一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

村田六段、大金星を逸す

2023-06-21 00:25:15 | 男性棋戦
第71期王座戦挑戦者決定トーナメント2回戦、藤井聡太竜王・名人VS村田顕弘六段、羽生善治九段VS斎藤明日斗五段の2局が20日に行われた。
この中で注目度が高いのはもちろん、藤井竜王・名人(の将棋)である。村田六段もここまで大健闘したが、本局は相手が悪すぎる。
ただ、ネットに掲載された特集では、本局は村田六段の気合の入り方が半端でなく、すぐに決着はつかないと思った。
藤井-村田戦は村田六段の先手で、相掛かりになった。村田六段は角道を開けず、右銀を3七に上げる。これを5七に上げるのが「村田システム」で、今回は裏バージョンだ。
この将棋、すぐに藤井竜王・名人が有利になると思いきや、意外に村田六段が踏ん張っていた。しかも夕方にABEMAを見ると、AIの形勢バーは59:41で、村田六段がリードしていた。ここまで指せれば、村田六段の健闘を称えてよい。
それどころが目を離したスキに、さらに両者の差が開き、村田六段がいよいよ有望になった。局面もそうだが、村田六段が残り時間を1時間以上も離している。これは小さくないアドバンテージであろう。
ただ、藤井竜王・名人も迫っている。香で角を取らず、桂を打って戦力を増強した。
これにAIは、素朴に角を逃げる手を推奨していた。ほかに7筋に香を立てる手、金で王手する手もあったが、どちらもまあ悪くない。つまりどの手を指しても、村田六段が十分なのだ。
ところが村田六段がいつまで経っても指さない。藤井竜王・名人の残り時間は10分。私だったら無難な手をさっさと指して、少しでも藤井竜王・名人の持ち時間を削るところだ。
羽生-斎藤戦は、羽生九段が勝ったようだ。これ、藤井-村田戦の結果次第では、羽生九段が挑戦権獲得にグッと近づく。
村田六段の熟考は続いている。まあ大事なところだからな。心ゆくまで考えるがよい。
ところが、村田六段はまだまだ考える。さすがに私も、これは考えすぎじゃないかと思い始めた。ここで勝ちを読み切ろうとしているのか分からぬが、この将棋、まだ先は長い。数手進めば考えもしなかった手が出てくるはずで、そのときに時間は要るはずだ。私は不安になった。
タイム1時間以上、村田六段はAI推奨の手を指した。だがその手なら、もっと早く指せたのではないか? 結果、残り時間は17分に減り、双方早指し戦である。となれば、藤井竜王・名人のほうが有利だ。私にはイヤな予感しかなかった。
その後村田六段は、もたつきながらもゴールに近づく。しかし村田陣にも後手の駒が迫っており、気を緩めばすぐに詰まされてしまいそうだ。
と、藤井竜王・名人が6三の銀をまっすぐに立った。これはAIの読みになかったが、妖しい手である。形勢バーは98:2で村田六段勝勢になった。しかしこの期に及んでも、私は村田六段に不安しか感じなかった。どこかで間違えそうな確信があった。
村田六段は敵玉に目を向ければよかったのに、自陣の銀を上がって受けた。ああ実戦だとそうなるんだろう。ちなみに藤井竜王・名人だったら、攻めの手を指していただろう。
藤井竜王・名人は5筋に金を入る。さすがにAIと同じ読みである。対して村田六段は、慌て気味に銀で取った。これが悪手で、形勢バーは17:83と、ついに逆転してしまった。
こうなるから、持ち時間は残しておきたかったのだ!
藤井竜王・名人はその銀を取り返さず、さっきまっすぐ立った銀で、香を取る。村田六段は、上空にある目障りな歩を払う。
しかしそれだと△同桂成で、藤井竜王・名人の勝ちである。やっぱりそうなっちゃうか……と嘆息していたら、藤井竜王・名人は、相手の金を取りつつ竜を切った。これで先手玉が詰んでいるのか!?
ふつうに桂を取っても一手一手だったのに藤井竜王・名人がそう指したということは、後手が勝ちということだ。AIを見ると、この手以下23手で先手玉は詰むらしかった。私はあんぐりである。
例によってすべての駒が詰みに働き、美しすぎる投了図に収斂していく。村田六段はその中途で深々とお辞儀をした。投了の表示である。
……そうだろう、そうなんだろう。
どれだけ村田六段が優勢になっても、最後は藤井竜王・名人が勝つんだろうな、と思った。そしてそれが現実になり、私はあらためて、藤井竜王・名人の勝負術に畏怖を覚えた。
村田六段も頑張ったが、藤井竜王・名人に勝ち切る力はなかったということだ。優勢といってもギリギリの勝負だったから、最後まで正着を続けることは難しかった。
せめて角取りに桂を打たれたとき、少考で角を逃げてもらいたかったが、藤井竜王・名人の見えないプレッシャーに、容易に指せなかったのだろう。
私は藤井竜王・名人の八冠王を、簡単に見たくない派である。しかし現実には、王座挑戦まであと2勝。次の羽生九段戦が楽しみである。
コメント (4)
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