飛水峡

思い出

読売新聞

2007年08月01日 22時09分47秒 | なぞ食探検隊
 かす煮

酒かすが出回る時期になると、思い出す母の味がある。タクアンや白菜の古漬けを酒かすで煮た「かす煮」だ。「ふるさと煮」とも言うこの煮物は、酸っぱくなった古漬けをうまく生かした家庭料理。しかし、最近は、その味を知らない人も多いという。懐かしの味を探してみた。
古漬け生かす知恵


 酒かすが出回る時期になると、思い出す母の味がある。タクアンや白菜の古漬けを酒かすで煮た「かす煮」だ。「ふるさと煮」とも言うこの煮物は、酸っぱくなった古漬けをうまく生かした家庭料理。しかし、最近は、その味を知らない人も多いという。懐かしの味を探してみた。
 県から「古たくあんのかす煮」で、食の伝承人に認定されている射水市北高木の主婦佐々木悦子さん(69)に聞くと、「あらぁ、もう食べてしもたわ」。かす煮は、昨シーズンの冬に漬けたタクアンの発酵が進み、「におうようになる」夏過ぎから食べ始める。新年会で食べ尽くしてしまったという。「古漬けじゃないとあの味は出せんからねぇ」。残念。
ぬかで漬けたタクアン。「時間がたった古漬けでないとかす煮にはならない」と佐武さん  それならと、「ふるさと煮」として、かす煮を総菜で出しているスーパー「フレッシュ佐武」(高岡市昭和町)に頼んでみた。「古漬けがあるから大丈夫やよ」と社長の佐武峻三久さん(73)が引き受けてくれた。
 同社のふるさと煮は、佐武さんの母、静枝さん(96)の味を受け継いだもの。作り方は、タクアンの古漬けは輪切りにして、湯がき、そのまま水に入れて塩気を抜く。「塩気を抜きすぎるとうまみまで抜けてしまう」ので、ちょっと塩気が残る程度で水からあげるのが肝心だ。
 生の大根の千切りを敷いた鍋にタクアンを敷き、酒を少し回しかけてから、さいの目に切った「板かす」をのせて煮る。大根から水気が出てくる。みそと小口切りのトウガラシを入れ、仕上げにしょうゆを少し垂らして味を調えて完成。


 あめ色になったタクアンを口に含むと、ほのかに甘く、酸っぱく、何とも言えない独特のうまみがある。「日本の文化が作り上げた知恵やね」と佐武さん。
 しかし、その酒かす、実は全国的に品薄になっている。酒かすは米を仕込んだもろみを搾る酒造りの過程で出る“副産物”だが、老舗酒造「福光屋」(金沢市)の川口俊雄常務(61)によると、「日本酒人気の低迷で酒を仕込む量自体が減っている上、大手メーカーを中心に『液化仕込み』が広がっているからです」。
 通常であれば仕込んだ米の25~50%が酒かすになる。しかし、米を細かくドロドロにして仕込むと、利用効率が上がり、米の繊維質だけが残り、酒かすが残らないのだという。
 かす煮という料理が幻になってしまう。そんな日が来るかもしれない。
あめ色になったタクアンにかすがからみ、何とも言えないおいしさを醸し出す(高岡市の「フレッシュ佐武」で)
隊長 「カス」なんかじゃない
 化粧品にも含まれるコウジ酸は、麹(こうじ)酸と書く。発酵過程で作り出される多くの有機酸を含む酒かすの効能についても広く知られている。隊長にとっては、何より美味しいことがうれしい。
 読者の方に、我が家のかす料理を紹介。板かす100グラムと100ccの生酒を丈夫なナイロン袋に入れてよくもむ。ツブツブ感がなくなったら、そのまま1時間ほど暖かい部屋におく。驚くなかれ、生クリームのように“変身”している。
 牛乳200ccに和風だし汁を少量入れて温める。そこへクリーム状の酒かすを入れ、ゆでた氷見うどん、キノコ、鶏肉、焼きネギなどを入れたグラタン皿に注いで、チーズをのせて焼き、焦げ目をつける。越中グラタンのできあがりだ。
 昔からかす漬け、かす汁、かす煮などとして味わってきた日本酒のかすはカスとは言えない優れものである。
探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ53歳
隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代
(2007年2月3日 読売新聞)


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