飛水峡

思い出

岐阜新聞

2006年07月17日 20時21分22秒 | 岐阜の水と緑

元気な天然鮎が激減

 「目の前で川がだんだん壊されていくのが、悔しくて仕方がないんや」
 長良川の支流・吉田川沿いの郡上市八幡町小野で料理店を営む恩田忠弘さん(52)は嘆く。川と釣りをこよなく愛し、店が休みの水曜日は必ず川に出掛ける。県内外の愛好者でつくる「郡上釣法吉田川倶楽部」の事務局長も務めている。
 「昔の川は瀬はきらきらして水が泡立っていて渕(ふち)はもっと深かった。瀬は瀬らしく、渕は渕らしい姿をしていた。生き物がすむ場所がたくさんある川やった」と子どものころから親しんだ川の姿を振り返る。
 「それが今はどうや。山が荒れているからすぐに土砂が流れ出るようになり、川のことをまったく考えないような護岸工事や川底のしゅんせつ工事で水が濁る。水の豊かさというのは人間の目には見えんけど、魚にとっては水質も悪くなっとるやろう」
 河川の改修工事をしている現場に出くわすと「川を濁らせんようにやってくれ」と、作業員に思わず注文をつけることもある。
 鮎の変化についても、理屈ではなく肌で感じる違和感がある。「海から上ってくる天然鮎は、厳しい自然条件を生き抜いて何十キロも川を上ってきとる。養殖もんとは強さが違う。天然遡上(そじょう)が減ったから、一生懸命放流するけど、縄張り意識が強い鮎本来の性質が足りないし、冷水病にも弱い。すばしっこい元気な鮎が、ようけおった昔の川は良かったな」と寂しそうに遠くを見つめる。
 昔とはいつのことか。「そりゃあ、河口堰(ぜき)ができる前のことや」
 恩田さんは、一九八〇年代に全国的な関心を呼んだ長良川河口堰=三重県桑名市=の反対運動に加わった一人。流域に生きる人間として、この川の恵みは守らなくてはいけないものだったからだ。あれからすでに二十年近く、河口堰本格運用から十一年がたつ。
 「天然(の魚)がよみがえらんことには、川はよみがえらん。できる限り天然を取り戻すようにしないかん。でも河口堰があり、川の状態も悪い今の川では無理な話や。だから放流に頼るのは仕方がないが、できるだけ人間の力はかけずに天然に近い方法で育った魚を放流しないかん」
 今年も毎週水曜日には吉田川にさおを出す。「最近、冷水病が出て鮎がようけ死んでまった。鮎がおらんで川底のコケを食べてくれん、ほら川底が腐っとるやろ。だから天然を大切にしないかんのに」
 この川を愛するゆえに今の川の姿を見ると、ため息ばかりが口をつく。

 天然鮎で全国に名をはせた長良川が今、何かがおかしい。魚の姿は減り、人々の心をつかむ輝きは色あせ始めた。恵み豊かな川の再生には何が必要なのか。第二部「流域の再生」では、県内外の流域で進められている取り組みや現状を追う。
 (この連載は岡本周子が担当します)



 
(写真)さおを持ち鮎を狙う恩田忠弘さん。川や鮎への愛着は人一倍強い=郡上市八幡町、吉田川

《岐阜新聞7月17日付朝刊一面》

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