2月1日に将棋ペンクラブの湯川博士幹事から手紙をいただいたことは以前書いたが、その封筒の裏に「4月14日、大久保駅近くのお好み焼屋で矢内女流から指導を受ける会、木村晋介主催。いかがでしょうか。」の書きこみがあった。
矢内理絵子女流四段の指導対局とは、興味を惹かれる。私はもちろん、参加の返事を出した。
後日湯川幹事から返信があり、当日は桂扇生師匠の独演会もあるとのことだったので、こちらも参加の旨を申し出た。
4月14日当日になり、私は会場である大久保駅前のお好み焼屋、というか居酒屋に向かった。午後2時から扇生師匠の独演会を楽しみ、それが終わると机をセッティングし、あとは矢内女流四段の到着を待つだけになった。現在の時刻は3時20分。指導対局はこの一隅で、4時から行われる。
注目の参加メンバーは、木村晋介将棋ペンクラブ会長(弁護士)に、中年の男性が2人、それに私だけだった。意外と少人数で、私を誘った湯川幹事の姿がないのが解せなかったが、まあいい。
今回の将棋会は、その中年氏らが木村会長を介し、矢内女流四段を招いたらしい。ごくごく私的な集まりだったわけだ。一般の将棋ファンがそんな簡単に女流棋士との指導対局をプロデュースできるのかと怪訝に思ったが、これも木村会長の威光であろう。しかし、ここに私がいていいのだろうか。
ところで私は長年の将棋ペンクラブ会員だが、木村会長は私をご存じないはずだ。でも私は待っている間、木村会長に、中井広恵女流六段の待ち受け画面を見せびらかした。木村会長はけっこう長く見入っていたが、とくに感想はなかった。
どうも木村会長は、矢内女流四段がここに真っ直ぐ来られるかどうか、心ここにあらずのようだった。しかし時間はまだ3時35分である。
だが私もここにいては、間が持たない。そこで検討の結果、不肖私が、矢内女流四段を大久保駅南口の改札前で待つことになった。
私のような薄汚い最低の人間が、女流棋士の到着を待ち伏せするのは怪しいものがある。しかし内心は、もちろんうれしい。思えば昨年も、とある駅の改札口で中井女流六段の到着を待ったことがあるが、あのドキドキ感は尋常ではなかった。今回も似たようなものである。
大久保駅南口に着く。大ターミナル駅のひとつ隣の駅は、わりと閑散としている例が多い。例えば上野の隣の鴬谷がそうだ。この大久保駅もそうで、世界を代表する新宿駅のひとつ隣であるにも関わらず、ホームは一面のみで、乗降も少ない。
改札を抜ける人はパラパラっといるが、まだ矢内女流四段の姿はない。
しかし数分後に、矢内女流四段は確実にここに来る。私はどんな態度でいればいいのだろう。きのう、風呂のガス湯沸かし器が壊れ、風呂に入っていない。臭くないだろうか。まったく間が悪いと思う。
その後も改札口の前で直立していると、3時45分ごろ、木村会長が脇から姿を見せた。スマホをいじっている。矢内女流四段と話をしているのだろうか。これは会長とバトンタッチかと観念したが、木村会長は私に「じゃあ頼むよ」と改めて言い残し、店に戻った。
そうか…いや〜、そうなのか!! やっぱり私が迎えるのか!!
これはいよいよ緊張してきた。矢内女流四段は上りと下り、どちらから来るのだろう。たしか矢内女流四段は、Gyoda在住だったはずだ。そこからここに来るには、どっちの電車に乗るのか。
いや、そもそも南口で降りるのだろうか。北口で降りて、そこから店に向かうことはないか? もしくは私のように、新大久保から歩いてくることも考えられる。いやそれはないな。
ふと前を見ると、茶系のコートを着たモデル風の女性が、250mlのペットボトルのお茶を提げ、ふらりと現われた。顔はキリッとしていて、美人である。その雰囲気は、ふつうの女性のそれでない。
…ああっ!? やうたん!? やうたんじゃないか!!
(つづく)
矢内理絵子女流四段の指導対局とは、興味を惹かれる。私はもちろん、参加の返事を出した。
後日湯川幹事から返信があり、当日は桂扇生師匠の独演会もあるとのことだったので、こちらも参加の旨を申し出た。
4月14日当日になり、私は会場である大久保駅前のお好み焼屋、というか居酒屋に向かった。午後2時から扇生師匠の独演会を楽しみ、それが終わると机をセッティングし、あとは矢内女流四段の到着を待つだけになった。現在の時刻は3時20分。指導対局はこの一隅で、4時から行われる。
注目の参加メンバーは、木村晋介将棋ペンクラブ会長(弁護士)に、中年の男性が2人、それに私だけだった。意外と少人数で、私を誘った湯川幹事の姿がないのが解せなかったが、まあいい。
今回の将棋会は、その中年氏らが木村会長を介し、矢内女流四段を招いたらしい。ごくごく私的な集まりだったわけだ。一般の将棋ファンがそんな簡単に女流棋士との指導対局をプロデュースできるのかと怪訝に思ったが、これも木村会長の威光であろう。しかし、ここに私がいていいのだろうか。
ところで私は長年の将棋ペンクラブ会員だが、木村会長は私をご存じないはずだ。でも私は待っている間、木村会長に、中井広恵女流六段の待ち受け画面を見せびらかした。木村会長はけっこう長く見入っていたが、とくに感想はなかった。
どうも木村会長は、矢内女流四段がここに真っ直ぐ来られるかどうか、心ここにあらずのようだった。しかし時間はまだ3時35分である。
だが私もここにいては、間が持たない。そこで検討の結果、不肖私が、矢内女流四段を大久保駅南口の改札前で待つことになった。
私のような薄汚い最低の人間が、女流棋士の到着を待ち伏せするのは怪しいものがある。しかし内心は、もちろんうれしい。思えば昨年も、とある駅の改札口で中井女流六段の到着を待ったことがあるが、あのドキドキ感は尋常ではなかった。今回も似たようなものである。
大久保駅南口に着く。大ターミナル駅のひとつ隣の駅は、わりと閑散としている例が多い。例えば上野の隣の鴬谷がそうだ。この大久保駅もそうで、世界を代表する新宿駅のひとつ隣であるにも関わらず、ホームは一面のみで、乗降も少ない。
改札を抜ける人はパラパラっといるが、まだ矢内女流四段の姿はない。
しかし数分後に、矢内女流四段は確実にここに来る。私はどんな態度でいればいいのだろう。きのう、風呂のガス湯沸かし器が壊れ、風呂に入っていない。臭くないだろうか。まったく間が悪いと思う。
その後も改札口の前で直立していると、3時45分ごろ、木村会長が脇から姿を見せた。スマホをいじっている。矢内女流四段と話をしているのだろうか。これは会長とバトンタッチかと観念したが、木村会長は私に「じゃあ頼むよ」と改めて言い残し、店に戻った。
そうか…いや〜、そうなのか!! やっぱり私が迎えるのか!!
これはいよいよ緊張してきた。矢内女流四段は上りと下り、どちらから来るのだろう。たしか矢内女流四段は、Gyoda在住だったはずだ。そこからここに来るには、どっちの電車に乗るのか。
いや、そもそも南口で降りるのだろうか。北口で降りて、そこから店に向かうことはないか? もしくは私のように、新大久保から歩いてくることも考えられる。いやそれはないな。
ふと前を見ると、茶系のコートを着たモデル風の女性が、250mlのペットボトルのお茶を提げ、ふらりと現われた。顔はキリッとしていて、美人である。その雰囲気は、ふつうの女性のそれでない。
…ああっ!? やうたん!? やうたんじゃないか!!
(つづく)