宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『ストーミーマンディ』牧村泉(1960生)、2005年、幻冬舎文庫

2013-02-05 11:57:34 | Weblog
  第1章
A 私、31歳、倉田諒子。私は5歳で母を殺し、12歳で姉を殺した。
A-2 今の私、今日は誕生日。ストーカーの男から電話。
A-3 私は病院の派遣事務職員。医師の清水孝(40)と不倫関係。すでに半年。

B アパートの部屋の前に、ストーカー男からバラの花あり。
B-2 続いてストーカー男から、バスデーケーキが置かれる。

C アパートの隣室に50歳過ぎのうるさ型の女、岡島が住む。マルチの販売員。私を、仲間にしたい。
C-2  清水が、忘れた私の傘を返しに、私のアパートに来る。私は不在。
C-3 岡島が自転車に乗った引ったくりに会う。→私が、逃げる自転車を倒す。→引ったくりの少女は10歳代。→私は少女を逃がす。

D ストーカー男によって、清水が置いていった傘が、めちゃめちゃに壊される。

  第2章
A 医師・清水のもとに、ストーカー男から写真が送りつけられる。私のアパートの部屋の前に、傘を置く清水の写真。清水は妻への、不倫の発覚を恐れる。→私は、清水の態度を嫌悪し、清水と別れることにする。

B 先日の引ったくり少女が、私のあとをつけてきて「今晩、泊めてくれないかな」と言う。森崎ミチル、高校中退。→「いいよ」と私。「ボディーガード」を頼む。

C 私は夢を見る。→私が15歳の時、父が胃がんで死ぬ。父は私を許さない。私に殺された13歳(中1)の姉。母を失った5歳の私。

D 札束と銃を引ったくったと、ミチル。ばあさんから引ったくったカバンに、入っていた。2000万円の札束と銃(チャカ)。→「諒子さん、やっぱり変わってる。チャカ見ても、出て行けと言わない」とミチル。
D-2 ストーカー男が、アイスクリームを置いて行く。
D-3 ストーカー男が、猫を置いて行く。→猫を捨てにいく。
D-4  ミチルは、諒子と同じく、父母がいない。

  第3章
A ストーカー男からメール。「俺の贈った猫を飼わないなら、思い知らせてやる」。→捨てた仔猫の死体が、アパートのドアの前に置いてある。

B アパートに帰ったとき、諒子が頭を殴られ気を失う。→ミチルが、ストーカー男に犯されている。→諒子が男を、銃で撃ち殺す。

※ この時点で、31歳の諒子が知らない事情
 ① ミチルは実は、諒子の異父妹。ミチルと諒子の母は、同じ。
 ② 諒子が撃ち殺したのは、実はストーカー男でなく、ミチルの異母兄。ミチルの母親が結婚したときの、その父親の連れ子。
 ③ 諒子の母は、実は死んでいない。母は、色情狂。自動車事故(自殺未遂?)のあと、諒子の父親と離婚。さらに男遍歴を続ける。→母は、ミチルの父親と再婚し、ミチルが生まれる。→ミチルは、やがて、父親の連れ子の兄(ミチルの異母兄)に犯される。母は、この兄とも関係していた。

C 諒子の回想:母の事故(死)のあと、姉(1歳年長)と諒子は祖母に引き取られる。姉6歳、諒子5歳。→母を結果として殺した私(諒子)を、姉は許さない。姉は、とことん私をいじめる。→姉が13歳(中1)、私(諒子)12歳(小6)の時、雨が激しく降る日、私は、私をいじめる姉を海に突き落とす。姉は死ぬ。私は、姉を殺した。→しかし、当時、警察は、姉は事故死と結論づけた。→祖母は、姉と私の出来事の一部始終を見ていたが、黙っていた。

※ この時、12歳の諒子が、知らなかった事情
 ① 祖母は、姉にも私にも、母が事故死したと、言っていたが、実は母は生きていた。母は、色情狂で、外に男をこしらえ、当時、父親といさかいが絶えなかった。母は、自動車事故に会うが、事故のあと回復。そして諒子の父親と離婚した。
 ② 祖母はそれなのに、死んだと、姉にも私にも、嘘をついた。
 ③ 母の自動車事故は、私(諒子)が、母に「死んでしまえ」と言ったので、母が自動車に意図的に飛び込んだのだと、私は思った。姉もそう思った。祖母が嘘をついて「母は死んだ」と、姉妹に伝えたので、私は「母を殺した」と悩み、姉は母を殺した私を憎み苛めた。
 ④ 要するに、私も姉も、母が色情狂であり男にだらしないため、また、祖母の嘘のために、ひどい状況になった。(「私は姉を殺した」。「姉は私をいじめた」)

D ストーカー男を撃ち殺した私(諒子)に対し、ミチルが「自首することはない」と言う→「(恋人の)ヨースケに、片付けてもらう」とミチルが、携帯をかける。

  第4章
A 岡島が、諒子の部屋にやってきて、射殺されたストーカー男(※実はミチルの異母兄)の死体を発見。→ミチルが、引ったくり犯だと気付き、部屋の中に、岡島がかってに入って来る。岡島が、死体を発見したので、ミチルが岡島を射殺。
B ヨースケが到着し、岡島の死体を、隣の岡島の部屋の冷蔵庫内に、3人で運び、隠す。
C ミチルとヨースケが、ストーカー男(※実はミチルの異母兄)の死体を、捨てに行く。
D その間に何と、ストーカー男から、諒子に電話がかかる。諒子は「自分が射殺したあの死体は、誰だったのだろう?」と愕然とする。

  第5章
A ミチルとヨースケが、もどってくる。→逃亡のための服を買いに、ミチルが外出。→諒子がヨースケに好意を持ち、ヨースケとエッチする。
A-2 ミチルと諒子が新幹線で逃亡。

B 新幹線内で諒子は、昔を回想。諒子5歳、姉6歳。当時、母24歳、父36歳頃。(母17歳、父29歳で結婚。)母は、しばしば突然家出し、外泊も多かった。母は、近所で悪口を言われる。父と母の諍いが続く。「死んでしまえ」と父。「死んでやる」と母。→ある日、5歳の私は、幼稚園の劇を見に来てくれなかった母に、「死んじゃえばいい!」と言った。母は自動車に飛び込み、死ぬ。

※ 母は、実際、この時、自動車事故に会うが、事故のあと回復。母は死ななかった。そして父親と離婚した。しかし、祖母は嘘をつき「母は死んだ」と姉にも私にも言った。母が色情狂で、離婚したとは、祖母は言えなかったのだろう。(第3章C参照)

  第6章
A 新幹線で大阪に着き、大阪の廃業した土木会社のプレハブに、ミチルと諒子が住む。
B ミチルが謎解きをする。→諒子の母は、実は死んでいない。母は、色情狂。自動車事故(自殺未遂?)のあと、諒子の父親と離婚。さらに男遍歴を続ける。(第3章B参照)→諒子の母は、ミチルの父親と再婚。ミチルの義父には連れ子がいた(ミチルの異母兄)。ミチルは母親の再婚後の子ども。→母親は色情狂で、再婚した父親だけで満足できない。母親は、義父の連れ子と関係する。義父は、頭に血が上って、自分の娘のミチルに、手を出す。→義母と関係し色気違いとなった異母兄は、異母妹のミチルを犯す。
B-2 ミチルは異母兄、義父、母親を皆殺しするつもり。
B-3 祖母が、自動車事故のあと、母が色情狂のため「父と離婚した」と言わず、嘘をついた。自動車事故のあと「母は死んだ」と、祖母が、諒子と姉に伝えた。そのため、諒子は「母を殺した」と悩み、姉は「母を殺した」と私を憎み苛めた。(第3章C参照)

C 義父から2000万円と拳銃を盗んで逃げたミチルが、「もどってきている」というので、義父が、様子を見に来た。→「父親は、もう刺し殺した」とミチルが諒子に言う。→ミチルの義父は、覚醒剤を売り、大金を手に入れていた。

D 「ね、お姉ちゃん」とミチル。「あいつ(母親)は、お姉ちゃん(諒子)と一緒に、殺したい」と言う。→「殺さなくていい」と私(諒子)。→言い争いとなり、私はミチルを射殺。

  第7章
私は、拳銃と2000万円が入ったカバン、ミチルの携帯を持って、「ミナミ」まで逃げる。→ホームレスが、諒子に空きビルを教えてくれる。

  第8章
A ミチルの携帯に、ヨースケから電話が入る。→ヨースケが、諒子の空きビルに現れる。GPS機能で、諒子の居場所が分かった。

B ヨースケが、諒子を拳銃で、殺そうとする。ヨースケが謎解きをする。
 ① 諒子が撃ち殺したのは、ミチルの異母兄だが、実はミチルは、初めから、諒子に異母兄を射殺させるつもりだった。ミチルは自分を犯す異母兄を殺したかった。→諒子に殺させるため、ミチルの異母兄に、ヨースケが諒子の住所を教えた。異母兄が諒子のアパートに現れ、ミチルを犯す。諒子が、異母兄を射殺。
 ② ミチルの計画は、全員を殺すことである。まず、ミチルは、義父を殺す。母親が再婚した義父は、ミチルを犯した。ミチルは、義父から2000万円と拳銃を盗んだ。
 ③ ミチルは当然、母親も殺す計画。母親は義父だけで満足できず、義父の連れ子の異母兄とも関係。ミチルが義父に犯され、さらに異母兄にも犯されるという状況に陥らせたのは、母親。
 ④ 諒子は母親を殺すことはないと、ミチルを止めた。そのとき、勢いで諒子は拳銃を発射し、ミチルを殺す。(第6章、第7章)
 ⑤ ミチルは、初め、義父、母親、異母兄を殺し、その罪を、すべて私(諒子)に負わせ、私(諒子)を拳銃で自殺させるつもりだった。→ミチルは、この計画を、恋人のヨースケと立てる。→ストーカー男は、ヨースケが、演じていた。ミチルとヨースケの計画の一環。→ところが、ミチルは諒子に情がわく。「ね、お姉ちゃん」とミチル。「あいつ(母親)は、お姉ちゃん(諒子)と一緒に殺したい」と言う。ところが「殺さなくていい」と考える諒子と言い争いとなり、諒子がミチルを射殺
 ⑥ ヨースケは、恋人のミチルのためでなく、2000万円がほしいいただけだった。私(諒子)に、ミチルも殺させて、すべての罪を私(諒子)にかぶせるつもりだった。

C このヨースケの計画は、99%、成功する。しかし最後、私(諒子)が、隠し持っていたナイフでヨースケを殺す。

D その後、私(諒子)は自殺する。私は、昔、姉を殺し、今、異母妹のミチルも殺した。ミチルの異母兄も殺した。さらに、ヨースケも殺した。私に、生きる気力はない。
 (1) 「母を殺した」との私の贖罪感は、虚妄だった。
 (2) 姉が6歳から13歳まで私に対して持った「憎しみ」も虚妄。
 (3) 姉を殺した「私の悲しみ」も、虚妄にもとづいていた。
 (4) 諒子を信じた異父妹ミチルを、殺してしまった。→「私のこれまでの人生とはなんだったのか。死にたい。しかも、私の面は割れており、警察に捕まるのも時間の問題!」おそらく、そう諒子(私)は思ったにちがいない。

  《評者の感想》
 『ストーミー・マンディ』は、適切な題。「月曜も、火曜も、水曜も最低でひどい。木曜に悲しくなり、金曜に出費。土曜に憂さ晴らし。日曜は教会で慈悲を願う。」とのこと。
 諒子の人生は全くひどい。なぜひどいのか、原因を列挙しよう。
 ① 母の色情狂が、「ひどさ」の第1の原因。
 ② 「母が死んだ」との祖母の嘘が、第2の原因。
 ③ 諒子をいじめた姉が、ひどい人生。姉を殺した諒子が、さらにひどい人生。諒子と姉の関係の存在そのものが、「ひどさ」の第3の原因。
 ④ 諒子の異父妹ミチルの人生もひどい。義父に犯され、異母兄にも犯される。さらに慕っていた異父姉の諒子に殺される。諒子とミチルの関係の存在そのものが、「ひどさ」の第4の原因。
 ⑤ 諒子は、一瞬、ヨースケを味方と思うが、それも裏切られた。これが「ひどさ」の第5の原因。
 神様の慈悲は、なかった。
 
 こうした諒子のひどい人生を描く作者は、「人生へのペシミズムが、今の時代、共感を得やすい」と思うのだろう。そして①共感者が多ければ、本が売れお金が入る。作者の生活が楽になる。または②ニーズについての予想が当たり、作者は満足する。
 作者は、諒子に同情しているのだろうか?それともフィクションとして興味半分に、人物像を作ってみただけなのだろうか?

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする