飛水峡

思い出

読売新聞

2007年09月03日 23時26分19秒 | なぞ食探検隊
さばずし


 城端別院善徳寺(南砺市城端)の名物に「さばずし」がある。7月下旬の「虫干法会(むしぼしほうえ)」で振る舞われ、「これを食べないと夏が越せない」とまで言うファンも多い。なぜお寺なのに、ナマグサなのか? その謎を聞いてみた。


泡立てるほどまろやか
 城端別院善徳寺(南砺市城端)の名物に「さばずし」がある。7月下旬の「虫干法会(むしぼしほうえ)」で振る舞われ、「これを食べないと夏が越せない」とまで言うファンも多い。なぜお寺なのに、ナマグサなのか? その謎を聞いてみた。

 さばずしと言っても、いわゆる「バッテラ」ではない。善徳寺のさばずしは、長時間つけ込み、乳酸発酵で作る「なれずし」だ。



しっとりと仕上がったさばずし。乳酸菌の力で新たなおいしさが生まれる 5月下旬、周辺の鮮魚店で作る「城端魚商組合」が、同寺北側のさばずし専用の納屋で漬け込み作業を行う。約2か月後の7月22日から1週間、寺の宝物を展示する「虫干法会」の昼食「お斎(とき)」で振る舞われる。

 同寺列座の高島静心さん(59)の案内で、さばずしの樽(たる)を見せてもらった。今年は8樽分、塩サバ1280匹、米80キロを漬けたという。三枚におろして、塩水で洗ったサバの身と堅めにたいてさました米、境内に生えるサンショウの葉をだんだんに重ね、木おけにいれ、約20キロの石の重しを二つ。年季の入った木おけを眺め、「この木おけでないとおいしくならん。この中にきっと良い菌がおるがいちゃ」と高島さん。

 重しを取った木おけの上は、茶褐色の魚醤(ぎょしょう)が覆う。その液体をひしゃくですくい、上にのせた経木と縄を取り除くと、クリーム色になった米粒とサバの身が現れた。

 甘酸っぱいような香り。食べると、サバの脂と甘味、ほのかな塩気と酸味が口の中に広がる。お斎には出さないという、米粒を食べてみると、その味はチーズにそっくり。まろやかで、発酵が生み出す味の深みに圧倒された。

 「まさに醍醐味(だいごみ)ですね」と県公文書館古文書調査員の斎藤耕三さん(81)。発酵したチーズのうまみを醍醐味と表した、古来からのうまみが詰まっている。

 斎藤さんによると、虫干法会が始まったのは、1896年(明治29年)。宿泊客にお斎を振る舞ったと見られるが、その時からさばずしがあったかどうかは不明。いずれにせよ、戦前にはすでに同寺の名物だった。

 同寺輪番の大村忍さん(76)は、「この地方では、昔から貴重なたんぱく源としてなれずしを作ってきた。遠来からの客をもてなす『もてなしの心』としてさばずしを出したのでは」と話す。「保存がきき、切り分けるだけのさばずしは、大勢の客に出すには最適だったのだろう」とも推測する。

 今夏には、高島さんらが発起人になり、「さばずし同好会(仮称)」を設立した。手間暇かけて作る味と心を次世代に残そうという試みだ。

 南砺市井波の瑞泉寺にも、こうじを入れて仕込むさばずしがあり、富山では、寺とさばずしは深い関係にある。信仰心は薄い隊員だが、歴史が作ったこの味を富山名物としてずっと残していって欲しいと切に願う。



◇探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ54歳
隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代女性


年季の入った木のたるに、サバと米、サンショウの葉をだんだんに重ねて漬け込む(城端別院善徳寺で)


隊長「まるでチーズ」
 うまいッ。この味、まるでチーズじゃないか。においもさほど無く、軽やかな塩加減に複雑な味。2か月以上、重しの下で頑張った微生物の成せる技か。

 サバにまとわりついているご飯、これがまたうまい。行儀が悪いとはわかっていましたが、皿に残ったご飯粒まで、きれいにいただきました。サバ、米、塩だけで、ピザの上でとろりと溶けるブレンドチーズのようなまろやかな味と舌触り。

 聞けば、同じ職人が漬けこんでも、別院のさばずしだけは特別な味だとか。いろんな理由があるのだろうが、「何百年も祈り続けられた思いの成せる技」ではないかと思う。

 別院では、さばずしのご飯は食べないという。なんともったいない。思いのこもったこの味もきっと、町の名物になる。





(2007年9月1日 読売新聞)


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