この作品は、中年の人妻ローラ・ジョンソン(シリア・ジョンソン)と医者アレック・ハーベイ(トレーヴァー・ハワード)との行き場のない愛をテーマとした佳作です。家庭のある女性の平凡な日常に生まれた束の間の愛情がテーマです。
原作と脚本はイギリスの著名な劇作家、ノエル・カワード。きざな会話や劇的な場面はひとつもないですが、それゆえにありふれたメロドラマに終わらなかった叙情詩です。
効果的に流れるラフマニノフのピアノ協奏曲第二番の旋律。人々が往来するミルフォード駅の喫茶室の風景。蒸気機関車の黒い車体と汽笛。二人の関係が容易ならざるものに向かって行くことを伝える画面展開。デヴィット・リーンの巧みな演出とそれに応えた二人の名優によって生まれた作品です。
蛇足ですが「逢びき」の送り仮名は、本来は「逢いびき」でしょうが、日本公開時から前者が用いられたため、関係するメディアでは、いまでも公開時の題名がそのまま使われています。