飛水峡

思い出

岐阜新聞

2004年01月18日 22時50分12秒 | 岐阜の水と緑
ゲート開放の是非は 「河口ぜき」運用から10年



 「そんなことをまだ言っている人がいるのは事業者側の説明不足。このような指摘を検討会で受けました」。長良川河口堰(ぜき)管理所の住谷昌宏所長は昨年十月末、岐阜市で開かれた長良川河口堰調査検討会の質疑概要を説明する。
 「そんなこと」とは、長良川河口堰県民調査団の一人が「海外ではせきを開放する試みが進んでいる。一度、せきを開放して治水の効果や自然への影響を調査してはどうか」と、要望を出していることについてだった。
 長良川河口ぜきは九年前の一九九五(平成七)年夏、全ゲートを降ろして運用を始めた。調査検討会はせき建設途中の九三年に設置され、学識者らが毎年せきの運用評価を重ねている。検討課題には流域の各種団体代表者らでつくる県民調査団が施設見学などを通じてまとめた意見書も取り上げて討議を行っている。
 ゲートの開放はこれまでにも、鮎の不漁を不満に思う漁協の一部や日本自然保護協会が、天然鮎のそ上時期と仔(し)鮎の降下時期に一時的に開放してほしい、という要望を出していた。これに対して住谷所長は「短時間でもせきを開放すれば、上流域に海水が染み込み、流域の田畑に塩害が発生する。ましてや、そ上と降下時期を合わせると半年間にもなる。鮎のためのゲート開放はせき運用の目的そのものを失わせる」と説明する。
 検討会でもゲートを降ろした運用を大前提に、治水・利水や環境への影響を評価している。調査団の意見要約についてもゲート開放を求めるのは少数意見。多くはゲート運用後のしゅんせつで、洪水の際にはせき上流域の水位低下が治水に役立っている点を積極的に評価。その上でせきの運用継続を求めているのだ。
 それでは検討会で鮎の漁獲量が減っている点がどう評価されてきたのか。検討会ではせきの魚道などで毎年行われている魚類のそ上や降下調査の結果を評価しているが、「そ上数などの増減は自然変動の範囲内」として、せき運用が環境に深刻な影響を与えているという共通認識は委員の間にはないようだ。もちろん、事業者の水資源機構や県は、鮎の漁獲量が減ったことに河口ぜきが関係しているかどうかは言及していない。
 「こんな結果になることは予見されていた。だから、漁業補償や対策事業も行われてきたが、十分な結果が出ていないと言える」。岐阜大の富樫幸一助教授は、近著で河口ぜきの利水需要がほとんどない点も水資源政策の失敗として指摘する。だが、せき運用開始をピークにメディアは熱が冷めたように河口ぜき問題を取り上げなくなり、世論の片隅に置かれている。当時は治水・利水か環境保護かという二者択一の議論で沸き上がった。既に漁業補償交渉を終え、せき建設を受け入れていた関係者は複雑な表情で事態を見ていた。
 振り返れば人間と魚が共存するという選択肢はなかったのか。ある日、そんな夢物語が神奈川県で実現していることを知った。



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(写真)運用開始から10年近くを迎える長良川河口ぜき。
治水・利水という公共性と環境保全がより折り合う可能性はないのか=三重県長島町
《岐阜新聞1月18日付朝刊一面》

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