学習障害と英語指導を考える

特別支援の視点から。
どの子もハッピーになるような指導を。

ディスレクシア生徒の指導経過レポート

2016年03月26日 | Toe by Toe指導について

毎年、2月と3月は、

スカイプでのデコーディング指導を行っています。

これはチャレンジ教室とは違って、

短期集中的に個別のデコーディング指導を行い、事前事後での変化を確認するもので、

事前テストには様々な(国語を含む)アセスメントを行っています。

そこで得られたデータや資料を、ブログや学会で紹介させて頂くこともありますが、

(参考今年もやります、「音から文字へ、文字から音へ」英語読み書き指導事例研究

   Toe by Toeスカイプレッスン スペリングテスト(サイレントE)

 

基本的にはLDといっても、

認知傾向や学び方が違うのがあたりまえなので

同じように指導しても誤り方や躓き方の違いがあります。

 

それがどのように表れるのか、

どういった指導方法の工夫が必要なのだろうかということが、

私にとってもこれまで考えて来た仮説を確認したり、

新しい発見がある期間です。

 

比較の参考としているのは、主に英語圏のディスレクシアの困難例です(日本の先行事例も参考にしますが)。

日本の子どもたちの困難例と、

何か特徴的な違いがあるのかなあ?と考えながらやっています。

 

今年、興味深いと思っていることをシェアします。

 

今年対象となってくれている児童(Aくん:小学6年生)です。

AくんはToe by Toeをスタートする前にチャレンジ教室で1年間かけて

アルファベットの1文字1音対応の習得練習を終えています。

ほとんどのアルファベット文字を読み間違えない(ゆっくり考えてわかる程度ではだめ)ように準備してから、

Toe by Toeでデコーディングに集中させています。

(ここで、アルファベットもあやふやなのにToe by Toeのような読み指導をするのは、全くお勧めできません。すぐに躓きます。)

 

Aくんは、5年生で入会したときに特徴的な読み書きの傾向のある生徒でした。

まず、国語であっても、文章をすらすら読むのではなく、1文字ずつ音声化していました。

典型的な逐次読みで、

「ま、つ、り・・・を・・・あ、”まつり”、を!」というようにです。

ですので、意味の理解まで到達するのに時間が掛かり、読解も大変でした。

 

特殊音節も弱く、最初のころは、特殊音節を含む単語をセットにして、

3文字~4文字ほどの固まりを一度に視覚で捉えながら、音声化する練習をしていました。

 

ですが音の操作は悪くなかったので、

英語では、文字の形の認識(文字を見せて発音とくっつける)を進めながら、

ライムやオンセットーライムの混成練習を行っています。

 

彼は、音の聞き分けはあまりうまくなく、

日本語にない音(lとr、wとr、thとsなど)の違いが聞き分けられにくく、

それは1年以上かけても変わりませんでした。

器用なタイプではありませんが、

とても真面目に課題に取り組む生徒です。

「もっとできるようになりたい」という気持がすごく伝わってくる子です。

 

彼の誤り傾向を1つ紹介します。 

下は、彼のToe by Toeの記録の1部です。

(小さくてごめんなさい)

  

 

縦に読んでいきます。

ピンクの付せんは51ページの様子ですが、

1列に13単語ずつ並んでおり、一番下はサイトワードです。

上から、crisp, swank, drunk, crank, blast, grasp, graft, drift, plank clamp, grand, skunk・・そして、一番下が、her です。

うまく読めていれば、「・」を、

間違っていれば「/」にしています。

 

写真から、お気づきの点はありますでしょうか。

 

Aくんは、サイトワードが本当に苦手なのです・・・。

 

her なんて、たった3文字ですから簡単だと思ってました。

 

その上の、skunkとかgrandは、初見で間違えずに読めるのに、

herは、5日間かけても間違えるのです。

 

一番下の段だけ(サイトワード)を見ていくと、

her,  or,  go,  their と並んでいます。

 

goは、最初から読めていました。

ですから毎回「・」です。

これは視覚的に目に触れることも多い単語ですし、長期記憶に入っていたのかと思います。

ですが、orなんて、herよりも短いのに、正しく音声化できませんでした。

 

上の写真は45ページですが、同じような傾向が見られます。

左の列は、fits, stags, wins, pens, traps, clips, te, bug, crag, bins, drops, rugs...と続き、一番下が、 some です。

上の方の段はほとんどが、一回で正しくデコーディングできています。

ですが、サイトワードは毎回間違えます (-_-)。

一応、わたしも毎回正しい読み方を教えています。でも覚えられないようです。

 

「ディスレクシア児童は、サイトワードが超・苦手」

 

というのは、英語圏でも指摘されているディスレクシア困難症状の1つですが、

わ、本当だ!と感じているところです。

 

前年度までは、ページ単位で進んでおり、デコーディングできる語(decodable word)の読み状況に集中していたため、

ここまでしつこくサイトワードの習得状況を確認しておらず、

気づいていませんでした。

 

 

いまは、サイトワードに関しては、

「視覚的単純暗記はほぼ無理」ということがわかったので、

遅まきながら、多感覚指導に切り替えるところです。

 

You Tubeでは、サイトワードの多感覚指導は色々アップされていますが、

その理由にいまさらながら納得です。

英語圏の先生方も苦労されています!

 

困るのが、たとえばAくんは、文章を読ませているときに、

一度サイトワードで躓くと、後に出てくる読めていたデコーディングできる語も読めなくなります。

非常に混乱し、自信を失ってしまうようです。

デコーディングのルールを知っていれば、

上の段で見られたように、確実に読める力はあるので、

Aくんの場合は、ルールをなるべく多く定着させ、読める語を増やすアプローチをしつつ、

これまでの例では、ある程度読めるようになってくると、

推測力が働くようになるため、通常の文章にも触れさせていこうと思います。

 

なんせ、中学校の教科書はサイトワードだらけですから!

 

あと、先生方、sheとかheとか、最初から簡単に読めると思わないでくださいね・・・・涙

 

 

 


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
LDっ子は頑張っています! (Amy Winehouse)
2016-04-01 05:17:20
Amyです。

私が、勤務先の塾で担当している、未診断、でも限りなくLD(親御さんは気付いていない)の中1児童に、あまりにも酷似しているため、思わず、コメントをし始めております。

彼もサイトワード全般ダメですが、特に
herとorは、まともに読めたためしがありません。herは文章の何処にあっても"he"、orは必ずと言っていい程、"and"と読み間違えます。先日は、"or"を"of"と読み間違えました(もっとも、"of"と読めただけ、進歩したとも言えるかもしれません)。彼にとって、まるで、"r"は存在していないかの様です。また、字数の違いにも気づかないという所も不思議です。

また、英文を書く時、スペースをほとんど開けません。何度か注意はしたのですが、治りません。最初は、日本語の癖が抜けないんだろうぐらいに思って見ていたのですが、最近は、「もしかしたら語と語の区別がついていないのかも?」と、思い始めてきた次第です。

こんな調子の彼ですが、3学期の定期テストでは、100点満点中50点を確保し、成績表も3を取ってきました。ほとんど奇跡です。学年全体の平均点が低かった事も幸いしたかもしれません。試験直前、一緒に問題集を解いている時の真剣な表情はまさに、親御さんをがっかりさせてはいけない(あるいは、ただ単に怒られたくない)健気な子供のそれだった様に思われます。

LDの子供達は、とっても頑張っています。絶対、怠け者なんかではありません。

またもや、長文になってしまいました。失礼しました。
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先コメントの補足です。 (Amy Winehouse)
2016-04-01 21:43:58
Amyです。再度、お邪魔いたします。

先コメントの、中1塾生の、"or"の読み方の癖について、補足をさせてください。

とにかく、彼は、音読中、"or"をいつも"and"と読み間違えていたので、音はともかく、きっと語法的なニュアンス(and、orとも名詞と名詞の間にあり、意味的にも対をなすような関係にありますからね)は理解している、その上で、発音だけが区別出来ていない(もしかすると、日本語の「と(and)」と「か(or)」の認識も甘い?、それゆえ、起きている現象?)のかな、などと、勝手に推測などしておりました。ところが、先日、"of"と読んだのです。音的には一歩近づいたのですが、意味の方はどうかな?と、口頭で和訳させたところ、「英語、数学、どっちが好きですか?」と無難に答えてきたので、まあ、いいかと、まずは一安心したのでした。

考えてみれば、結局のところ、日本語では、「と」でも「か」でも問題はない、むしろ、「英語と数学、どっちが好きですか?」の方が自然なのかもしれませんね。となると、"and"と間違えていたのも致し方なかったのかな、ことごとく、文字がそのまま、読めないのは辛いなぁと思わずにはいられませんでした。

先生は、この現象、どのように、解釈されますか?

本当に、「現象」と呼びたくなる様な、不思議な間違い(その割には、間違い方になんとなく規則性がある)を、彼はしてくれるので、最近は、勝手に「不思議くん」と、心の中であだ名を付けてしまいました。

理解しづらい文章になってしまったかもしれません。しかも、またもや、長文、申し訳ないです。
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Amyさん (村上)
2016-04-29 08:52:08
ずいぶんブログを放置していてすみません。
コメントありがとうございました。

ディスレクシアのお子さんは、and, the, or, ofなどの「短い機能語」の理解が弱い、覚えられない、というのは英語圏では当たり前のような”現象”らしく、それがなぜだかわたしもわからないです。
orとandは文字がちゃんと音につながっていれば読み間違えることはないので、この子は文字を1つ1つ見て音声化していないのかな、と思いましたが、意味と結びつかないことは多々あると思います。道路標記の意味を私たちも暗記するのは大変なのと同じ理屈です。
漢字だとある程度形から予測できたりしますしね。英語では、なんとかそこを結ぶために、絵を使ったりします。Davis Programはオルタナティブのディスレクシア指導法で、それなりに効果があるようで、私も見学に行きましたが非常に面白かったです。写真などはここで見れます。日本では指導できる人がいないようですね。
http://www.spelfabet.com.au/2013/08/davis-dyslexia-method/

フォニックスを知らないようでしたら、簡単なモノでいいので始めたらかなり改善すると思います!がんばってください~。わたしもがんばります!
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