シネマの森の迷走と探索

FBに投稿した映画作品紹介を整理し、再掲します。

☆は「満足度」(☆5個満点、★で補足)。

ヴィクトル・エリセ監督「ミツバチのささやき(El espiritu de La colmene)」(スペイン、1973年)☆☆☆☆★

2019-09-11 22:18:55 | スペイン


原題は「ミツバチの巣箱の霊」。

アナとイザベルの姉妹とその父母を中心に、話しは展開します。この映画がフランコ独裁政権のもとでつくられたこと、検閲をパスするための配慮がなされていることなどを知らないと、ストーリーは分かりにくいと感じるかもしれません。

詩情豊かなスクリーンに抵抗の精神が息づいています。フランコ将軍を継承するスペイン独裁体制は、この映画が発表されてから2年後の1975年11月に崩壊しました。

1940年ごろのスペイン、カスティーリャ高原の小さな村、オユエロスが舞台。1940年という時代は、非常に重要な年でした。この前年3月、フランコ・ファシスト軍の攻撃でマドリッドが陥落、スペイン人民戦線が敗北し、フランコ独裁体制が成立したからです。緊迫した時代状況が背景にあったのです。

この村に巡回映画がきて、これを楽しみにしていた子どもたちはボリス・カーロフ主演の「フランケンシュタイン」(1931年)を見ました。映画の内容は人間を創造しようとした科学者の話しですが、怪物がかわいい少女と出会い一緒に花をちぎって水面にまき、怪物が少女を殺してしまうシーンに子どもたちは恐怖をおぼえます。6歳の少女アナ(アナ・トレント)は姉のイサベル(イサベル・テリェリア)に、怪物が少女をなぜ殺したのか、なぜ怪物も殺されたのかを、家に帰ってから寝床の中で聞きます。

イサベルはフランケンシュタインが精霊で、精霊は生きていること、フランケンシュタインも死んでおらず、村はずれの一軒家に隠れていて、友達になって、わたしはアナですと名のればいつでも話しができると答えます。アナはその話を真に受け、時機を見計らっては、村のはずれにある井戸のある廃屋にいくようになります。

ある日アナがその廃屋に行くと、負傷した逃亡兵士がいました。彼は反フランコ側の脱走兵でした。兵士を精霊と思いこんだのか、アナは彼にリンゴをわたし、家から父のコート、靴やオルゴール付きの時計を持ってきて手渡します。

しかし、後日、兵士はフランコ側の警察に射殺されてしまいます。警察に呼び出された父は、兵士の遺留品に自分のコートやオルゴール付きの時計があることを知らされます。

廃屋にいるところを父に見つかったアナは咎められ、そこを逃げるように一人立ち去りました。夜になって、池のほとりでフランケンシュタインにあいまし。「わたしはアナ、わたしはアナ」。アナはその後、倒れていたところを家族に救われますが、衰弱で床に伏します。

架空のフランケンシュタインの話しは、現実の脱走兵の事件と交錯します。映画に登場する怪物フランケンシュタインは反体制側の象徴であり、脱走兵も反体制側の人間です。当時の独裁体制側にとっては恐ろしい怪物とみなされた反フランコ派、反ファシスト派は、純粋な少女には心暖かく、優しい存在でした。
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