飛水峡

思い出

読売新聞

2007年02月17日 20時38分38秒 | なぞ食探検隊
山の保存食


秋が深まってきた。冬眠前の腹ごしらえか、県内各地にクマが出没している。体形がクマにそっくりな寺嶌隊長から「山の冬支度を見に行かんけ?」と誘われた。長い冬に備えて、食材を蓄える人の技と知恵を教えてもらいに出かけた。


太陽の恵みと愛情凝縮
 県21世紀の森(富山市八尾町杉ヶ平)は、JR八尾駅から車で小一時間。岐阜との県境近く、大長谷と呼ばれる地区にあるキャンプ場や学習施設だ。

 管理人の津田利雄さん(73)、ふみ子さん(71)夫妻を訪ねた。「今年はきのこが10日ほど遅れとるわ」と利雄さん。それでも、森の切り株には、ナラタケがびっしり。「人工栽培ものとは、味も香りも違う。みそ汁に入れたらうまい」

 辺り一面にニョキニョキはえるキノコに圧倒されていると、「霜が降りる前にいろんなものを刈り取って、干したり、漬けたりと忙しい」とふみ子さん。

 キノコは塩漬けに。クリは生のまま砂に埋めるか、ゆでて糸に数珠のようにつないで干しておく。畑の野菜も軒先に下げたり、囲炉裏の上につるしたり。



ずいきをわらで干す津田ふみ子さん ふみ子さんが、ずいき(芋がら)を干す作業を傍らで見せてもらった。子どもの背丈ほどに伸びた八頭の茎を根元で切り取り、葉を取って皮をむき、縦に裂いて、わらでつるす。ふみ子さんの丸い手が器用にくるくると動き、見る間にわらが縄に変わり、ずいきをつないでいく。

 10日ほど天日でからからになるまで干したずいき。お湯で戻すと軟らかくなり、水で戻すと歯ごたえが残る。みそ汁や煮物の具に重宝するそうだ。

 「昔は冬になったら、買い物になんて出なんだもんや」とふみ子さん。干し野菜のほか、赤かぶや白菜などの漬物、春にゆでて塩水に漬けておいたススタケ、雪の中に埋めたウサギやクマ、イノシシの肉。今ほど車が普及していなかったせいもあるが、冷凍冷蔵庫がなくても、山の恵みで十分冬を越せたという。

 南砺市平地区では、冬を越した漬物をさらに干して「干しぐき」を作る。白菜やしゃくしななど葉物の漬物を、塩出しをして、春の天日に干しておく。

 それを一晩かけて戻して、甘辛くいり煮にしたり、カボチャの種をすりつぶした粉とあえたりする。「『ひなたくさい』というか、お日さまの味がしておいしいんです」と南砺市平支部食生活改善推進委員の蔵喜多子さん(61)。

 味付けは、しょうゆやみりん少々。干した野菜のうまみでだしを入れなくても十分おいしい。「一冬越さないと出ない味」と同支部の蔵一子さん(65)、幅田富子さん(75)が口をそろえた。

 食材を無駄にせず、おいしく食べるため、手間と時間をかけて作った山里の味。ファストフードに慣れた体に、しみじみとした味わいの深さがしみた。


蔵さんら食生活改善推進委員お手製の干しぐきの煮物(手前)と、ずいきと干し大根などの保存食
隊長 「芋茎の縄」インスタントみそ汁?
 歴史小説に武田信玄が荷縄兼食料として「芋茎(ずいき)の縄」を使ったと書いてあった。津田さんに尋ねると、「あぁ、若いころ、作った」。実物を再現してもらった。

 温度80度くらいの濃いみそ汁で干したずいきを煮る。軽く絞って再び干し、カラカラに干し上げて縄に編む。「腰に巻いていって、チョッコずつ切って湯に入れんがよ」。見事においしい、ずいきのみそ汁が10秒ほどでできあがる。

 煮込む時に秘伝の薬草を入れたりし、コレさえあれば、10日以上山を走れたとか。保存というよりおいしくするために手をかけた逸品だった。



探検隊メンバー


寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ53歳

隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代




(2006年10月14日 読売新聞)

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