飛水峡

思い出

読売新聞

2007年02月17日 20時14分36秒 | なぞ食探検隊
かぶす汁


キトキトの魚を惜しげもなくたっぷり使ったみそ汁が氷見にあるという。名前は「かぶす汁」。おわんを傾けると、魚が鼻にぶつかるほど山盛りで、元々、漁師が舟の上で味わったものらしい。海の恵みを味わいに、氷見に出かけた。


新鮮 山盛り 漁師の味
 キトキトの魚を惜しげもなくたっぷり使ったみそ汁が氷見にあるという。名前は「かぶす汁」。おわんを傾けると、魚が鼻にぶつかるほど山盛りで、元々、漁師が舟の上で味わったものらしい。海の恵みを味わいに、氷見に出かけた。

 氷見市比美町の「氷見魚市場食堂 かい寶(ほう)」は、文字通り、氷見漁港の魚市場の2階にある。朝5時半から午後3時までの営業で、漁業関係者だけでなく、一般客も利用できる。

 そこで、かぶす汁(500円)を注文してみた。直径約20センチほどのおわんの縁から、ぶつ切りにしたフクラギや小ダイ、カニなどが盛り上がっている。すごいボリュームだ。「その日に取れた魚で作るから、中身は違うけれど、いつも3種類以上の魚が入るね」と料理を担当する高田幸夫さん(56)。



みそとネギの香りが食欲をそそる 作り方を聞くと、「水で洗って、ウロコと内臓を取ってぶつ切りにして、わかした湯に入れ、みそを入れる」ときわめてシンプル。元々が漁師の料理で、魚からだしが出るから細工はしなくて良いという。

 食堂の壁にかぶす汁の説明が掲げてあった。取れたての魚を船の上で料理して作るかぶす汁を「ゲバ桶(おけ)で持ち帰る」

 ゲバ桶? JF氷見(氷見漁業協同組合)総務部長の広瀬達之さん(53)に尋ねると、「丸弁当とも言うな。ご飯と『ちゃん鉢』が入っていて、浮きであり、弁当でもある」と謎めいた答え。今も船の上で使われていると聞き、ちょうど魚の水揚げを終えたばかりの第一灘浦丸の福田政治さん(58)に、愛用の桶を見せてもらった。

 木製の丸い桶の底に「ちゃん鉢」と呼ばれる丼とハシが入り、その上にご飯入りの丸い桶が入る二重構造。フタを閉め、ひもで結んで持ち歩き、いざという時に水面に放れば、水に浮いて救命道具にもなる優れものだ。

 かつては船上で、かぶす汁とさしみをおかずにしてご飯を食べ、軽くなった桶に、汁の残りの魚を入れて家に持ち帰った。『かぶす』は、定置網を起こした時の漁師の分け前を現物支給の魚でもらうこと。「かぶせる」「隠す」から転じたとする説がある。

 冷たい海の上で、漁師の体を温めるかぶす汁。ゲバ桶には、そのうまさ、温かさを家族に持ち帰ろうとする海の男の優しさが詰まっている。そう思って、魚の濃厚なうまみがしみ出したかぶす汁をすすると、体の中がほっと温かくなった。


ご飯の入った弁当を見せる福田さん(左)
隊長 「ちゃん鉢よ、おまえは今……」
 ちゃん鉢から飛び出す魚のしっぽ。白身をこそげ落として、骨をハシで押さえながら、魚の身とネギをそろそろと吸い込む。胃袋にまでしみ込む磯とみそ。 この味のために生まれたちゃん鉢。丼より平たく浅めの陶器で、骨を取りやすい。塗りのおわんと違って骨で傷む心配もなく、だしを存分に堪能できる。魚(うお)ん鉢や魚(さかな)碗とも呼ばれ、昔はどの家でもよく見かけた。 いつごろからか、姿を消した。魚を丸ごと使う家が減ったからか。数年前黒部の祭り「オオベッサマ」で尾頭付きのマダイが盛られたちゃん鉢を見て涙が出た。



探検隊メンバー


寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ53歳

隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代




(2006年10月7日 読売新聞)


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