イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

セブン、イレブン、イージーなショートゴロ

2009年03月12日 00時08分24秒 | Weblog
けっこう頻繁に最寄りのコンビニエンスストアに行くので、すっかりその店で働いている方々の顔を覚えてしまった。息抜きを兼ねて朝昼夜を問わずさまざまな時間帯に店を訪れるので、シフト勤務で働いている店員のうち誰がレジにいるかはたいてい異なっている。なので、さまざまな人の仕事ぶりを目にすることになる。

客である僕は品物を差し出し、レジを打ってもらうわけなのだけど、店員によってそれぞれ仕事のやり方が微妙に異なっている。品物にバーコードを当て、レジ袋に入れ、お金を受け取り、おつりを渡す。単純な作業ではあるのだけど、細かい違いながら、人によってこれだけいろんなバリエーション、スタイルがあるものかと驚く。そのシンプルな所作のなかにも、奥深いものがあると感じるのである。

「この人はできるな」と思わされる店員も多い。そういう人は、動きに無駄がない。よい仕事をしよう、最高の効率を達成しようと、はっきりと本人が意識しているのがわかる。その努力、自覚、試行錯誤の結果としての、その人なりに完成された技が披露される。たぶんこの人は、他の仕事をやらせても上手くできる人に違いない。お見事!と心のなかで唸る。僕にとっては、「できる人」にレジを打ってもらうとき、その仕事ぶりを眺めるのが、ちょっとしたエンターテインメントになっている(人との接触が少ないから、たまに見る生身の人間の動きに妙に注目してしまうのである)。

その店には、「ザ・マン・オブ・ザ・ショップ」とも呼びたくなるような、レジ打ち名人の中年男性の方がいる。その方の仕事ぶりは本当に素晴らしく、いつも感動する。差し出された品物の組み合わせを見て、即座にさまざまな判断を下す。レジ袋のサイズはどれにするかとか、温かいものと冷たいものを一緒にしないとか、箸はつけるかつけないかとか、おでんはどのタイミングで処理するかとか、さまざまなタスクに優先度をつけ、さらにそれを一人時間差的にひとつの無駄もゆるさないような完成された流れるような動作で、マルチタスク的にこなしていく。お金を受けとるタイミング、おつりをわたすタイミング、レシートをわたすタイミング、品物をわたすタイミング、どれをとっても絶妙だ。

そして何よりも、そのすべてが顧客満足、つまり「カスタマー・サティスファクション」という、あえてカタカナで繰り返す必要はまったくなかったミッションに向かって収斂している点が、さらにすばらしいのである。客のちいさな動き、目線でその要求を判断し、まるで相手の心を読んでいるかのように、即座に反応してくれるのである(ちょっとほめすぎかも)。ともかく、その人の仕事ぶりを見るにつけ、「あっぱれ!」と心のなかで呟きながら、自分もかくあるべし、と誓いを立てるのである。

シンプルな作業だからこそ、それを極めた結果の、洗練美と機能美がある。どんな仕事のなかにも、高度な技術や知識を求められる部分と、とてもシンプルな作業的部分があると思う。一見、誰しもができそうに思える仕事のなかにも、工夫する余地はたくさん残っている。

イージーなショートゴロは誰にでもさばける。誰が守っても、とれるアウトの数はひとつだけだ。だけど、名ショートがさばくショートゴロは、何かが違う。美しさがある。その人がひたすらに練習を重ね、磨いてきた技があるからこそ、それを見る者のこころに何かを与えることができる。イージーなゴロをうまくさばける彼だからこそ、ファインプレーが可能になる。

誰でもが訳せると思えるような簡単な文章をうまく訳せることは、よい翻訳者のひとつの定義であると思う。自分もそうなるためにも、「これはちょっと簡単そうだ」と思えるセンテンスを前にしたときこそ、よりよい仕事をすることを意識しなければ。

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