ロックが誕生して今年で50年だそうだ(ロック元年をいつとするかは諸説あるようだが、近頃ではビル・ヘイリーの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」が大ヒットした1955年を元年とするのが一般的らしい)。新しい物の代表であったロックも、今や立派な古典となってしまったという訳。となると、名盤を紹介したりロック史を振り返ったりする、いわばガイド本みたいなのが数多く出版されるのも当然なのだが、そういったガイド本で必ずといっていいほど“歴史的名盤”として紹介されているアルバムがいくつかある。ただ、時々そういうのに対して疑問を持ってしまう事もある訳で、今回はその“歴史的名盤”に茶々を入れてみたい(笑) ガイド本の類を参考にしてCDを買う若い人も多いと思うし、そういった人たちに偏った情報を与えるのは良くないのではないか、という気持ちもある(爆) やはり、色々な意見や情報があり、それらを吟味してから決めるのが一番だ。という訳で、“歴史的名盤”という世間の評価に疑問を呈してみるのだが、決して「これ嫌いだから」というネガティブな見解で書いているのではない事を分かって頂きたい(爆)
SGT Peppers Lonely Hearts Club Band/The Beatles
このアルバムの功績は、いわゆる“コンセプト・アルバム”という概念を定着させた所にある。ローリング・ストーン誌はこのアルバムが出た1967年を“ロック・アルバム元年”と位置づけ、20年後に「ロック・アルバム100選」という特集を掲載したが、堂々の一位はやっぱり『サージェント・ペパーズ』だった。確かに重要なアルバムと思う。これ以後皆こぞってコンセブト・アルバム(もどき)を作り始め、もしかしてプログレの概念もここから始まったのでは、なんて事も考えてしまう。スタジオ内で次々と湧いてくるビートルズのアイデアを具現化するため、4トラックのレコーダーを2台同期させて8トラックにする機械まで作ってしまった、なんてエピソードも、このアルバムの凄さを物語っている。けれど、本作はビートルズの全アルバム中最も“楽曲の出来よりもアイデアの方が上回っているアルバム”なのである。スタンダード的な名曲といったら、せいぜい「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ~」と「ルーシー・イン・ザ・スカイ~」くらいだろう。楽曲のレベルは(ビートルズにしては)落ちるけど、それを斬新なアイデアとコンセプトで補ったアルバム、というのが正しい評価ではなかろうか。ま、そういうアルバムなんだからいいんだ、と言われてしまえばそれまでだが。
Pet Sounds/The Beach Boys
その『サージェント・ペパーズ』に大きな影響と刺激を与えた、といわれるのが本作。ビーチ・ボーイズというと、どうも悲劇のバンドというイメージがついて回るが、そのきっかけとなったアルバムではなかろうか。実際、ブライアン・ウィルソンが自信を持って作り上げた本作がメンバーにもレコード会社にも不評で、次作『スマイル』で挽回を計るも結局未完成のまま挫折し、結果精神を病んだブライアンはまともな活動はしなくなり、他のメンバーでなんとかバンドは続けていくものの、ジャック・ライリーやらユージン・ランディやらの悪役も登場して展開される波瀾万丈のバンド・ヒストリーは、失礼ながら大変面白いし興味深い。そういったインサイド・ストーリーがあるものだから、余計にこの『ペット・サウンズ』は悲劇の名盤扱いされるのではないか。特に後追いの人たちにとっては。確かにいいアルバムではあるが、ややマニアックな雰囲気もあり、決して一般に幅広く受け入れられるアルバムとは言い難いような気がする。特に、サーフィンヒットを連発していた当時のビート・ボーイズのアルバムとしてはイメージチェンジもいい所で、そりゃレコード会社だって素直にうんとは言わないだろう。このアルバムをリアルタイムで体験した人の話も、よく聞いてみるべきかも。
Exile On Main ST./The Rolling Stones
今はどうか知らないが、かつてストーンズのセッションはだらだらと続く、というのは有名だった。ミック・テイラーもそれがイヤで辞めたという話だ。実際に現場にいた訳ではないので何とも言えないが、このアルバムを聴いてると、そのダラダラセッションというのは本当なのだ、と思えてくる。決して悪くはないのだが、2枚組で曲数が多いせいか、散漫な印象を与えるのだ。途中で飽きてくるというか。曲の出来にも差があるし。冒頭の「ロックス・オフ」や「リップ・ディス・ジョイント」は文句なしにカッコいいのだが、段々だれてくる。「スイート・バージニア」とかいい曲はあるんだけど。この頃のストーンズが一番良かった、という声も多いけど、このアルバムはいただけない。南部的アプローチのストーンズを聴くのなら絶対『スティッキー・フィンガーズ』を推すね。
All Things Must Pass/George Harrison
ビートルズ解散後、いち早く成功を収めたのはジョージだった訳で、本作は3枚組というボリュームにもかかわらずベストセラーとなった。数年前にはセンチュリー・エディションなんてのも出て、名実ともにジョージの代表作とされているが、どうもジョージらしさは稀薄な気がする。音的には当時イギリスで流行りだったというスワンプ風、プロデューサーはあのフィル・スペクター、レオン・ラッセルやエリック・クラプトンといったゲスト陣も豪華、と話題性だけは十分なんだけど、そういった物にジョージ自身の持ち味が消されてしまっているように思えるのだ。タイトル曲や「イズント・イット・ア・ピティ」なんかに感じられるだけ。ジョージ本来の持ち味は他のアルバム、例えば『リビング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』『ジョージ・ハリスン帝国』『慈愛の輝き』といったアルバムの方によく表れていると思うのだが、どう思います?
Layla And Other Assorted Love Songs/Derek And The Dominos
一応、デレク&ドミノスというバンドのアルバムだが、世間ではエリック・クラプトンのアルバムという認識だろう。「いとしのレイラ」という強烈な曲があるせいで、非常に評価が高いアルバムだが、南部のロックに接近したクラプトンの新境地という一般の評価には首をかしげる。本作は2枚組で、例の「いとしのレイラ」はD面に収録されているのだが、この面以外は基本に忠実なブルースで、言うなれば「いとしのレイラ」は異色な曲なのだ。確かにこの曲、無茶苦茶カッコいい。ロック史に残る名曲だろう。けど、それをアルバムの評価にまで引っ張っていくのはちと強引だ。南部に接近した云々、というのなら後の『ノー・リーズン・トゥー・クライ』や『スローハンド』をもっと評価するべきだろう。何故本作ばかりがもてはやされるのか。それはやはり「いとしのレイラ」があるからだ。親友の妻への恋心を歌う、というスキャンダル性も十分なこの曲、フツーのブルース・アルバムを歴史的名盤の域にまで持ち上げてしまった。
Goodbye Yellow Brick Road/Elton John
この頃(70年代半ば)のエルトンは正に飛ぶ鳥落とす勢いだった。そんなエルトンを象徴するアルバムと言っていいだろう。実際ベストセラーになり人気も高い。タイトル曲や「キャンドル・イン・ザ・ウィンド」のような後世に残る名曲も生んでいる。だが、ここでのエルトンはエンタテインメント性十分といえば聞こえがいいが、ちょっとはしゃぎ過ぎ。色々なタイプの曲を詰め込み、派手なアレンジを施して、却って中途半端になっているように思えてならない。次作の『カリブ』にも同じ事が言える。確かに楽しく聴けるアルバムではある。でも、完璧なまでの詩情と美しさに満ちた『キャプテン・ファンタスティック』にはとてもかなわない。
という訳で、“歴史的名盤”を僕なりに検証してみました。また敵を作りそう(爆) こういう企画の場合、本来なら、『クリムゾン・キングの宮殿』や『狂気』『ジギー・スターダスト』『レッド・ツェッペリンIV』といったアルバムも俎上に上げなければいけないのだろうけど、これらのアルバムについては、“歴史的名盤”という世間の評価にも納得しているので取り上げません(爆) 結局は好みかい! ま、それはともかく、これから色々聴いてみようという皆さん、歴史の長いアーティストになればなるほど、様々な作品を作っているものなので、決して一枚だけ聴いて納得したりしないようにお願いしたい、とオジサンは思うのです(笑)