飛水峡

思い出

読売新聞

2007年10月31日 21時19分19秒 | なぞ食探検隊
かきやま


 甘いお菓子もいいけれど、小腹がすいた時にうれしいのが、県西部で「かきやま」と呼ばれる、あられやおかきなどの米菓だ。1万円もする超高級品も登場したと聞き、かきやま事情を調べてみた。


さっくり、もちの甘味
 県米菓工業協同組合(事務局・南砺市)によると、全国的に見て、米菓の生産量トップはお隣の新潟県だ。本県の占有率は、わずか1・2%。しかし、うるち米を原料とする「せんべい」「柿の種」が主流の新潟に対し、本県では、もち米を原料とする「あられ」や「かきもち」が大半を占める。

 日の出屋製菓産業(同)の安田洋夫専務(63)は、「富山には『新大正糯(もち)』に代表されるおいしいもち米があり、庄川水系の豊富な伏流水などうまい水もある。もちを使った『かきやま』を作る会社が昔から、福光(南砺市)周辺に多いんです」と説明した。

 新大正糯は、富山生まれのもち米。県民の竹内松造さんが1904年(明治37年)に見つけたものを、富山農試が23年(大正12年)に純系分離したうえ、背丈が長く倒れやすかった短所を品種改良し、60年に誕生した。翌年から県内に広まった。

 「より栽培しやすいもち米の品種も登場しているが、新大正糯は、もちにした時の食味や伸び、光沢が良い。“老舗”のブランド米と言えるでしょう」と県農業試験場作物課。 県農産食品課によると、昨年度の新大正糯の生産量は約2700トン。石川が406トン、福井が2トンと、ほとんど富山県内のみで生産されているもち米といえる。

 その新大正糯を100%使ったかきやまが、日の出屋製菓が今夏から直営店舗の「ささら屋福光本店」でのみ発売を始めた「のぶゆき」だ。約10種類の詰め合わせで、価格はなんと1万円。のぶゆきは、同社の創業者・川合宣之氏の名前で、「かきやまの最高級品を作りたかった。材料、作り方、包装とすべてにこだわっている」と安田専務。

 五箇山和紙の包装にうやうやしく包まれたかきやまは、職人の山本武さん(70)と、米田政雄さん(61)が備長炭を使って炭火で焼く。



網の上に広げて、炭火で焼き、焼き色がついたら、別の網の上にひっくり返す。まんべんなく、香ばしく焼き上げる山本さんの技がさえる  山本さんの作業を見せてもらった。かきやまを作るには、ついたもちを冷やして固くしてから切り、2日ほど乾燥させる。そのもちを網の上にのせ、炭火の前に陣取った山本さんが香ばしく色づくまで網を数十回裏返して、焼いていく。もち米を水に浸してから完成するまで約1週間ほどかかる。

 熱々のかきもちを食べさせてもらった。香ばしい香りに、さくっとした歯触り、後を引くもちの甘味。この道50年の山本さんに「焼きたては、一番うまかろう」と笑顔で聞かれ、大きくうなずいた。

 菓子の多様化で、米菓を作る会社は全国的に減少し、県内でもかつて同組合加盟社が十数社あったが、今は4社のみ。でも、もち米と水というシンプルな材料に、人の手が加わって、えもいわれぬ味が生まれる。その技をずっと残して欲しい。



◇探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ54歳
隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代女性


香ばしく、さっくりとした食感の炭火で焼いたかきやま


隊長「かんもちの思い出」
 米菓で思い出すのは、「かんもち」だ。薄く切ったもちをカリカリになるまで寒風にさらして干す。雪の日に火鉢の上でのばしのばし、焦がさぬように焼いた。芯までサクッと焼けると、親に「上手に焼けたネ」と褒められた。

 スーパーやコンビニで袋菓子を買うと、原材料の欄に、もち米、うるち米に加え、でんぷんや米粉と表示されているものがある。大量生産で機械化が進み、もち米で炊いた「おこわ」からもちをつく、昔ながらのかきもちを作る所ばかりでもないようだ。

 富山のメーカーがもち米にこだわるのは、もしかしたら、子どものころの「かんもち」を家族で食べた思い出が共通体験としてあるからかもしれない。





(2007年10月20日 読売新聞)


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