んでしまうのだから。案の定、MapFanなど、マピオンをまねたサービスが国内に林立し、電子地図ソフトの利用者はハイエンドユーザーだけに限られるようになってしまった。

 マピオンやMapFanは大資本による運営なので、数年間赤字でもそんなに困らない。しかし、当時私が勤めていた会社はそういうわけには行かない。しかも地図の整備とメンテに巨費を投じているわけだから、電子地図ソフトで十分に儲けておかなければ困る。しかし、迫り来る現実は、十分儲かる前にその事業構造を転換しなければならないという不幸な状況だった。私は、「タダで地図が見れる」サービスによって、いずれ電子地図ソフトが消滅する日を想定して(実際にその日は来てしまったわけだが)、そのマピオンに自社の地図コンテンツを提供する契約を取り付けたりもしたのだが、当初描いた「電子地図ソフトが大多数のPCにインストールされる」という夢は現実になることはなかった。

 さて、お次は2000年代。私はGISの世界に身を転じていた。FOSS4Gがもたらす可能性にいち早く気がつき、空間データベースをバックエンドに配置したWebマッピングサイトの構築では、2004年当時は実に先進的なポジションを確保していた。オープンソースのメリットに加え、当時価格が高かった地図データの調達にも工夫を行って、従来の数分の1の導入コストで地図サイトが実現するようにした。国内のGIS業界に与えた影響は大きく、多くのユーザーから歓迎された。一方、それまで元気が良かった「国産WebGISエンジン」には打撃を与えることとなった。

 そして、これから儲けるぞ、という矢先の2005年にGoogleマップ(2月にアメリカで先行)が出現した。それだけならば、単にスクロール地図の登場で済んだが、APIは、地図特有の難しさを考えず、Webアプリケーションの開発知識だけで地図サイトを構築できるというアプローチで、実に新鮮であった。しかし、それ以上に「無償」で使えることの業界に与えたインパクトは大きかった。

 当時私の会社では、地図・GISアプリケーションの構築事業が軌道に乗り始めていた。Googleマップで言うと、”APIの下側”の部分をFOSS4Gで作り上げるのが強みだったが、幸い顧客層が通り一遍の背景地図ではない地理データを活用していたので、経営への悪影響は無かったのだが、もっと幅広い顧客層へ事業領域を広げていけるという期待が、どんどん遠ざかっていくのがわかった。FOSS4Gは時代の必然だったのだが、Googleマップというもう一つの、しかも巨大な時代の必然が、大多数の人の注目を集めてしまうのを、端から見ているしかなかった。そして、FOSS4Gだけでは事業の広がりは限定されるため、FOSS4GとGoogleマップのハイブリッドアプリケーションの構築が主力になっていった。

 振り返ってみれば、地図の世界は、90年代半ばまでは地図専業者によって様々な革新が行われて来たが、その後メガプレーヤーが制する時代に移行した。そのプレーヤーも90年代は国内大資本だったが、2000年代はアメリカの超巨大資本になった。

 ところで、グーグルの日本法人は、「日本のためにマップをこのように改良しました」と説明している。確かに、Googleマップの登場は、明らかに時代のパラダイムを変えた。Googleマップが無いとWeb自体が成立しなくなるほどの浸透を遂げた。ただ、彼らはGoogleマップ自体の構想に関わった”プロデューサー”ではなく、アメリカのディレクションの下で、それを日本人の欲しがるレベルに最適化した”匠”というポジションだと思う。あのアメリカの味のないGoogle Mapsと比べれば、日本人らしい創意工夫が随所に見て取れて拍手なのだが、その多くの要素は、既に90年代の電子地図で採り入れらていたものの焼き写しが多い。なので、私にはそれほどの進歩には感じられないのが正直なところだ。でも、まだ5年だし、USセントリックなガバナンスで、あれだけやれれば正直よくやれていると評価するし、これからなのかもしれないが・・・

 で、私の会社の事業はどうなるか。人間万事塞翁が馬(私の座右の銘の一つ)。事業が軌道に乗った矢先にハシゴを外されるようなことは、どうやら繰り返されるみたいなので、それを見越してしたたかにやっていこうか。

GISとジオメディアとの断絶について(私論)

2010年08月01日 00時32分19秒 | 地理情報関連
 昨夜開催されたジオメディアサミット名古屋に関連するツイートで、「GISとジオメディアとの断絶について」の意見交換がなされたのだが、私なりに論じてみたい。

 ここでの問題提起は、GIS業界が既得権益を守るばかりで、ジオメディアの勃興の流れと断絶をしているのではないか、というもの。

 私のような、コンテンツ(地図会社)、GISベンダー、GeoWeb系のSIと、それぞれ異なる立場から仕事をした経験からは、GISとジオメディアは、その依って成り立つところが根本的に異なっているので、両者は統合されることはないし、両者の断絶を憂うのは、そもそもどうなのかと。

 GISとジオメディアの違いを、無線技術と放送に例えてみよう。

 無線技術業界は、無線の仕組みを研究して実用化させ、その設備を開発して販売、メンテナンスをしている。GISは、この無線技術業界に相当する。放送は無線技術業界が販売する設備を導入して、それを使って放送を行うという「利用者」だ。放送事業の黎明期では、無線技術そのものの優劣が問われることもあったので、両者は互いに接点が多かったが、無線技術が完成して一般化(コモディティ化)するにつれて、放送業界は資本と企画営業力がものを言うようになった。放送業界は、無線技術はお金で設備を買うだけでよく、機器のメンテナンスも専門会社に委託するので、自らその技術には必ずしも詳しくなくても良い。ジオメディア業界は、放送に相当する。

 GIS(地理空間情報技術)は、これまで長らく発展途上にあり、ごく最近までその完成度が高くなかったので、多くの優秀な人材がこの分野に知恵を注いできた。ずっと「ジオ」=「GIS」と多くの人が思っていたし、コンテンツ作りに関わる測量業や地図調製業も、「ジオ」を支えるプレーヤーの一角として活躍してきた。これらの業界は、規格や基礎技術の開発と国のインフラ作りという使命があったので、研究者や官公庁と密接な関わりを保ち、結果として顧客も公共系に集中した。

 一方、ジオメディアはGIS業界と違って、ジオクラウドの利用者(消費する側)だ。GoogleMapsAPIをきっかけに始まった世界規模のジオクラウドの出現を契機に、それを利用することであらたなWebメディアを提供しようと始まった動きである。ジオメディアの動きは、GISが対象としている領域に関心があるわけではなくて、「ジオクラウドインフラをどう活用して目的を達成するか」に関心がある。この点で、放送事業者と同じだ。
ちなみに、日本ではジオメディアというが、これはシリウスラボの造語であって、アメリカではそういう言い方はしない(古くはLBSとか最近ではGeoWebとか呼ばれる)。

 このように、両者の立ち位置は大きく異なるので、それを断絶として問題視しても仕方ない。ジオの技術やインフラを使った新しい産業が始まったのだと見るべきだと思う。

 先ほどの無線と放送の例えでは、放送自体は許認可事業なので、政府が規格やサービス提供内容を決めることができたが、GIS業界の場合には一つ残念なことがある。それは、苦労して作ってきた独自規格や技術が、「インターネット」という、日本の政府がどうにもならない流れに飲み込まれ、「ガラパゴス化」してしまったことだ。ジオ業界全体が、国が決めたことは全員が従うという「許認可」の常識で安心しきっていて、内向きになっていたら、いつの間にか「黒船」にやられてしまったのだ。それ以降、国内のGIS業界は、事業仕分けに一喜一憂する、一見守旧勢力のような立場に身を置いているのは見ていてじれったい。業界にいる有能な人材が新しい産業創造に力を発揮できないのは、国民的損失である。


 ところで、FOSS4Gは、GISとジオメディアのなかで、どのような位置づけになるのだろうか。

 FOSS4Gは、技術が産業化するための必要条件である。ハードウェアと違って、ソフトウェアはノウハウを隠蔽しやすく、技術で先行した者はプロプラエタリのビジネスモデルで独占的な利益を上げる。もし、無線技術が誰にでも開放されずに独占的な企業に支配されていたとしたら、放送産業は無線技術を支配する企業に従属し、今日のような隆盛はなかっただろう。同じように、GISの技術がクローズドソースとして隠蔽されているうちは、今のジオメディアのブームは無かっただろう。FOSS4Gが登場したことにより、GISの様々な技術やノウハウを、コミュニティで開示、共有できるようになった。そのことが、ジオメディア産業が成立する必要条件を整えたのだ。


 最後に、私の立ち位置について。

 大学在学中のアルバイトで縁があって、地図業界に身を置いたが、私は地理学や測量学を専攻してはいない。特定の学会には所属せず、非アカデミックの立場である。地図会社で私は、地図をどうしたら電化製品や自動車のようなインダストリアルな製品にできるかばかりを考えていた。空間をどのように整理して表現するかには関心があっても、私は「地図」に絶対的な価値を置いていない。その後、地理情報の業務利用に関心が出てきて、地図業界を離れてGISベンダーに身を置いたのだが、そこでは独占的なライセンスビジネスでは、せっかくの有益な技術も全然広がりがないと痛感した。その限界を感じていたら、FOSS4Gに出会い、これを普及させれば、ジオは産業になると思い、自らの会社により、その普及への努力と試行錯誤を続けてきた。お陰でFOSS4Gはここ日本でも、ジオなサービスを支えるコアツールとして認識されるまでになった。一方で、GoogleMapsの出現(実は私の予想を大きく超えていて当初こそは困惑したのだが)、に代表されるジオクラウドは、ジオの産業化への不可逆的な流れの重要な一つだと認識するようになり、FOSS4Gとの統合による価値創出が私の関心事となっている・・・と書くと、私はどうも一貫して利用者、放送事業者、つまりジオメディア業界側にいるようだ。自分なりに少し整理ができた。