飛水峡

思い出

読売新聞

2007年09月23日 17時31分31秒 | なぞ食探検隊
とろろ昆布おにぎり


 運動会に行楽、そして収穫の秋。お弁当に欠かせないのが、とろろ昆布のおにぎりだ。県内ではコンビニエンスストアでも見かける「定番」だが、他県ではあまり見かけないという説も……。とろろ昆布おにぎりの謎を追ってみた。


うまみと酸味凝縮
 居酒屋でシメにおにぎりを頼むと、のりと昆布が1個ずつ。隊員は、それが当たり前と思っていた。ところが、予約して訪れた観光客に昆布おにぎりを振る舞う専門店「四十物(あいもの)こんぶ」(黒部市生地中区)の四十物直之社長(54)は、「関東から来た人に黒とろろのおにぎりを出したら、おはぎと間違われた」と笑う。



昆布を削ってみせる四十物さん 東京暮らしが長かった石井知事も「帰省して、一口ほおばると、富山ならではの故郷の味が身に染みた」。知事は女性雑誌のアンケートでも富山を代表するご飯として、このおにぎりを挙げ、「立山登山に運動会、サッカーの試合と、小中学生のころの弁当と言えば、磯の香りをたっぷりまとったとろろ昆布おにぎり。とろけるような口当たりで仲間と食べるとなおのことおいしかった」と振り返る。

 コンビニエンス大手の「ファミリーマート」(本社・東京都豊島区)によると、現在、同社の「とろろ昆布おむすび」(128円)は、北陸地方の富山、石川、福井3県だけの販売で、全国では「催事などで時折販売する」が、定番商品ではない。北陸の中でも、富山と福井県敦賀地区の売れ行きが良く、売り上げは石川県の約1・5倍だ。

 「富山と福井の敦賀、大阪の堺がとろろ昆布をよく食べる地域。北前船の寄港地なんです」と四十物社長が教えてくれた。

 江戸時代に大阪と北海道を結んだ北前船の各寄港地で、昆布を売りさばいたため、昆布料理が広まった。明治以降は新川地区を中心に北海道に開拓に出た人も多かったため、富山では昆布がより身近になったという。2006年の総務省「家計調査」によると、富山市の1世帯あたりの昆布の年間支出金額は全国1位。1960年からずっとトップを保っている。

 とろろの中でも、肉厚の昆布の表面外側だけを削ったのが「黒とろろ」。最近は削れる腕を持つ職人が減り、薄い昆布を重ね、脇からタテに機械で削る方法も広まっているそうだ。ほのかな酸味は、乾燥させた昆布を一度、醸造酢に漬けて軟らかくしてから加工するためだ。

 「食べてみられ」と四十物社長に勧められて、とろろ昆布おにぎりをほおばった。昆布のとろける口当たり、うまみと酸味が黒部の名水でたいた富山米のおいしさを引き立てる。そのうまさに加え、ご飯にまぶすだけの手軽さが、共働きで忙しい富山の家庭でことさら人気を呼ぶ理由なのかもしれない。シンプルで直球勝負、気取らないおいしさがぎゅっと詰まっていた。



◇探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ54歳
隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代女性


ほのかな酸味が特徴。とろろ昆布おにぎり(黒部市の「四十物こんぶ」で)


隊長「懐かしいお酢の香り」
 遠足の思い出は、固い包装紙に包まれたおむすび。一口食べるごとに、包み紙についた昆布にご飯を押しつけつつ食べた。

 久しぶりにとろろ昆布を食べたくて富山市の中央通りにある竹嶋昆布専門店へ。とろろ昆布を注文すると、「どれになさいますか?」。見ればとろろだけで8種類。「おむすび用に」と答えると、昔ながらのガラスケースから計ってくれた。

 プーンとお酢の香り。昔食べた黒く短いパラパラとした感じ。昆布の種類や部分、削り方などで味付けも違うとか。早速、小皿に黒とろろをのせていただく。目が潤んできたのは、懐かしさか、はたまた酢の刺激のせいか?





(2007年9月22日 読売新聞)


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