北京・胡同窯変

北京。胡同歩きが楽しい。このブログは胡同のあんな事こんな事を拙文と写真で気ままに綴る胡同お散歩日記です。本日も歩きます。

第16回 通州の胡同・安家大院 (その一・もう一つのドア)

2014-11-07 04:01:17 | 通州・胡同散歩
たとえば、こんなことはなかったろうか。
幼い頃、いつも身近にあったお気に入りのオモチャがいつの間にかオモチャ箱から消えていた。
遊びに来た親戚の子に親があげてしまったんだ!!
小学生の頃の給食の時間。好物のクリームシチューをおかわりしようと配膳台のところに行ったら、
とっくに他の生徒たちが食べきった後で鍋が空っぽになっていた。担任がシチューを頬張りながら
目を輝かせて言ったっけ。「満腹くん、ちょっと遅かったわネ」。あの時、残りの一椀分を
食べてしまったのはひょっとしてこの担任だったのかもしれない。
昨日まで仲良く遊んでいた友達が転校かなにかでふいに目の前からその姿を消してしまった。
貸しておいたマンガ本、まだ返してもらっていなかったのに・・・。

喜びに溢れた出会いがあるように、悲しみに満ちた別れもある。
通州の胡同の場合もそのほんの一例と言ってよいかもしれない。

今回ご紹介する胡同・安家大院を訪れたのは、昨年の秋から冬にかけて。
その時、胡同の出入り口は次のようなものだった。







濃密な時の堆積を感じさせるその古色を帯びた外壁に魅了され、酔った。壁酔いである。

その時、思ったものだ。
胡同の古壁は、すぐれた書物に似ている。それは使い捨てライターとは違い、何度でも何度でも
繰り返し繰り返しその火が人の心を温め、そして豊かにしてくれる、と。


今年、某月某日、安家大院を再び訪れた。

ガーン!! 






あの好きだった古色を帯びた壁がグレーとホワイトのツートンカラーに。

「責任者、出て来ーい!!」
大声で怒鳴りたかった。


でも・・・

私の心は涙のいずみ
悲しみの涙を湛えています

そんな意味不明なことを心の中でつぶやきながら、とにもかくにも新しくなった安家大院に
よろっと短い足で初めの一歩を踏み出した。


すると・・・


出たあァァ。


洗濯物のお出迎え!!






感激した~◎◎!!!


で、軽薄短小を絵に描いたようなノー天気な私の心からは、別れの悲しみなんかどこぞへ行ってしまい、ついさっきまで
悲しみのためにか弱い小鳩のようにうちふるえていたハートに火が点いた。

悲しみの涙を湛えた別れがあるように
喜びに溢れた「出迎え」もあるんだ!!

やっぱり意味不明なことを考えながら、胸をはり軽やかに歩き出そうとすると・・・



今度はワンちゃんたちの出迎えだ◎◎!!



ワンちゃんたち、ちょっと待って・・・。




ワンちゃんたちが入っていったおウチ。

入口脇にみどり。
これ、これがいいんですよ。


中を覗いてみると・・・。


ワンちゃんたちがお行儀よく並んで歓迎してくれました。
これが飼い犬のスースー(思思)だったら思いっきり抱きしめて怒涛のようにチュッチュッ攻撃を浴びせるのだが、まさか
他所の飼い犬にそれをやるわけにはいかない。鼻の頭でも齧られたら大変だ。スースーにも何度も齧られているが・・・。
そこで「本当にカワイイ子たちだ」と声をかけてその場をあとに。
鉢植えの花たちがきれいだった。


ワンちゃんたちのおウチの前の家の門。


玄関上部の飾り。私の記憶違いでなければ、4分の1の円の瓦を組み合わせて作った文様。
「花瓦頂・huawading」と言います。

このおウチの前辺りから進行方向を見る。




昨年は右側に見える屋根の上にニャンコがいたっけ。






写真左側のおウチ。


壁の模様がなぜか段違いになっているところが謎。
玄関上部の飾り。こういう可愛らしい模様もあり、お住まいの方の趣味やお人柄がこちらに伝わってくるようだ。


ちょっと前に進んで前方を。




左側のおウチ。


植物が挨拶。「こんにちは。お元気ですか?」


右側のおウチ。




さらに進むと、こんな感じ。






道端に私の好きな石臼の一部が。


胡同に似合うもの。イヌ、ネコ、植物、石臼などなど。


さらに進むと、右側に年季の入った壁と洗濯物。





こういう光景を見ていると、パリを描いた画家・荻須高徳さんが何とおっしゃるか聞いてみたい気がする。
屋根の形。
中国北部においてもっとも一般的な屋根の形態。中国語で強固な山を意味する「硬山頂・yingshanding」と言います。


洗濯物と壁の斜め前のおウチ。




さらに進み、左のおウチ。




このおウチの前の壁と道。



クルマの前から進行方向を見ると。




ちょっと進むと、細い路地が。




昨年は、こんな感じだった。



中に入ってみましょう。



突き当たりのおウチ。


上部の飾りがカワイイでしょ。チューリップ?が踊ってる。見ているとこちらも一緒に踊りたくなってしまいます。
住んでいらっしゃる方の素敵な人柄が伝わってくるようで、こちらも嬉しくなってしまう。
胡同にはこういうのホント似合うと思う。


振り返ってみると・・・。



左側の壁が素敵だったので思わずシャッターをきった。


誰か絵にしてくれる人は、いないんか。まあ、誰にもこの味は出せまい。いるとしたら、それはこの壁自身である。

「裏道に花山あり」
千利休さんが言ったとか言わなかったとか・・・。


細い路地を出て、ちょっと先に進むと。


右側に後日ご紹介予定の胡同「北二条」。

もちろん、まっすぐ歩きます。




ここらで振り返ってみると。
前に胡同に似合うものとしてイヌ、ネコ、植物、石臼をあげましたが、胡同に似合うものの一つとしてはこれを
見逃すわけにはいきません。

それは、これ!!



イスに座って日向ぼっこ&情報交換中のおばさまたち。


「胡同・futong」という言葉はモンゴル語の「井戸」の事だというのがほぼ定説のようだが、もしそうならば胡同には
井戸端会議の名人や達人がズラーっとそろっているにちがいない。もちろんこんなことは胡同の特徴(また特長)・魅力の
ほんの一例に過ぎないわけだが、そんな胡同はちょっとよそ行き顔にとりすまし、しゃちほこばった客間のような
幹線道路沿いの街並みや観光地とは一味も二味も違う、北京という街の内側(路地裏の「裏」という語は「内」ということだ)に
秘匿された、気のおけない人々の集う知る人ぞ知る一大アミューズメントパークなのかもしれない。


もとに戻って前進。



左のおウチ。




少し行くと右側にこんなおウチが。



玄関。




入口に続く壁と窓。




モダンな窓。


古いものと新しいものとの並置・共存あるいは融合。


前のおウチ。




ちょっと前に進むと左側に道。


安家大院はここでふたまたに分かれているんですね。

安家大院という胡同は、大雑把に言えばアルファベットのTという字を横に倒したような格好をしている。
今歩いているのは、このTの頭の横棒の部分だと思ってくださるとよいかもしれない。向かって右端が北になるが、
私はここを起点として歩き始めたわけだ。そして現在いるのはこのT字の横棒と縦棒とがまじわる地点ということになる。



今回は、右側の道を行きます。




すると・・・左側のおウチから女性がバイクを転がして出てきた。




女性とバイクの前を通り過ぎて。




右側のおウチ。



正面から。




振り返ってみたら女性がバイクを洗っていた。


大切にしてるんですね。


歩みを元に戻し、左側のおウチ。


道端菜園?


玄関。


手作り感たっぷりの年季の入った味のある入口。つかみやすく開けやすいように斜めに取り付けられた、やはり味のある取っ手。
ドアと一口に言ってもいろんなデザイン、材料などがある。
硬く、冷たく、表情のないドア。苦手だ。


角度を変えて。




さらに前進。


右側の男性が立っている所までが安家大院です。


さらに前に進み、左側のおウチ。



上のおウチの前から進行方向。



さらに前に進むとこんな感じ。




ちょっと進んで振り返ってみると。


左側に行くと後日ご紹介する「馬家胡同」だ。

今回はTの字の横棒部分の右端から左端まで歩いた。
来た道を振り返って、ノー天気な頭と心でこんなことを思っていた。
その良さをより良くよりいっそう生かすためには、時によって古いものも新しいものも変る必要があるのかもしれない。
でもね、その勇気がね、なかなか出せないんだよね。

近くの壁に手を触れてみると温かかった。


帰り道。空にヒコーキ雲があった。





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