バ イ
県の観光ガイドをめくっていると、富山の味として「バイ貝」が掲載されていた。確かに、小バイの煮付けは東京の居酒屋などでも出てくるが、刺し身はあまり見かけない。富山以外でも取れるの? バイの謎を調べてみた。
地元の味豊富に体験
広辞苑でバイを引くと、エゾバイ科の巻き貝で、殻はベーゴマになったと書いてある。でも、このバイは、富山で「バイ」と呼ぶものとは違うようだ。
新湊漁協(射水市八幡町)の魚市場をのぞくと、貝殻の大きさが20センチ・メートル近くもあるものから、数センチの小バイまで大小様々なバイが並んでいた。「大きいのが地元でアオバイと呼んどるエッチュウバイ。こっちがニシバイと呼ばれるエゾボラモドキ。この小さいのがツバイ……」。並んだバイを見ながら、同漁協の古沢努参事(42)が解説してくれた。
県水産試験場漁業資源課の内山勇副主幹研究員(51)によると、富山湾で取れるバイは主に4種類。煮物に使われるツバイは、大きいものでも7センチ程度で、小バイとして売られている。15センチほどの大物は、オオエッチュウバイやチヂミエゾボラ。カガバイはそれより小さく12センチ程度で殻が硬いという。
オオエッチュウバイは、水深1000メートル前後の深海にいるが、カガバイやチヂミエゾボラはそれより浅い海域にいる。魚の切り身など餌を付けたかごを海に沈める「かご縄漁」で取るが、旬は特になく、年間通して取れるそうだ。
殻の形が違うので見分けやすいというが、素人目には難しい。生態も謎のようで、「試験場で数年間飼育しても大きくならない。大きくなるまでかなりの年数がかかると思うが、よくわからないのです」と内山さん。チヂミエゾボラの唾液(だえき)腺には、中毒症状を起こす物質が含まれているので、食べる時には注意が必要という。
味も違うのだろうか。新湊寿司組合長の京谷修一さん(60)に聞くと「殻が軟らかいものほどおいしい。殻が繊細なエッチュウバイは、日持ちはしないけれど、身が甘くて高値がつく」という。
富山農政事務所統計部によると、2005年の漁獲量は241トン。ここ10年間は240~370トンで推移している。しかし、全国統計では、バイ貝は「その他」に入るため、他県の実態はわからなかった。
そこで、今年度から日本海側の深海のバイを調査している水産総合研究センター日本海区水産研究所(新潟市)に尋ねた。日本海側全体では島根から秋田までで1400~1500トン取れ、特に島根県では500~600トンと一番水揚げが多いという。
島根ではどうやって食べるのだろうか。島根県水産技術センターの向井哲也専門研究員(43)に電話で聞くと、「煮付けが多いです。こちらでも最近は、刺し身を食べますが、もともとは食べる習慣がなく、今でも大きなバイの主な出荷先は北陸です」
バイの刺し身は、他県でも味わえるが、高級品で、富山ほどよく食べられてはいないようだ。こりこりとした食感に磯の香り。そんなキトキト(新鮮な)の刺し身を年間を通して味わえる。幸せなのかも。
キラキラと輝くような新鮮なバイが並ぶ(射水市八幡町の新湊漁港で)
隊長 時を超えたワタの苦み
子どものころ、富山市四方で漁港に潜って茶色の斑点のあるバイを取った。栗の実ほどのバイを甘辛く炊いて父の晩酌のつまみにした。ようじでクルクル身を出して、苦いワタを残して身だけを食べた。父は苦いワタだけをうまそうに食べていたことを思い出す。
スーパーなどで売られているバイは、子どものころに取ったバイとは違う。昨年、岩瀬の漁港でキス釣りをしたとき針に懐かしいバイが引っかかってきた。家に持ち帰り、魚屋で買ってきたツバイと一緒に甘辛く炊いた。
一個だけ色の違うバイの苦みが40年の時を超えて、父と酌み交わす時をくれた。
探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ53歳
隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代
(2007年3月3日 読売新聞)
県の観光ガイドをめくっていると、富山の味として「バイ貝」が掲載されていた。確かに、小バイの煮付けは東京の居酒屋などでも出てくるが、刺し身はあまり見かけない。富山以外でも取れるの? バイの謎を調べてみた。
地元の味豊富に体験
広辞苑でバイを引くと、エゾバイ科の巻き貝で、殻はベーゴマになったと書いてある。でも、このバイは、富山で「バイ」と呼ぶものとは違うようだ。
新湊漁協(射水市八幡町)の魚市場をのぞくと、貝殻の大きさが20センチ・メートル近くもあるものから、数センチの小バイまで大小様々なバイが並んでいた。「大きいのが地元でアオバイと呼んどるエッチュウバイ。こっちがニシバイと呼ばれるエゾボラモドキ。この小さいのがツバイ……」。並んだバイを見ながら、同漁協の古沢努参事(42)が解説してくれた。
県水産試験場漁業資源課の内山勇副主幹研究員(51)によると、富山湾で取れるバイは主に4種類。煮物に使われるツバイは、大きいものでも7センチ程度で、小バイとして売られている。15センチほどの大物は、オオエッチュウバイやチヂミエゾボラ。カガバイはそれより小さく12センチ程度で殻が硬いという。
オオエッチュウバイは、水深1000メートル前後の深海にいるが、カガバイやチヂミエゾボラはそれより浅い海域にいる。魚の切り身など餌を付けたかごを海に沈める「かご縄漁」で取るが、旬は特になく、年間通して取れるそうだ。
殻の形が違うので見分けやすいというが、素人目には難しい。生態も謎のようで、「試験場で数年間飼育しても大きくならない。大きくなるまでかなりの年数がかかると思うが、よくわからないのです」と内山さん。チヂミエゾボラの唾液(だえき)腺には、中毒症状を起こす物質が含まれているので、食べる時には注意が必要という。
味も違うのだろうか。新湊寿司組合長の京谷修一さん(60)に聞くと「殻が軟らかいものほどおいしい。殻が繊細なエッチュウバイは、日持ちはしないけれど、身が甘くて高値がつく」という。
富山農政事務所統計部によると、2005年の漁獲量は241トン。ここ10年間は240~370トンで推移している。しかし、全国統計では、バイ貝は「その他」に入るため、他県の実態はわからなかった。
そこで、今年度から日本海側の深海のバイを調査している水産総合研究センター日本海区水産研究所(新潟市)に尋ねた。日本海側全体では島根から秋田までで1400~1500トン取れ、特に島根県では500~600トンと一番水揚げが多いという。
島根ではどうやって食べるのだろうか。島根県水産技術センターの向井哲也専門研究員(43)に電話で聞くと、「煮付けが多いです。こちらでも最近は、刺し身を食べますが、もともとは食べる習慣がなく、今でも大きなバイの主な出荷先は北陸です」
バイの刺し身は、他県でも味わえるが、高級品で、富山ほどよく食べられてはいないようだ。こりこりとした食感に磯の香り。そんなキトキト(新鮮な)の刺し身を年間を通して味わえる。幸せなのかも。
キラキラと輝くような新鮮なバイが並ぶ(射水市八幡町の新湊漁港で)
隊長 時を超えたワタの苦み
子どものころ、富山市四方で漁港に潜って茶色の斑点のあるバイを取った。栗の実ほどのバイを甘辛く炊いて父の晩酌のつまみにした。ようじでクルクル身を出して、苦いワタを残して身だけを食べた。父は苦いワタだけをうまそうに食べていたことを思い出す。
スーパーなどで売られているバイは、子どものころに取ったバイとは違う。昨年、岩瀬の漁港でキス釣りをしたとき針に懐かしいバイが引っかかってきた。家に持ち帰り、魚屋で買ってきたツバイと一緒に甘辛く炊いた。
一個だけ色の違うバイの苦みが40年の時を超えて、父と酌み交わす時をくれた。
探検隊メンバー
寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ53歳
隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代
(2007年3月3日 読売新聞)