状況に対応するいろいろな行動の普遍的事実を見いだす研究法の開発 心理学においては、人間とは何かを考察し、人間の主観的体験や個人によって異なる 傾向などを、できるだけ客観的に、かつ定量的に捉えるために、先人が努力を積み重ね てきた。その結果、自然科学とも、人文学とも異なる、独自の研究手法が開発されてい る。その根底には、すべての人に、発達、意識、知覚、学習、記憶、思考、動機付け、 感情などの共通の働きを前提にすることができるという合意がある。しかし、人は同じ 状況において、同じ行動を取ることも、異なる行動を取ることもある。また異なる状況 で、異なる行動を取ることも、類似した行動を取ることもある。その中に普遍的な事実 を見出すべく、様々な研究手法を開発することも、心理学の役割である。これまでに、 実験現象学、精神物理学、行動主義的方法、脳機能計測、質問紙法、尺度構成などの研 究手法、それに関わる統計学的・数理的手法が開発され、改良を加えられている。
個々に異なる人の特性の複雑な面を捉える 人および人が構成する社会を鑑みると、人それぞれを個別のものとしている特質に詳 細に注意を向ける必要もある。特に、人格心理学、異常心理学、犯罪心理学、臨床心理 学、教育心理学、発達心理学および医療に関わる心理学といった分野において、このよ うな視点が重要であり、そのために、人を相互に異なったものにしている生物学的・環 境的要因に焦点を当てて、知的能力、人格、自己概念などを測定する方法が開発されて いる。 臨床の現場においては、ひとりひとりの脳の損傷の在り方が異なることや、精神症状 が多様であることなどを無視できず、個別の対処や治療法が必要であることを踏まえた 上で、症例の検討が進められている。それ故に、特異な事例の記述から、重要な見解が 導かれる場合がある。これら臨床の現場での特異な事例について、個々人の特性の複雑 な面を捉えることも心理学の重要な役割であり、この観点から、価値観、興味、態度、6 人格特性、知能、適性、学習・発達の特性など心理学的測定による評価がなされるので ある。個々に異なる人の特性の複雑な面を捉える上では、研究内容と研究手法との整合 性を常に配慮しなければならない心理学の重要な側面である。
(日本学術会議)