飛水峡

思い出

読売新聞

2007年02月15日 14時06分43秒 | なぞ食探検隊
ア ユ


 アユシーズン到来!! 毛針釣り、友釣りに続き、22日には主要河川での投網も解禁され、いよいよ清流の女王の味を楽しめる季節になった。神通川のアユは、全国の食べ比べで日本一になったことがあるらしい。そんな噂を聞いて、富山のアユ事情を調べてみた。


天然絶品 川の恵み 神通川での漁業を管理する富山漁業協同組合(富山市丸の内)へ。玄関脇で「グランプリ獲得証明書」を発見した。高知県友釣連盟が、河川環境を守ろうと全国の釣り人に呼びかけて開催した、第2回清流めぐり利き鮎(あゆ)会(1999年)で日本一に輝いた時の賞状だという。

 同組合の東秀一参事は「翌年は準グランプリ。神通アユのブランド力が証明されたため、以降は参加していないんです」。グランプリになったのは、上流で友釣りしたアユという。

 なぜ、神通川のアユはおいしいの? 「その秘密を科学的に解明しようとしているところ」と東参事。同組合は2002年から生物の教師や教師OBからなる「河川環境研究会」と協力して、アユの餌の藻類調査やアユの食味調査を始めた。

 県水産試験場(滑川市高塚)内水面課長の田子泰彦さん(48)も「富山湾から遡上(そじょう)する天然アユを食べると、富山に生まれて良かったと思う」と太鼓判を押す。豊かな水量が維持され、流れの速さで身が締まるアユのうまさは絶品という。

 かつては琵琶湖産のアユを放流していたが、神通川では、00年から地場産のアユを養殖して放流する方式に切り替えた。それでも昨年のアユの漁獲高は、神通川80トン、庄川20トン程度と、平成に入って2割ほど減っている。

 香りも変化しているようだ。庄川のアユだけを使う川魚料理「江戸っ子」(高岡市下麻生)を営む川漁師の宮崎一秋さん(57)は、「店を始めた約30年前は、プーンとスイカのような強い香りがしたものだった。ダムができ、河川環境が変わって香りが弱くなった」。一昨年の台風で川底が洗われ、また少し持ち直したようだという。

 宮崎さんに天然アユのうるかを食べさせてもらった。雄の白子と雌の真子を混ぜた「子うるか」は、魚卵独特のコクがふわりと舌に残る。肝で作る「本うるか」は、舌がしびれるほど苦いが、アユの甘みが後を引く。

 そういえば、富山には、8代将軍吉宗に絶賛され、ますずしのルーツとも言われるアユずしがあるはず。滋賀県の名物フナずし同様、発酵させて作るなれずしで、「癖があるけど、好きな人はたまらなくうまいと言うね」と宮崎さん。かつては冬場の貴重なたんぱく源として川漁師が作っていたが、漁師の減少や高齢化、食の好みの変化で、作る人は少ないという。

 それは、食べねば! 富山漁業協同組合事業委員長の横山勉さん(75)宅で、昨年のアユで仕込んだ自家製をご相伴に預かった。

 アユは一度塩漬けにする。水で塩を抜いてから木おけにササを敷き、ご飯とアユを重ね、最後にササで覆い、ふたの上に重しをする。20日間以上漬け、発酵させて完成。産卵後の落ちアユを使う事が多いが、横山さんは若アユでも作り、真空パックで冷凍している。

 出されたアユずしは、古漬けのような発酵したにおいがした。口に入れると、骨まで軟らかく、周りの米にまでアユの風味が移っている。チーズのようなこくと酸味で、「この米だけで日本酒がいくらでも飲める」と横山さん。確かに。

 富山の川の恵みの代表格のアユと、それを美味しく食べる人の知恵。でも、当たり前だと思っていると、いつしか消えてしまうかも……。そう思って食べるアユはほろ苦い。



横山さんお手製のアユずし。アユのこくと発酵した酸味が混じった複雑な味がする
隊長 「顔見れば育ちがわかる」
 川釣りに詳しい人なら、アユの顔を見ただけで、川の名前ばかりでなく場所まで当てる。

 5月に富山湾沿岸にある火力発電所の排水路を真っ黒に染めて稚アユが群れていた。どの川を目指すのか判らないが、2か月も経つとそれぞれの川の顔になる。

 富山湾は一見透明で美しくなってきたが、海の底では石灰化という海の砂漠化が進行しているとも聞いた。まさか、川も……。

 アユが自信を持って「マイネームイズ○○川」と言える環境が保たれることを祈る。



探検隊メンバー


寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ53歳

隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代




(2006年6月24日 読売新聞)

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