飛水峡

思い出

岐阜新聞

1998年06月21日 20時03分03秒 | 岐阜の水と緑
流域圏
海のために森を守る

 三月に閣議決定された新全総「二十一世紀の国土のグランドデザイン」は「流域圏」の視点を初めて打ち出し、①施策の総合化②健全な水循環の回復③流域意識、上下流意識の醸成④きれいな水、おいしい水の保全と回復-の四点を基本的な施策の方向としている。 だが、これがいまさらのように思えるのは、明治期、「山からの治水」を説いたオランダ人工師デレーケ(一八四二-一九一三年)や金原明善(一八三二-一九二三年)ら治山治水の恩人の影響だろうか。
 岐阜、長野など全国の海なし八県のうち、埼玉を除く七県は一九八五(昭和六十)年七月、森林の公益的機能拡充推進協議会を設立。森を育て、都市と山村の交流促進を図るための議論や要望活動を展開している。森林は国土の三分の二を占めるが、林野予算は八千億円台(本年度)で、国の予算総額の一%強。国政選挙の争点から遠いところで、海なし県ならではの努力が続けられている。

 岐阜、愛知、三重の三県と名古屋市、それに源流域市町村や森林組合で六九年に設立した木曽三川水源造成公社は、完全に国の施策の先取り。七七年に創設された国の共同水源林造成特別対策事業に乗り、本年度までの森林整備面積は実に一万九百ヘクタールにも上る。


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 森林が村の九五%を占める益田郡馬瀬村は、七三年に全国市町村に先駆けて水源かん養基金(二億円)を設立。九四年度に森林山村活性化研究会を設立。九六年度から「森が魚を育て、川が村を興す」との理念で「馬瀬川エコリバーシステムによる清流文化創造の村づくり」を始めた。例えば馬瀬川全域の河岸林などを渓流魚付き林(いわなの森)に設定し、水源林間伐推進やほう葉の森の造成など、流域を念頭に置いた多彩な事業を展開している。 「林業が停滞し、高齢化で山の手入れは大幅遅れ。川もごみが散乱し、明るい状況ではないが、海なし県でも、海のために森林を守って貢献していることをもっと知ってほしい」とは、同研究会の小池永司さん。


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 下流県にあたる愛知県では、六九年に沿岸域の農業漁業団体を中心に結成された矢作川沿岸水質保全対策協議会が、大規模開発行為に対して流域管理する「矢作川方式」を生み出した。

 また、豊田市は九四年度から水道使用一立方メートルにつき一円を徴集する全国初の水道水源保全基金を設立。積立金は昨年度末で一億七千七百万円に上っている。

 また、三重県は昨年度、宮川流域ルネッサンスビジョンを策定、全庁的取り組みを始めた。津市と近隣市町が八八年に制定した水道水源保全条例には、ちょうど一年前、可児郡御嵩町で行われた全国初の住民投票で大きな注目を集めた産業廃棄物処理施設の立地規制も盛り込まれている。

 国より地方がずっと前から気付いていた。あるいは始めから知っていた。山から海までを通してみれば、何が大切なものなのか。



全国的にも先覚的な、木曽三川水源造成公社の造林事業で整備された水源林


《岐阜新聞6月21日付朝刊一面掲載》

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