飛水峡

思い出

岐阜新聞

2006年07月24日 21時58分02秒 | 岐阜の水と緑

川の「連続性」

 「長良川本流ではどんどん河床が掘り下げられ、岸はコンクリートで固められる。そこに流れ込む無数の用水路や支流との段差が大きくなっている。長良川が孤立している」と話すのは、魚類の研究を続ける生態写真家の新村安雄さん(52)=岐阜市世保=。
 生き物がすむ場所は本流だけではない。魚たちは農業用水をさかのぼり、田んぼで産卵をし、そこで育った子どもたちがまた本流に戻る。用水路が毛細血管のような役目をして、生物の多様性を保ってきた。
 新村さんは今年、「田んぼプロジェクト」と銘打って、近所の農家所有の休耕田を使い、魚を育てる試みを始めた。育てるのはタモロコやメダカなどだ。
 「昔は、魚が直接田んぼまで上ってきて産卵したのだろうが、今は段差があって上れない。長良川で捕まえてきて、田んぼに放すことにした。ある程度成長すれば、用水の流れに乗って自然に下っていけるはず。つまり田んぼをゆりかごの地として活用するということ」と話す。
 「鮎だけではなく、あらゆる魚が減った長良川で、少しでも個体数を増やすことによって環境の底上げを図る」ということが狙いで、同時に休耕田が増えつつある中で、稲をつくる以外に田んぼを活用し、環境に貢献する方法を探ろうというテストでもある。
 一九八〇―九〇年代に長良川河口堰(ぜき)=三重県桑名市=反対運動に参加した新村さん。反対アピールのために、河口堰が着工した八八年には長良川源流から河口までを体一つで泳いで下ったユニークな経歴の持ち主だ。
 そして、河口堰本格運用から十年が経過した昨年七月、「川がどうなっているのかを見たい」と今度はゴムボートで源流から河口まで下った。そして、川の中を見て衝撃を受けた。「本当に魚がいなくなった。一度目に下った時はちょっと川に潜れば、鮎やいろんな魚がいたのに」。十七年という年月の経過とともに変ぼうした川の姿がそこにはあった。岸辺が人工化された個所も増えた。「川というのは本流だけじゃだめ、支流も大切なんだ」と痛感した。
 七月中旬の梅雨の晴れ間に、いよいよ田んぼに魚を放した。タモロコは卵を腹に持った雌と雄とをペアで約二十匹、あとはメダカなど。放してしばらくすると、田んぼの中でタモロコがピチャピチャと飛び跳ね、産卵を始めた。新村さんは「やっぱり田んぼの環境が好きなんだな。うまくいきそう」と満足そうな表情を浮かべた。
 「僕にとっては河口堰反対運動から一貫しているテーマは川の連続性。川の生態系というのは、海も川も用水も全部つながっていなければ保たれないもの。今は海が断たれているから、上流の方で何かできないかと思った。河口堰という存在に対して、視点を変えた問い掛けというつもりでやっている」と産卵を見つめながら新村さんは語った。


 
(写真)田んぼに魚を放流する新村安雄さん。「生き物の数を増やすことで環境の底上げをしたい」と話す=岐阜市内

《岐阜新聞7月24日付朝刊一面》

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