飛水峡

思い出

読売新聞

2007年10月01日 20時31分04秒 | なぞ食探検隊
呉 汁


 稲刈りが終わると、そろそろ大豆の収穫シーズン。豆のうまみを存分に味わう料理に「呉汁」がある。秋口までは枝豆を使い、美しい緑の泡がのった汁が食べられる。手間がかかるので、最近はあまり食べなくなったという緑の呉汁を氷見市で味わった。


枝豆の「泡」ふわり
 乾燥した大豆を水に戻してすりつぶし、みそ汁に加える「呉汁」。全国各地に残る郷土料理だが、氷見市では枝豆を使い、カマスなど魚のだしで作る家庭が多いという。

 「生の枝豆で作ると、きれいな緑の汁になる。鯛のザン(あら)でダシを取ったみそ汁に、今の時期ならシバタケを入れると、何とも言えんほどうまい」と、同市宇波の味(み)ん宿(しゅく)「灘浦荘」の杉木克己さん(59)。「でも、手間がかかるから、あんまり作らんがいちゃ」

 作り方は、みそ汁の仕上げに豆をすりつぶしたものを加えるだけと簡単だが、下準備に手間がかかる。



丁寧に豆をすりつぶす杉木さん。手間と根気がおいしい味を作り出す まず、畑から収穫したばかりの枝豆をさやから外す。ゆでたものと違い、生はさやにくっついて外れにくい。手作業で根気がいる。「忙しい時代、こんな事をやっとれんやろ」と杉木さん。

 青い香りがする生の豆を洗って薄皮を取り、フードプロセッサーやすり鉢などですりつぶす。杉木さんは、少し粒を残す程度にすりつぶしたが、つぶし加減は好みという。ひすい色のクリームのようになった枝豆を、熱くしたみそ汁の中に。泡がふわーっと鍋の上に盛り上がる。

 おわんに盛りつけ、ダイコン葉を飾って完成。この日は昆布と煮干しのだしにナメコを入れた汁だったが、とろりとした豆のこくと、ふわふわの泡の食感が加わり、普段のみそ汁より数段格が上がった。

 ここ数年、スペインの有名レストランを発祥に、ふわふわの「泡」を料理に取り入れるのがブームになっている。でも、そんなブームのずっと前から、日本では、泡の美しさ、おいしさを知っていたようだ。

     ◇
 JA全農とやま農産課によると、昨年の富山の大豆の収穫量は7660トンで、その9割がエンレイという品種。たんぱく質が多く、甘味が少ないため、豆腐に適している。

 転作作物として1981年から本格生産が始まり、単位あたりの収量が日本一だった時期もあったが、連作障害や温暖化、大雨による湿害などの影響で、最近は収穫量が落ちている。

 県では、栽培地に土地を肥やす植物を植え、水はけを良くする溝を掘り、エンレイより収穫時期が遅い品種「オオツル」を取り入れるなど、努力をしているが、富山の大豆栽培はちょうど転機にきていると言えそうだ。



◇探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ54歳
隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代女性


ふわふわの泡がおいしい呉汁(氷見市宇波の「灘浦荘」で)


隊長「季節で変色“畑の牛乳”」
 大豆が「畑のステーキ」だとすれば、呉(豆汁)は「畑の牛乳」だ。呉を固めて豆腐にし、みそやしょうゆにつけ込むと、まるでチーズのように濃厚な味になる。鍋の中でフワァフワァと固まるさまは、牛乳にレモン汁を入れて固めるフレッシュチーズのよう。洋の東西を問わず、人間はよく似た味覚を持っているものだ。

 豆をよくすりつぶすと、きめ細かな泡が立ち、粒を残せばツブツブの食感が面白い。呉汁は、作る季節によって色が変わる。木の葉が色づく今ごろはちょうどひすいの緑色。落葉の11月には、雪のような純白に。ひすい海岸と雪景色を楽しめる富山の味と言えないか。





(2007年9月29日 読売新聞)


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