ずいぶん久しぶりのブログの更新になる。Facebookに活動の軸足を移したことで、ブログに対する関心が下がってしまった。だが、少しまとまった文章を投稿しようとなると、やはりブログに軍配が上がる。
さて、私は今イギリスのノッティンガムにいる。もう明日日本に戻るのだが、2年ぶりに開催された
FOSS4Gカンファレンスに参加している。FOSS4Gカンファレンスは、OSGeo財団が主催し、2006年のローザンヌを皮切りに、ビクトリア(カナダ)、シドニー、ケープタウン、バルセロナ、デンバーと連続して開催されたが、2012年に開催地になっていた北京がキャンセルされたことで、1年空いてしまった。
FOSS4Gカンファレンスの、私にとっての魅力は2つあり、世界中のOSGeoコミュニティのキーパーソン達と親交を深めることができることと、ジオ系ITに関する技術のトレンドを世界で一番早く体感できることだ。
それだけに、変化の激しいITの世界で、1年空いてしまったことの損失は大きいと思う。この間、私の会社は事業の軸足をオンプレミスのシステム開発からクラウドサービス提供へと大きく移し、創業以来の最大の変化を自ら経験した。では、FOSS4Gの世界はどうだろうか。
開催地はイギリスの内陸部にあるノッティンガムという都市。イギリスはOpenStreetMapの発祥地であるし、欧州はFOSS4Gが盛んな地域でもある。登録参加者は欧州を中心に120カ国から800名を超え、文字通りのインターナショナルなカンファレンスとなった。
満席のカンファレンス会場
以下、私の報告は、その概要をお知らせするのではなくて、2年で何が変わったのか、という点。
私が今年7月に札幌で開催されたFOSS4G北海道で行った講演(スライドは
こちら)では、二つのトレンドを指摘した。一つは「データを徹底的にいじくる」、二つ目は「結果をすぐに配信する」だ。このトレンドは誰かが言っていたものでは無く、私が勝手に指摘したものなのだが、ノッティンガムに来て、まさにそうだし、それ以上になるかもしれないと体感した。
2011年と2013年の2年間を振り返ると、何が違うか?
ジオの世界でオープンソースが浸透するトレンドは2011年も2013年も安定して変わっていない
変わったことといえば、
1)オープンデータの流れが決定的になったこと
2)業務におけるクラウド利用が普及したこと
3)スマホやタブレットが当たり前のデバイスとなったこと
だろう。
2)や3)はIT利用の根本的な変化であるが、特に1)に関しては、ジオの世界に決定的なインパクトを与える。GIS利用者にとって、地理空間データを入手することは、価格や種類などあらゆる面で困難そのものだった。故に「GISはお金がかかるもの」として利用者数が限定され、市場競争の埒外に留まっていた。ソフトがオープンソースで、実質的に無償で入手できるようになっても、肝心のデータが高額であれば、あるいは入手困難であれば、結果的に普及しない。それが、オープンデータの登場で一気に障壁が解消されつつある。
ここ1~2年の「QGISビッグバン」は、このトレンドによって引き起こされている面がある。そして、ノッティンガムのカンファレンスで、最も注目を集めたのは、2年前までのGeoServerやOpenLayersではなくて(これらは依然根強い人気がある)、QGISだった。QGISのコアディベロッパーのTim Suttonの基調講演の際に、彼をカンファレンス責任者のStreven Feldmanがヒーロー呼ばわりするほどだ。
Tim Suttonの講演(右側はSteven)
QGISの機能の充実ぶりは既にいくつかの商用製品のレベルを超えてしまったし、そのダウンロード数はバージョンアップの毎に飛躍的に増加し、誰もがデータを手元で徹底的にいじくれる時代となっている。
そして、次はいじくったデータを「すぐに配信する」というニーズが高まっている。従来は、ネットで配信しようと思ったら、MapServer、GeoServer、PostGIS、OpenLayersなどのツールを組み合わせて、配信アプリケーションを構築する必要があった。これらはオープンソースなので、ライセンス料を誰かに払うわけでは無いものの、「GIS利用者」が「Webプログラマー」である確率は低く、結局誰かにお金を払って配信システムを構築してもらう必要がある。それ故に、せっかくデータを分析したり処理したものを、ネットで配信することは、結構なハードルだった。
この2年でその障壁を解消しようとするアプローチが急速に普及している。以下は、その主なものだ。
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MapBox
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MangoMap
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QGIS Cloud
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InGeoClouds
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GIS Cloud
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CartoDB
これらはFOSS4GやOSMコミュニティの成果をタイムリーに活用している。だから、新しくて気の利いた機能がどんどん提供される。
商用ではESRIの「ArcGIS Onlne」があるが、高額であるし、これだけ他のサービスがあると、もうデスクトップ時代に獲得できた独占的なブランドとしては認知されないだろう。
配信系サービスでは、デスクトップにおけるQGISのような決定版がまだないが、そのうちに方向性によって2~3のサービスに集約されていくと思う。そうなるまでに2年はかからないはずだ。確実に時代は変化している。
来年のFOSS4Gカンファレンスは、米国のポートランド(オレゴン州)で開催される。そこで私は何を見ることができるだろうか、この先大変楽しみである。