飛水峡

思い出

読売新聞

2007年02月18日 09時56分49秒 | なぞ食探検隊
ブ リ(下)


 「ブリ起こし」と呼ばれる雷が鳴り響くと、寒波とともに、脂の乗った寒ブリが富山にやってくる。全国に名高いその身だけでなく、内臓まで丸ごと食べる料理が氷見にあると聞き、出かけてみた。


内臓も無駄なく大事に
 まずは、寒ブリの姿を拝みに氷見市比美町の氷見漁港へ。最盛期には10キロ・グラム級のブリが1000匹ほど並ぶと言うが、その日は300匹程度。氷見漁協は「まだ、海が本気で寒くなっとらん。北から寒さに押し出されるようにしてブリが下りてこないと」という。

 県水産試験場(滑川市高塚)漁業資源課の井野慎吾主任研究員によると、富山湾で取れるブリでも、北の海で長旅と産卵に備えて餌をたっぷり食べてコロコロに太って南下した寒ブリと、もともとこの周辺を回遊しているものがいるそうだ。

 ブリは3~6月に九州西の東シナ海で産卵する。モジャコと呼ばれる体長数センチの稚魚は対馬暖流に乗って、日本海沿岸へ。秋には体長35~40センチのフクラギになり、翌年冬で60センチ程度のガンドに成長。翌年には5キロ程度の小型のブリになり、満3歳で10キロ級のブリになる。

 3歳以上になると、夏から秋は北海道周辺に滞留し、12~1月に日本海を九州付近まで急速に南下して春に産卵、また北上回遊することがわかっている。富山のブリがおいしいのは、ちょうど脂の乗ったブリが南下するルートにあたるのと、沖で取れたらすぐに氷水に入れ、新鮮なまま市場に運ぶ鮮度処理の技術が進んでいるからだそうだ。

 氷見では、そんな新鮮なブリの内臓も食べる。同市丸の内の日本料理店「しげはま」のコース料理には、肝臓を甘辛く煮付けた「肝のうま煮」や“ふと”と呼ばれる胃袋を使った「ふとのみそ煮」「えらのから揚げ」など珍しいものも交えてブリ料理が12品も並ぶ。



船から揚げられたばかりのブリやフクラギ。氷で冷やして鮮度を保つ  もともと、ふとやえらを焼いて食べる漁師料理はあったが、店主の一宮健三さん(62)が試行錯誤を重ねて、息子の陸雄さん(35)と一緒に料理として出せるまでに完成させたという。

 「内臓を料理するのは“ものい(面倒な)”作業なんです」と陸雄さん。水で何度も血抜きし、湯がいて生臭さを取り除くなど下処理に手間と時間がかかる。それでも「せっかくの日本一のブリ。魂まで大事に無駄なくおいしく食べてやりたい」と健三さん。

 えらのから揚げは、サクサクとした軟骨の食感が香ばしい。腸の酢みそあえは、コノワタに匹敵する珍味。お酒が欲しくなる。シメはアラでダシを取り、酒かすと米こうじみそで味付けたブリ汁。体が温まった。

 正月にはブリを毎年食べていた隊員だが、まだまだ知り得ない味がある。ブリの魅力は奥深い。


ブリの内臓を使った料理の数々。(手前から左に)皮の煮こごり、肝のうま煮、腸の酢みそあえ、ふとのみそ煮


隊長 「輝く照り、透明な脂」
 丸々と太り、キュッと締まった尾。プロは尾のしまり具合でブリの良しあしを見る。 では、パック詰めになってしまったブリの刺し身はどこで見るのか。私は、照りと色で見る。透明で透けるような脂身、ねずみ色が混じらない輝くような照りがあれば、まず天然上物。 その刺身をさらに幅5、6ミリに切りそろえ、中皿の真ん中にうずたかく積み上げます。旬の大根おろしをキユッと搾る。薄い緑色になるくらいワサビを大根おろしに混ぜる。しょうゆをさらっとかけておろしと一緒に刺し身を食べる。 ぬるかんの日本酒をクイッと流し込めば「あぁ~、富山の師走やな~」



探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ53歳

隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代




(2006年12月16日 読売新聞)


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