「宗教と科学が手を携えて取り組まねばならない」。2日、京都市下京区のホテルグランヴィア京都で開かれた伝統宗教シンポジウム「宗教と環境―自然との共生―」(天台宗・比叡山延暦寺、高野山真言宗・総本山金剛峯寺、神社本庁主催、読売新聞社共催)で、出席した科学者から温暖化による地球環境の危機を改めて指摘された聴衆からは、温暖化防止に向けた取り組みへの思いや、宗教の果たす役割への強い期待が聞かれた。
□基調講演
「2050年には気温が4度以上あがるとの試算がある。そうすると、水や食料が不足して戦争が起こる」。山本良一・東大名誉教授の基調講演に、大阪府高槻市から訪れた主婦中舛祐子さん(45)は「思いもよらなかった」と驚いた様子。大阪府寝屋川市から夫婦で来ていた無職真鍋英さん(77)は「事態は深刻、という意識を、みんなで共有する必要がある」と話した。
奈良県大和高田市、無職丸井久勇さん(79)は、山本名誉教授が指摘した台風や竜巻の凶暴化などに触れ、「自然が穏やかであってこそ、生活ができると感じた。できることはしなければ」と、温暖化防止に取り組む思いを語った。
兵庫県芦屋市、大学4年浜健太郎さん(22)は「東日本大震災で、科学だけではどうにもならないことがあると思い知らされた。精神的なよりどころに目を向けることが必要と感じた」と話した。
□討論
パネリストの小林祖承・天台宗毘沙門堂門跡執事長が、山本名誉教授が触れた「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」という仏教の教えについて、「全ての生きとし生けるもの、そして土や岩石にも尊厳があるという意味だ」と詳しく解説。村上保壽(ほうじゅ)・高野山真言宗教学部長も「自然界にあっては人間も王様ではなく、相互依存の関係にある」と、空海の教えをわかりやすく説明した。
熱心に聞いていた東近江市の公務員北川寛人さん(28)は「伝統宗教には、自然を大切にする考えがあることを知った」。大津市唐橋町、県職員安田清隆さん(27)は「地球全体の一人だと自覚して、日々の生活を送りたい」と話した。
京都市下京区の主婦足立保子さん(73)は、桜井治男・皇学館大教授が述べた「共生を私たちは『ともうみ』と読む。自然と共に、何を生み出せるかを考えていきたい」との言葉に「人間が自然とどう関わるべきかの示唆がある。未来を担う高校生の孫娘に伝えたい」と笑顔を見せた。
□共同提言
共同提言にあたっては、半田孝淳(こうじゅん)・天台座主(94)と松長有慶(ゆうけい)・金剛峯寺座主(82)、田中恆清(つねきよ)・神社本庁総長(67)が登壇した。
田中総長が「自然破壊の阻止と日常生活の根本見直しを」などと読み上げ、3人が握手を交わすと、会場からは大きな拍手が起きた。
大阪府東大阪市から訪れた主婦中里千鶴子さん(69)は「3人が握手した時には涙が出そうになった」と感動を隠さず、大阪府茨木市の無職山本孝夫さん(71)は「目的があれば、人間は我慢できる。子どもや孫、さらにその先の命のために生活態度を改めることは、そんなに難しいことではないと感じた」と満足な様子で話した。
(6月3日付け読売新聞・電子版)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shiga/news/20120602-OYT8T01006.htm