飛水峡

思い出

読売新聞

2007年09月11日 14時08分55秒 | なぞ食探検隊
てんたかく


 富山生まれのわせ品種の米「てんたかく」が、店頭に並び始めた。猛暑の今年も作柄が悪くないという。実は、この品種、高温でも品質良く育つ“地球温暖化対策”米でもあるのだ。時代を先取りするその味を食べてみた。


人肥ゆる温暖化対策米
 富山生まれのわせ品種の米「てんたかく」が、店頭に並び始めた。猛暑の今年も作柄が悪くないという。実は、この品種、高温でも品質良く育つ“地球温暖化対策”米でもあるのだ。時代を先取りするその味を食べてみた。

 開発した県農業技術センター(富山市吉岡)を今月4日に訪ねると、ちょうど「てんたかく」がたわわに実っていた。「高温に強くて、品質が良いわせ種。それがこの米の特長です」と農業試験場作物課主任研究員の蛯谷武志さん(42)が教えてくれた。

 米の新品種は、異なる品種のめしべとおしべを掛け合わせる「交配」で誕生する。同センターで県産のわせ品種を開発するため、交配を始めたのは1992年。無数の組み合わせの中から、福井県生まれで高温に強い「ハナエチゼン」を母親に、味の良い「ひとめぼれ」を父親に掛け合わせたところ、「両親の良いとこどりの有望な米が生まれてきた」と蛯谷さん。

 ちょうど99年ごろから富山でも稲の高温障害が問題になってきた。稲が実る時に高温が続くと、暑さ負けして米粒が白く濁り、品質が低下してしまう。生まれた子の中でも高温に強い系を選んだところ、「それが当たったんです」と同作物課の舟根政治課長(51)は話す。

 2003年に品種登録し、翌年から県内でも本格栽培を開始。千葉の「ふさおとめ」や新潟の「こしいぶき」など他県でも高温に強い米の誕生が続いており、「てんたかく」もそのトレンドにあった米と言える。

 JA全農とやま米穀課によると、県内の米の作付け面積は、コシヒカリが約83%、てんたかくが10%。「いずれは『てんたかく』を20%まで上げたい」と同課。直まきでも倒れにくく栽培しやすい上に、「両親とも元をたどればコシヒカリ。ほどよい粘りと甘味があり、外観に透明感があってきれい」と評価する。価格はコシヒカリより少し安く、3割が県内で消費され、7割は関西方面を中心に県外に出荷されている。



(右)てんたかくの魅力を話す瀬戸さん(左)マスを使ったいぶり鮨(手前)。冷めてもおいしく酢飯に最適という(富山市千歳町の「いぶり鮨香家」で) その味に、「冷めてもおいしい。すし飯にこんなに合うお米はほかにない」とまでほれ込むのが、「食のルネッサンス いぶり鮨(ずし)香家」の瀬戸祐子社長(42)だ。同社では富山空港で販売する、いわゆる空弁や、薫製したマスやブリの「いぶり鮨」などにこの米を使う。

 マスのいぶり鮨を食べてみると、ほろっと口の中で米粒がほぐれ、うまみと甘味が広がる。「もちもちっとしているけれど、粘りすぎず、米粒の形も崩れない。弁当にも最適です」と瀬戸さんは強調する。

 米の新品種が誕生するまでには、数限りない組み合わせを手作業で地道に試す根気と運、そしてその米を栽培し、味を広める人がいる。うまい米に出会えた幸運に感謝しつつ、新米をほおばりたい。



◇探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ54歳
隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代女性


たわわに実った「てんたかく」を見つめる蛯谷さん(富山市吉岡の県農業試験場で)


隊長「売薬さん」も一役
 江戸時代の富山には数々の優れた米の品種が集まった。米を見る確かな目を持つ農家の二男、三男が「売薬さん」になり、全国からえりすぐりの穂を集めたと言われている。

 安定した気候は種もみの栽培にも適し、富山は現在も、全国一の種もみ供給県。新品種の誕生は、米どころ富山の面目躍如だろう。

 さて、米が全国に広がるには、ハードルがある。それは電気炊飯器の壁。米問屋の知人から、コシヒカリ対ササニシキの話を聞いた。ササニシキも食味は負けないが、炊飯器メーカーが多い関西への進出が遅れた。気が付けば炊飯器の仕様はコシヒカリ用になったとか。それが今のコシヒカリ全盛にもつながっている。





(2007年9月8日 読売新聞)


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