イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

赤と黒、あるいは僕なりの万有引力の法則について

2010年02月13日 00時27分20秒 | Weblog
西新宿への通勤生活も3ヶ月目を迎えた。なんと言っても、楽しみは食事である。久しぶりの都会生活に嬉しくなって、しばらくは様々な店を探訪した。飛び込みで新たな店を開拓するのは楽しい。ラーメン、中華、洋食、和食、そば・うどん、寿司、焼き肉、韓国料理、インド料理、タイ料理、などなど(きりがない)、昼はもちろん、夜も帰りが遅くなるから外食で済ませることが多いのだ。

ところが、気がつけば最近、ほとんどトンカツとサバの塩焼き定食しか食べていない。驚くほどの頻度でこの2つのどちらかを食べているが、まったく飽きる気配がない。トンカツも美味しいし、サバも美味しい。ただただ美味しい。もう幸せなのである。ちなみに、家にいるときはペペロンチーノを作って食べることが多い。パスタの麺とニンニクとベーコンと鷹の爪。これだけあれば10分で作れるから楽なのだ。だからこればっかり作って飽きもせず食べている。つまり、この3つの料理が僕の先発ローテーションなのである。おそらく食事の8割はこのどれかで済ませている。昔の巨人で言えば、西本、江川、槇原か。そうなると、やはり西本がサバの塩焼き、江川がトンカツ、槇原はペペロンチーノということになろう。さらに言えば鹿取が吉野家の牛丼で、角がラーメン、定岡はカレーになるだろう。桑田は顔からいっておにぎりに違いない。朝ご飯は基本的に食べないのだけど、歩きながらオリジン弁当のおにぎり食べることもある。

しかし、これだけ同じものを食べても飽きないなんて、人としてかなりヤキが入ってきたことの証だと言えなくもない。これは人としての進化なのか、退化なのか、老化なのか、「まあいい化」なのか、よくわからない。でもまあいいのだ。それに、実はトンカツもサバの塩焼きも、おかずがとても好きだということに加えて、ごはんがおかわり自由のお店で食べているという点もとても大きい。日頃長距離を歩いて体力を消耗しているためか、ご飯一膳では満足できないのである。今日もお昼はいつものロースカツランチを食べ、ご飯とお味噌汁とキャベツもおかわりした。夜はサバの塩焼き定食でご飯をおかわりした。ご飯一日4杯である。

ところで今日、いつものトンカツ屋さんで、こんなことがあった。

レジでお金を払おうとしていたら、配膳係の女性が近づいてきて「このボールペン、お忘れになっていませんか?」といって僕に黒いボールペンを差し出した。間違いなく、僕がテーブルの上に置き忘れたものだ。いつも食事が運ばれてくるわずかな時間に、本を読んだりノートにいろんな野望・計画などを書き留めたりしているのだが、トンカツが運ばれてくると一切それを忘れてたべることに夢中になってしまうのだ。だからすぐにボールペンの存在をすっかり忘れてしまう。

「すみません」僕は言った。(まいったなあ、俺としたことが)、なんてちょっとクールでさわやかな表情を軽く浮かべて、僕はボールペンを女性から受け取った。

そしたら、レジを打っていた若い男性が、何かを思い出したように僕の顔をまじまじと見つめて、こういった。

「そういえば、お客さんこの前、赤いボールペンを忘れていきませんでしたか?」

僕はとてもボールペンLoveな人だ。いつも身近にボールペンがないといやなので、たえず補給している(1週間に1本以上は買っている気がする)。だが、他のことに関してはまったく自分に才能を感じたことはないのだが、ボールペンを無くすことだけにかけては天賦の才に恵まれているらしく、もういやという程簡単にボールペンは僕のもとを去ってしまうのである。間違いなく、いつかこの店で赤いボールペンを忘れたのだろう。

「ああ、たぶんそうでしょうね。でも返していただかなくても結構ですよ。ありがとうございます」僕は言った。わざわざボールペン一本で彼を煩わせたくない。

それにしても、同じ店の人から立て続けに「ボールペン無くしませんでしたか?」って言われるなんて、恥ずかしいやら情けないやら。この店にはしょっちゅう来ているから、結構「いきつけの店」っぽい感じで馴染んでいたつもりだったのに、実は影で店員に「いつもボールペン忘れていくあの人」ってあだ名をつけられて笑われてるかもしれないと思ったりして、すっかり自分もヤキが入ってきたなあとしみじみ実感してしまったのである。まるで黒いタイツの長州力にバックドロップの体勢で抱え上げられたところを、トップロープ越しに赤いタイツのアニマル浜口からだめ押しのネックブリーカーを決められてしまったような、そんな赤と黒のボールペンのツープラトン攻撃を食らってしまったような気持ちになったのである。

しかしまあ、かのニュートンだって、考え事に熱中するあまり、卵を茹でるつもりで時計を湯の中に入れてしまったこともあったというではないか。僕にだって、僕なりの万有引力の法則を考えていることだってあるのだ。いろいろ思うことがありすぎて、ボールペンのひとつも忘れたくなるのだ。

最近、ますます仕事が忙しくなってきました。これから2ヶ月、マラソンまでの間は、かつてない程の仕事量との闘いになりそうです。次のステップに進むためにも、気合いを入れて取り組みます!

===告知===

そぞろ歩きの会6「湯島・本郷編」2/20に開催します。みなさまよろしければご参加くださいませ。そぞろ歩きの会のブログに告知を掲載しております。

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
下層労働者マリオの日記 (のらうさぎマリオ)
2010-02-13 23:38:31
本日、またもいやになるほど旅行会社の校正をし、帰宅してイワシ氏のブログを拝見する。
こんがりと焼きあがったサバの塩焼きをオカズに思いっきりメシをかっこみたくなったが、ここは地の果て足立区。この時間、そんな店はありゃしない。無念。
それにしてもイワシ氏の文体は、旅を描いても食を描いても、文化的な深みがあってぐいぐい読ませ、しかも味わいがあるところが秀逸である。立松和平氏が亡くなった今、イワシ氏が旅と食の分野の第一人者になって、多くの読者を楽しませてもらいたいと思うのは私だけであろうか。
返信する
サバを読む (イワシ)
2010-02-14 11:35:40
マリオさん

コメントありがとうございます! 校正のお仕事、お疲れ様です。大変そうではありますが、とても面白そうに感じます。

立松和平さんの死は本当に悼まれます。62才、まだまだお若かったのに...。立松さんの世代は、書き手も読み手も本当にレベルが高かった。彼のように創作だけではなくそのときどきの興味の対象をこちらに提示してくれることで同時代性を感じさせてくれる作家は、これからますます少なくなっていくのかも知れませんね。イワシは到底立松節にはかないませんが、ともかく、サバが美味しいことだけは間違いありません(^^)
返信する