慄然! 教育基本法単独採決
【「一犬虚に吠ゆれば万犬実を伝う」という。一人がでたらめを語ると、多くの人がそれを真実として広めてしまうのだという後漢のたとえである。小泉執政の五年ぐらいこの言葉を考えさせられたことはない。
私の興味は「一犬」正体や小泉純一郎という人物のいかんにあるのではなく、「万犬」すなわち群衆というものの危うい変わり身と「一犬」と「万犬」をつなぐメディアの功罪にある。
もっといえば、二十一世紀現在でもファシズム(または新しいファシズム)は生成されるものか。この社会は果たしてそれを拒む文化をもちあわているのだろうか…という、やや古典的な疑問をもちつづけている。】
これは、芥川賞作家でジャーナリストでもある、辺見庸氏の近著『いまここに在ることの恥』 問う…恥なき国の恥なき時代に「人間」でありつづけることは可能か (『毎日新聞』刊)のなかの一節。
小泉の時代は終わった。が、安倍晋三の時代もこのたとえはもっと考えさせられる。とても「古典的な疑問」などとは言ってられない。
現職の与党の国会議員の顔を思い出してほしい。彼らが教育という国家百年の大計を決めるというのだ。
『毎日新聞』(11月16日付)社説 教育「百年の大計」が泣く、
【自民、公明両党が15日夕、教育基本法改正案の委員会可決に踏み切った。これまで私たちは再三「何のために改正するのか、原点が見えない」と指摘してきた。そんな疑問は解消されたと与党は言うのだろうか。急ぐ理由は全く見当たらないのに衆院特別委員会を野党が欠席する中、単独採決したことは将来に禍根を残すことになるだろう。
…中略…
政府・与党からすれば教育基本法改正は「百年の大計」だったはずだ。それが、国民の理解が深まらぬまま、こんな状況で衆院を通過しようとしている。今の基本法が「占領軍の押しつけ」と過程を問題にするのなら、これもまた将来「成立の仕方に疑義があった」とならないか。】
『朝日新聞』(11月16日付)社説 この採決は禍根を残す
【… 教育基本法は、未来を担う子どもたちを育てる理念や原則を定めたものだ。政権が代わるたびに、内容を変えていいものではない。
国会は多数決が原則とはいえ、与党だけで決めるのは、こうした大切な法律の改正にはふさわしくない。単独採決はまことに残念だ。
私たちは社説で、政府の改正案には疑問があることを何度も主張してきた。
今の学校や教育に問題が多いことは間違いない。しかし、その問題は基本法のせいで起きたのか。改正すれば、どう良くなるのか。教育の問題を法律の問題にすり替えているのではないか。教育基本法を変えなければできない改革や施策があるなら、示して欲しい。
…中略…
現行の教育基本法では、前文は「われらは」で始まる。戦前の天皇の教育勅語に代わって、国民が教育のあり方について意思を示す宣言でもあるからだ。
成立を急ぐあまり、肝心の国民が置き去りにされるようでは、将来に禍根を残すことになる。】
『読売新聞』の社説は「野党の反対理由はこじつけだ」といい、『産経新聞』の社説は「やむをえぬ与党単独可決」という。自民党のプロパガンダとしては当然であろう。