シネマの森の迷走と探索

FBに投稿した映画作品紹介を整理し、再掲します。

☆は「満足度」(☆5個満点、★で補足)。

ミハイル・カラトーゾフ監督「鶴は翔んでゆく」(ソ連、1958年、97分)☆☆☆☆

2019-12-23 20:05:35 | ロシア・ソ連


何度観ても感動します。よくできている作品です。映画技術的にも、構成がよく、場面の切り替えがうまく、必要なところにはスピード感があります。ヒューマニズムが全編を貫いています。

モスクワの夜明け、恋人同士のベロニカ(タチアナ・サモイロワ)とボリス(アレクセイ・バターロフ)。ひと時のデートからもどった二人は、そっとそれぞれの家にもどります。しかし、その日常の幸せは束の間のことでした。戦争(第二次世界大戦)が勃発しました。

ベロニカや家族の不安をよそに、ボリスは出征します。贈物のリスの人形のさげる篭の中にベロニカへの手紙を入れ、ボリスは出発しました。別れの晩餐会に遅れたベロニカはボリスを追って、出征兵の集合地に向かいます。ボリスを見つけることは出来ませんでした。

ドイツ軍の攻撃は激しく、爆撃によってベロニカは父母を失います。戦地のボリスは、ベロニカの写真を常に携帯して自らを励ましていました。しかし、敵の弾丸が彼を襲います。

戦争が終り、復員兵士たちが帰ってきました。ボリスの死を信ずることが出来ないベロニカ。彼女は花束をもって駅に向い、彼を探します。しかし、ボリスはいません。ベロニカの眼に涙が浮かびます。それは単なる絶望の涙ではありませんでした。ベロニカは、花の一本一本を帰還兵に手わたします。

平和になったモスクワの空を鶴の群が飛んでいくのを見上げるベロニカ。彼女のまなざしは、その鶴の群を追うのでした。

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スタンリー・ドーネン監督「いつも二人で(Two For The Road)」(アメリカ、1967年)☆☆☆

2019-12-11 23:58:14 | アメリカ・1960年~


この映画は、相手に対する関心を失っている夫婦が、結婚前の二人、結婚直後の二人という二つの過去の関係を交錯させ、それぞれが結ぶ絆の表と裏とを描いています。

話の流れが現在と過去の間を頻繁に往還し、しかし演技や会話がつながっていることがあり、気が抜けません。話の展開は興味深く、身につまされることがしばしばです。フランスの田園を背景に、一組の男女の移ろいやすい愛をテーマに扱った、見ごたえのある作品です。

筋立ては、33歳の建築家マーク・ワレス(アルバート・フィニー)と妻ジョアンナ(オードリー・ヘプバーン)との一組の夫婦がたどった

12年間の愛の軌跡です。現在、中過去、大過去での二人の愛が巧みに編まれて展開して行きますが、話の中心は現在です。

若さだけで財産も何もないが無邪気によりそい愛を確認しながら明日にむかって生きている結婚前の二人。社会でのポジションが確立し仲睦まじい結婚直後の二人。社会的地位は獲得したが、愛の輝きを失なってしまった現在の二人。カメラは三つの時間を自在に行き交い、時間とともに変化する愛の危うさを明るみにします。

オドリー・ヘップバーンが演ずるジョアンナのプレタポルテの衣装が楽しいです。また、実際に観なければわかりませんが、小道具としての「パスポート」の使い方にセンスを感じます。

オドリーは屈折した感情を巧みに表現し、難しい大人の役どころをこなしました。アルバート・フィニーは、イギリスの舞台出身の名優です。二人の共演で、起伏のある男女の葛藤が見事に演じられています。
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エミーリ・ロチャヌー監督「アンナ・パブロワ(Анна Павлова)」(ソ連/イギリス,1983年)☆☆☆☆

2019-12-11 23:20:10 | ロシア・ソ連


「世紀の舞姫」とうたわれたロシアの天才バレリーナ,アンナ・パブロワ(ガリーナ・ベリャーエワ)の生涯を美しい映像で綴った伝記映画です。

映画は夫のビクトルの回想形式をとっています。セント・ペテルスブルグの近郊に住むアンナは,バレエ学校で踊る少女たちに憧れていました、9歳のときに,母リューバに連れられ劇場でバレエ「眠れる森の美女」を見た彼女は,プリマドンナになろうと決意します。

フランス人のマリウス・プティパは彼女の才能を認め,アンナは帝国バレエ学校に入学しました。アンナはこの学校で才能を発揮し,体が弱いというハンディを乗り越え、懸命に稽古に励みます。ここで生涯の友であり,師でもあった振付のミハエル・フォーキンと出会います。また,イタリア人のチェケッティは,彼女に自然から学ぶこと,自然を愛し理解することを教えました。アンナはマリンスキー劇場で,「ジゼル」のプリマの代役で舞台にたち,大好評をはくしました。

作品にはその後のアンナの活動ぶりと人間関係の広がり,サン・サーンスとの出会い,ルドルフとの交流と結婚,超人的なニジンスキーの踊り,ディアギレフとの別れなど,彼女と周囲の人々との関わりなどが織り込まれている他,「瀕死の白鳥」「白鳥の湖」でのアンナの華麗な踊りが映し出されています。

バレエ・ファンならずとも気持ちよく楽しめる展開です。
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チェン・カイコー監督「さらば、わが愛/覇王別姫」(中国、 年)☆☆☆★★

2019-12-10 17:36:20 | 中国


日中戦争や文化大革命などを背景に京劇の世界を小楼や蝶衣の目を通して描いた作品です。原作は李碧華(リー・ピクワー)の同名小説です。

「覇王別姫」は、項羽と虞美人とのを心の交錯を描いた京劇で、この映画では2人の主人公が演じます。

時代は1920年代。舞台は中国・北京。楼閣の女郎の私生児・小豆子は、京劇俳優養成所に連れられてきます。厳しい稽古と折檻、仲間から娼婦の子といじめられる小豆子を助けてくれたのは、先輩の石頭。やがて小豆子は、石頭に同性愛的な思慕を抱くようになります。

成長した2人は、それぞれ程蝶衣(小豆子)と段小楼(石頭)という芸名を名乗り、『覇王別姫』 で共演しトップスターになります。しかし、二人の人生は思いもよらない波乱万丈の人生行路をたどります。

おりしも、日中戦争の激化(1937年)、日本軍の占領下の北京。やがて日本の敗戦、中華民国軍(国民党軍)の兵士たちの北京入城、文化大革命、四人組の失脚。時代に翻弄されながら生き抜いた京劇人の生き方(愛と苦悩)を切々と哀しく、しかしリアルに綴った、中国映画史不滅の大作です。
 
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ジーン・ケリー/スタンリー・ドーネン監督「踊る大紐育(On The Town)」(アメリカ,1949年)☆☆☆★

2019-12-05 10:49:48 | アメリカ・1940年~


アメリカ人の良い面での明るさが全編に横溢したミュージカル,ダンス映画の傑作です。水兵の三人,ゲイビー(ジーン・ケリー),チップ(フランク・シナトラ),オジー(ジュールズ・マンシン)はニューヨークで24時間の休暇をもらい観光に出掛け,3人の女性,アイビィ・スミス(ヴェラ・エレン),ヒルディ(ベティ・ギャレット),クレア(アン・ミラー)と恋に落ちるという設定です。

主人公ゲイブが地下鉄のポスターで見た「今月のミス地下鉄」とどのような愛を展開させていくのかが物語の骨子で,チップとオジーは相手の女性陣におしまくられながらも愛の花を咲かせます。そして,もうひとつ。オジーが博物館で恐竜の模型を壊したかどで,警察に追われる話しが絡んで,最後まで追跡されます。

ニューヨークの波止場,午前5時50分。太った港湾労働者がバリトンで I Feel Like I'm Not Out of Bed Yet 唄って出勤。そして6時。水兵たちが一斉に上陸。主人公3人の「ニューヨーク,ニューヨーク」の歌がここではじまります。それから,全編,物語展開の要所に多くの歌と踊りが挿入され,楽しさは抜群です。

アイビィが男の子たちを相手に,6つのスタイルに早替わりし,自己紹介しながら踊る場面は出色,衣装と背景との色の調和も見事というほかはありません。クレアが自然博物館で踊る Prehistoric Man,ヒルディがチップを口説く場面での Come Up to My Place,ゲイビーがバレエ教室でアイビィに故郷の町を紹介する時に歌う Main Street,エンパイア・ステイト・ビルディングの頂上で6人が歌い踊るOn The Town,いずれも見応えがあります。ラストシーンでは,港湾労働者が歌いながら再登場,水兵たちが艦に戻ると代わって別のグループの水兵たちが上陸して来るという場面設定の着想は秀逸です。
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フレッド・ジンネマン監督「地上(ここ)より永遠(とわ)に(From Here to Eternity)」(アメリカ、1953年)☆☆☆★

2019-12-01 10:34:24 | アメリカ・1950年~


第二次世界大戦の最中、軍隊の階級制度と個人との関係をとおして、アメリカの軍隊生活の過酷な生活の告発をテーマとし、軍隊内部の非人間性を暴いた作品です。ジェームス・ジョーンズのベスト・セラー小説の映画化です。

朝鮮戦争をアメリカの『聖戦』とする動きに多くの善良なアメリカ人が抗議していたさなかに公開されたこともあり、軍隊機構の非人間的な愚劣さを批判的に描いたこの作品は大きな反響をよびました。

浜辺で抱き合う水着姿の男女(ウォーデン曹長[バート・ランカスター]とホームズ大尉の妻カリン[デボラ・カー])の熱いラブシーンも話題になりました。
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