一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

美しき矢内理絵子女流四段に、いろいろ教えていただく(その2)

2013-04-20 10:51:17 | 女流棋士
「将棋ペンクラブの大沢と申します。本日はよろしくお願いいたします」
私のような怪しい風体の男が矢内理絵子女流四段クラスの美人に話しかけたら、場合によっては警察沙汰になるかもしれない。
しかしこっちには、話しかける正当な理由がある。何も卑屈になることはないのだ。矢内女流四段は警戒心を抱きながらも、会釈を返してくれた。
大久保駅南口から「としちゃん」(正確には「2号店」と付く)までは目と鼻の先である。ビルの前まで来たとき、
「矢内先生、髪を切りましたか?」
と、思い切って言ってみた。午前のNHK杯を観たときより、髪が短くなっていたからだ。と、矢内女流四段がかすかに笑みを浮かべた気がした。
ここから先は矢内女流四段に前を譲る。迷路のような通路を通り、「としちゃん」に矢内女流四段が姿を見せると、桂扇生師匠と打ち上げを開いていたみなが、盛大に拍手で迎えた。桂扇生師匠は将棋愛好家であり、それを客も知っていたのだ。
座敷の奥に矢内女流四段を招じ入れる。長机が2つ並んでいるだけの簡素なもので、ここが即席の指導対局場である。
前述の通り対局者は、木村晋介将棋ペンクラブ会長と、中年の男性氏2人、それに私だけだ。ただ盤駒が、木村会長らが用意した3組しかない。こんなことなら自分の分だけでも持ってくるんだったと後悔したが、いまさら嘆いても仕方ない。が、そこはよくしたもので、店側が将棋盤と駒を用意してくれた。
ただしこれが、二つ折りの汚ねぇ盤と安物の番太駒で、これで指導対局とは矢内女流四段に失礼な気がした。
とにもかくにも指導対局開始である。左の中年氏2人は大駒落ち、私の左隣の木村会長は飛車落ち。私は香落ちでお願いした。
矢内女流四段の初手、△5四歩! 大野八一雄七段との角落ち戦では時折あるが、香落ち戦では珍しい。もうこれだけで、私はビビってしまう。
中年氏のひとりは対局前、対局中に棋譜をつけたら失礼だろうか、とつぶやいていたが、そんなことはない。それが正当なスタイルともいえる。中年氏は立派な棋譜ノートを拡げていた。
私も女流棋士との指導対局なので、棋譜をつける。ただし私のは、詰将棋プリントの裏側で、このほうがよほど失礼だ。
矢内女流四段は中飛車に構えた。初手からの継続ではあるが、香落ちで中飛車は珍しいと思う。
ところで矢内女流四段は木村会長の正面に座っているが、やや体を傾け、左の3人に対峙している感じだ。それでいい。あまりこっちを注視されると、こっちがアガってしまう。
矢内女流四段はスルスルと左銀を6四に繰り出し、5筋の歩を交換してきた。なんとなく、原始中飛車のようだ。
時折チラッと矢内女流四段を鑑賞する。すっきりとした顔立ちで、宝塚の男役のようだ。LPSAにはいないタイプの美人である。
後方では打ち上げの真最中で騒がしく、これが指導対局の場とは思われない。テーブルの上には、ジョッキのウーロン茶。百戦錬磨の矢内女流四段も、さすがに初めての経験だろう。
私は▲2五歩△3三角を決めて、▲6六銀とぶつける。対して穏やかに△6四銀と引く手もあったが、矢内女流四段は△6六同銀。早く決着をつけるには、どんどん駒を交換したほうがいい、ということか。
矢内女流四段は少考でたんたんと指す。ひとりの客に集中的に時間を割いてしまう女流棋士も中にはいるが、矢内女流四段はいかにも指導対局馴れしている感じだ。
矢内女流四段、▲4三銀を防いで△4二金と上がったが、私は筋悪の▲1二銀。こういう手は悪いのは分かっているのだが、つい打ってしまった。
左の木村会長は、陽動気味に三間飛車に振っていた。木村会長は振り飛車党のようで、かつて林葉直子さんとの飛車落ち戦でも、飛車を振っていた。
ところで木村会長はかつて、フジテレビの「7人のHotめだま」という土曜昼の番組にレギュラー出演していた。いわばこんにちのタレント弁護士の走りである。
向かいは矢内女流四段、後方には桂扇生師匠だから、いつもの私ならアガリまくっているはずなのだが、将棋が前にあると、そんな思いも雲散霧消する。
矢内女流四段は△3二銀。この交換は下手が大損をしたが、将棋はまだまだこれからである。
ここから第二次駒組に移り、あまり気は進まなかったが、▲4六歩△同歩▲同銀と1歩を手に持った。矢内女流四段は△6五歩。やはりそう来たか。
▲同歩△7七角成▲同桂。ここで△3九角から馬を作られたらイヤだったが、矢内女流四段は△3三桂と左桂を活用した。これで私の▲1二銀が空振りになった。
私は▲6六角と急所に据える。△3九角を防いだだけの気が利かない手だが、この手に一局の命運を託した。
指導対局は座敷の隅でひっそりと行われているので、下手側は十分なスペースがなくギチギチだ。私は正座を余儀なくされ、時折立って足のシビレを取る。そのたびに、私のうしろにいる元オセロの中島知子似のおかみさんにゲラゲラ笑われた。
矢内女流四段は△5四金。左金がするすると中央に出てきて、このあたりは大山康晴十五世名人を彷彿とさせる。
しかし△4三への利きがひとつなくなったので、私は▲2三銀成と切り込んだ。△同銀に、いま思えば▲2四歩もあったが、私は▲3三角成と桂を取る。これで▲1二銀の顔が立った。
△5三飛浮きの馬取りに、私は▲6六馬と引く。やはり馬(角)はこの位置が絶好だ。ほかの将棋を見渡すと、中年氏2人は上手ペース。木村会長は、会長がよく指している。
その背後では、桂扇生師匠が打ち上げそっちのけで、それらの行方を見守っている。
△4三飛に、銀取りを受けて▲4七歩。次の楽しみは▲9五歩からの端攻めだ。ここはむずかしいながらも、下手が十分になった気がした。その局面が下である。

上手(香落ち)・矢内女流四段:1三歩、2三銀、3四歩、4三飛、5四金、6一金、7二銀、7三歩、8一桂、8二玉、8三歩、9一香、9四歩 持駒:角、銀、歩2
下手・一公:1五歩、1九香、2五歩、2八飛、2九桂、3七歩、4六銀、4七歩、5六歩、6五歩、6六馬、6七金、6九金、7六歩、7七桂、7八玉、8七歩、9六歩、9九香 持駒:桂、歩2
(▲4七歩まで)

ここからの3手は、1秒も考えなかった。
(22日につづく)
コメント (4)
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