むかごの日記Ⅱ

70歳を過ぎてにわかに植物観察に関心を持ち、カメラを提げて、山野を歩いています。新・むかごの日記より引っ越しました。

ワタスゲ:綿菅(雨を含む綿) 

2016-07-27 12:04:49 | 植物観察記録


立山弥陀ヶ原は霧雨に濡れていました。
弥陀ヶ原高原は標高約1,600~2,100m、南北2km、東西4kmにわたり広がる静かな大高原で、木道が敷かれた湿原には「餓鬼(ガキ)の田」と呼ばれる池塘が点在し、保全すべき貴重な湿地として「ラムサール条約」湿地に登録されています。
霧の中に点在する池塘に畔に濡れそぼった白い綿毛が浮かんでいます。
ワタスゲ:綿菅(カヤツリグサ科ワタスゲ属)の果穂です。亜高山~高山の湿原に群生する多年草で、芽を出してすぐに茎の先に小穂を1個だけつけます。(‘12年7月9日記事)
6~8月、花が終わると、子房の基部からたくさんの白い毛が伸びてきて、丸い綿毛の塊のようになります。
花のときは背が低く目立ちませんが、果実になると高さ20~30㎝となり、綿毛に包まれたふっくらとした径約2.5㎝の果穂はよく目立ち、夏山の人気者の一つとなっています。
たっぷり雨を含んだワタスゲの姿も、霧の弥陀ヶ原で存在感を示していました。


ニッコウキスゲ:日光黄菅(立山の花③)

2016-07-24 16:18:24 | 植物観察記録

7月17日、梅雨が明けない立山弥陀ヶ原は小雨まじりの霧につつまれていました。
その中で浮き出るように目立っていたのが黄色いニッコウキスゲ:日光黄菅(ワスレグサ科ワスレグサ属)です。
ニッコウキスゲの名は、日光に多くキスゲ(黄菅)に似ているということからきているとのことで、牧野図鑑では、もともとの名はゼンテイカ:禅庭花で、花に短柄があるのを特にニッコウキスゲというとありますが、特に区別されず両方の名で通っているようです。
本州中部に分布し、やや湿性の亜高山帯に生える多年性草本で、葉幅はヤブカンゾウより狭く、キスゲとは葉幅が似ます。花色は濃い黄色で、ヤブカンゾウのように黄赤色でなく、キスゲのようにレモン色でもありません。また花はキスゲとちがって朝開いて夕方しぼむ一日花です。
ワスレグサ属は世界に20種ほどありますが、ニッコウキスゲは日本独特のものです。
尾瀬、霧ヶ峰、日光などの高原を代表するニッコウキスゲは、夏が来れば思い出す花の一つです。


チングルマ:稚児車(立山の花③) 

2016-07-23 15:26:18 | 植物観察記録

7月中旬の立山の花で目立つのは圧倒的にチングルマ:稚児車((バラ科チングルマ属)でした。
高山帯の日当たりがよく地下水の豊富な岩石地帯に生える高さ10cmくらいの匍匐性矮小低木で草ではなく、葉は束生し光沢があります。
古い牧野植物図鑑は「チングルマは稚児車の転化せしもの、稚児は其花容の小にして可憐なるより云ひ、車は其花弁の輸出して車状を呈するに基づく」といっているそうですが、最近の原色牧野植物大図鑑では、「和名は稚児車のなまったもので、輪状の果実を子供の玩具の稚児車に見立てたもの」としています。
弥陀ヶ原~天狗平~室堂に咲き乱れるチングルマは、開花したものが最も多く

花が散って紅色の花盤が出たもの、髭になる花柱はまだ伸びていない

花柱がのびて薄紅色の羽毛状になったものなどが混じって面白い景色となっていました。

立山では散る前に花弁が赤くなるアカバナチングルマというのがあると聞きましたが、見つかりませんでした。

このブログで4回目の登場となったチングルマは、黄色味を帯びる白色の五弁花、長い毛が風にそよぐ果実、(’11年8月1日記事)なかなか落葉せずいつまでも残る光沢ある紅葉(‘06年10月18日記事)、どうかすると冬まで残る白髭のような果実('08年10月21日記事)など、どの時期に見ても楽しめて、そのかわいい名前とともに、もっともポピュラーな高山植物といえます。


ミヤマリンドウ:深山竜胆(立山の花②) 

2016-07-22 08:17:29 | 植物観察記録



1本の茎に複数の花がつく

立山室堂平に咲くタテヤマリンドウと同じような場所に、数は多くはありませんが、より青紫色が濃いミヤマリンドウ深山竜胆(リンドウ科リンドウ属)も咲いていました。
高山帯の湿った草地に生える多年草で高さは5-10cm、葉は、やや厚め、長さ5-10mの卵状長楕円形で、対生します。
茎の基部が長く這って茎先が立ち上がり、茎はやや赤紫色を帯びます。
花期は7-9月で、茎の上部に長さ15-22mmの青紫色の筒状鐘形花を1~4個ほど付けます。(タテヤマリンドウ1個だけ)花冠は青紫色で、5つに裂けており裂片と裂片の間に狭い三角状の狭い副片があり、副片の先は写真では不鮮明ですが2~3個に裂けていました。
昨日のタテヤマリンドウもそうでしたが、この仲間の花色は多様で、ミヤマリンドウにもウスイロミヤマリンドウやシロバナミヤマリンドウなどもあるといいます。
立山で見たものはミヤマリンドウとガイドさんに教えてもらいました。

タテヤマリンドウと同じ所に咲く

タテヤマリンドウ:立山竜胆(立山の花①)

2016-07-21 13:24:09 | 植物観察記録

陽光不足で半開き

陽光のもと開花(緑の3小葉はチングルマ)

梅雨も明けないとうのにハイシーズンの人ごみの前にと、7月17・18日と山荘泊まりで立山へ行ってきました。さすがに八十路越えての山行は登山を敬遠し、もっぱらトレッキングで風景と高山植物を楽しむということになりました。
タテヤマの名がつく高山植物はいくつかありますが、よく知られているものの一つが天狗平から室堂にかけての草原のあちこちに咲いていたタテヤマリンドウ:立山竜胆(リンドウ科リンドウ属)です。
ハルリンドウの高山型変種といわれ、高さは10cmくらいと小さく、葉は対生し、幅3mm、長さ7mmほどの披針形で茎に寄り添います。花期でも根元に卵形の根生葉が残ります。
花期は6-8月、花は漏斗状の淡青紫色~帯紫白色で、茎の上部に1個上向きにつけます。花は日があたっている時だけ開き、曇天、雨天時は、筆先の形をした蕾状態になって閉じます。
花冠は5裂し、その間に丸く短い副片があります。花冠の喉部には紫色の斑点が多数入ります。
図鑑では花色は淡青紫色~帯紫白色などと表現されていますが、立山でのものは見た限りは、花弁はすべて白色でした。
白花のものをシロバナタテヤマリンドウとする考えもあるようですが、室堂のガイドさんはタテヤマリンドウと呼んでいました。
(立山で観察した植物は整理して順次取り上げる予定ですが、風景については僚ブログ「むかごの高槻」で7月19日より連載していますのでご覧ください。)

アゼナルコ:畦鳴子(なるほどの名前だが鳴子とは?)

2016-07-11 15:37:59 | 植物観察記録

前回記事のゴウソ:郷麻の名前が意味不明と書きましたが、その隣に生えていたアゼナルコ:畦鳴子(カヤツリグサ科スゲ属)は、垂れ下がった小穂を鳴子に見立てたという名前の由来はすんなり入ってくるものの、さてその鳴子は?となると近頃はほとんど現物を目にすることはないようです。
鳴子は、穀物を野鳥の食害から守るため、鳥を追い払う目的で使われてきた道具で、木の板に数本の竹筒や木片を糸で吊るしたものを、田畑の中に設置し、木の板には長い縄をつけて、家や樹木の陰などまで引き、この縄を田畑と離れたところにいる人間が引くと、竹筒や木片が木の板に当たって音が鳴り、この音で害鳥を脅かして追い払うという、いかにも牧歌的な仕掛けです。
アゼナルコは田の畔などの湿地に生える高さは40~80㎝の多年草で、茎は鋭い3稜形、葉は幅0.4~1㎝の線形、根元の葉は茶褐色の葉鞘だけになります。
小穂は4~6個つき長さ3~6㎝の円柱形、頂小穂は上部に雌花、下部に雄花がつき、雌花だけつく小穂もあります。

ゴウソ:郷麻(意味不明の名前) 

2016-07-08 07:02:46 | 植物観察記録


名前を聞いただけで全く別の意味の言葉しか浮かんでこない植物があります。そんな一つがゴウソです。どうしても為政者に徒党を組んで強硬に訴え出る「強訴」と聞こえてくるのです。
ヌマハリイ(一昨日記事)が生えていた白山高山植物園の沼に注ぎ込む細い溝端に生えていたのがそのゴウソ:郷麻(カヤツリグサ科スゲ属)でした。
田の畔などの湿地に生える多年草で、高さ30~50㎝位、根は強くて長く、大きな株を作ります。
葉の幅は4㎝位、縁はざらつき、鞘の外面には短い粗毛があります。茎は細長い3稜柱で、茎頂に1個の雄花穂、その下方に3~4個雌花穂をつけ、果穂は長さ1.5~3.5㎝の太い円柱形になります。
和名の郷麻の由来はあちこち調べましたが見つかりませんでした。
別名のタイツリスゲの方がなじみやすいのに、意味不明のゴウソが通っているのは不思議な気がします。

ヌマハリイ:沼針藺(目立たない故の絶滅危惧?) 

2016-07-06 15:00:40 | 植物観察記録
center>
先日の白山高植物園(白山市白峰)の入口に自然にできた小さな沼があり、ヌマハリイ:沼針藺(カヤツリグサ科ハリイ属)が群生していました。
池のほとりや泥中にはえる多年草で、長い走出枝があり群生します。茎の高さは30~70㎝、丸くて軟質、乾けば扁平となる特性があります。小穂は茎頂に1個つき、鉄錆色で長さ1~3cm、幅3~6mm、果実は倒卵円形で長さ1.5~2mm、黄褐色で少し光沢があります。
各地で絶滅危惧種に分類されていますが、本種のように湿地を生育地とする植物は、開発などによる湿地の減少によっておのずから絶滅に追いやられる運命にあり、加えてあまり目立たないので希少種と知られないまま保護が行届かないことなどが理由になっているようです。
別名にオオヌマハリイがあります。


モリアオガエル:森青蛙(変わった生活史) 

2016-07-04 16:32:36 | 植物観察記録



小さな沼の上にモリアオガエル:森青蛙(アオガエル科アオガエル属)の白い卵塊ができていました。
近くの木陰に複数のモリアオガエルが潜んでいます。
カエルは水中に産卵するものがほとんどですが、モリアオガエルは水面上にせり出した木の枝などに粘液を泡立てて作る泡で包まれた卵塊を産みつけます。多くのアオガエル科のカエルとちがい、モリアオガエルは産卵場所が水面の上の目立つ樹上などなのでよく目立ちます。
繁殖期になると、まずオスが産卵場所に集まり、鳴きながらメスを待ち、メスが産卵場所にやってくるとオスが背中にしがみつき、産卵行動を始めますが、卵塊の形成が進むにつれて1匹のメスに数匹のオスが群がります。
産卵・受精が行われると同時に粘液が分泌され、この粘液を集まったオス、メスが足でかき回し、受精卵を含んだ白い泡の塊を作ります。直径10-15 cmほどの泡の塊の中には黄白色の卵が300-800個ほど産みつけられ、泡の中では複数のオスの精子がメスが産んだ未受精卵をめぐって激しい競争を繰り広げることになります。
1週間ほど経って卵が孵化し、孵化したオタマジャクシは泡の塊の中で雨を待ち、雨で溶け崩れる泡の塊とともに下の水面へ次々と落下します。
イモリが下で待ち受けていて、落下するオタマジャクシの幼生をパクパク食べます。水中にすむいろいろな天敵から運よく生き延びたモリアオガエルはやがて上陸し森の生活に入ってゆきます。
繁殖期、人目によくつくモリアオガエルは、厳しい生活史を私たちの前で演じています。

カギカズラ:鉤蔓(花は豪華) 

2016-07-02 15:59:13 | 植物観察記録
I

野外の常緑の木は、木は知っていても、花は見たいと思っても花期に出会わないと山ではなかなか見られないものです。
カギカズラ:鉤蔓(アカネ科カギカズラ属)の花もそんな一つで、京都の松尾大社に市指定天然記念物のカギカズラの自生地があると知りながら、そこへは立ち入りできないと聞いて断念していたのが、たまたま薬科大学の薬草園で咲いているのに出会いました。
2個出る節と1個出る節が交互につくカギカズラの鉤は「釣藤鉤」と呼ばれる生薬として、日本薬局方にも収載され、鎮痙剤や鎮痛剤として用いられるといいます。植物園のカギカズラは鉢植えで生育はよくなく、自生のような(‘10年2月20日記事)たくましさはありませんが、花はちゃんとしたもので、一見折り紙で作った薬玉のようです。花期は6~7月、葉腋に著系2㎝ほどの頭状花序を1個ずつ出し、淡黄色の花を多数つけます。花冠は長さ約1㎝の筒状漏斗形で先は5裂し、花柱は花冠から突き出ます。
もともとは熱帯性の植物で、日本では関東以西、四国、九州に分布する常緑のつる性植物で、長さ10m以上になり、葉腋につく湾曲した鉤でほかの樹木などに絡みつくので、植林地などでは害木として嫌われたりします。