飛水峡

思い出

岐阜新聞

2006年07月18日 20時23分08秒 | 岐阜の水と緑

河口堰・鮎ふ化水路

 二〇〇五(平成十七)年の長良川。この年の鮎漁シーズンは漁業関係者にとって衝撃的な不漁だった。「どこを見渡しても魚がおらん。どうなっとるんやと思った」と長良川漁協副組合長の山中茂さん(74)は振り返る。
 長良川河口堰(ぜき)=三重県桑名市=のゲートが閉じて以来、経験したことのない不漁に、漁師たちは危機感を募らせた。
 そんな事態に背中を押されるように、昨年十月から十一月にかけ、長良川に関係する県内の七漁協でつくる長良川漁業対策協議会(漁対協)が初めて、河口堰に隣接する人工河川の鮎ふ化水路で、卵の人工ふ化に踏み切った。〇四年秋にも人工河川活用を検討していたが悪天候などで延期。それがようやく実現した形だ。
 人工河川は、河口堰建設時に水産振興策の一環として、国と水資源機構が設置。河口堰で水がせき止められることによって、川の流れに乗って海に降下する仔(し)鮎がうまく下ることができないのではという懸念は建設前から指摘されており、「鮎資源を確保する手段として、海域に最も近い地点でふ化を行う目的」(同機構)という。
 少しでも遡上(そじょう)数を増やそうと行われた人工ふ化。漁対協や県が調べたところ、発眼した卵約五百二十二万粒のうち五百十七万匹がふ化し、海に下った。
 果たして効果はどうだったのか。同機構が河口堰地点で調査している鮎の遡上数は、今年二月から六月までで十三万二十四匹。昨年の七万百五十七匹は上回るものの、過去十年の平均四十五万九千四百四十三匹には遠く及ばない。
 山中さんは言う。「公団(現水資源機構)の調べた遡上数は多くはないが、川を見とるともうちょっと上って来とる感じがする。去年よりはましやな」
 さらにこう続けた。「毎年秋に(河口から四十五―五十キロ地点付近の)産卵場から、卵をふ化させて流してやっとるが、千に一匹が海に行くかどうかというとこやろう。確かに鮎の数は減っとる。頭の痛いことやけど、何とか鮎を上らせることを勘考せないかん」。そして人工河川の活用という札を切った。
 「海への降下数を増やすという面では効果があるのではないか」と県水産課と漁対協はみており、当面は人工河川の活用を続けることにしている。
 同機構河口堰管理所はこう話す。「鮎の降下や遡上の時期にゲート開放を求める声があることは知っているが、操作を変更することはできない。現状としては、せっかく人工河川という施設があるのだから積極的に活用してもらいたい」
 秋には川から海へ下り、春になれば海から川へと上ってくる。はるか昔から続けられてきた自然の営みが、人間のつくった構造物によって分断された長良川。そのサイクルに人間の手を加えることが必要になったというのが、この川の現状だ。



 
(写真)長良川河口堰に隣接して設置された人工河川。昨年秋に初めて、県内漁協が鮎の人工ふ化を行った=三重県桑名市

《岐阜新聞7月18日付朝刊一面》

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