宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

「1990年代 女性作家の台頭」(その5):「少女小説・青春小説」江國、姫野、野中、藤野、鷺沢、金城!ひこ、森絵都、梨木、湯本!恩田、佐藤亜紀、小野不由美!(斎藤『日本の同時代小説』4)

2022-03-23 12:24:42 | Weblog
※斎藤美奈子(1956生)『日本の同時代小説』(2018年、62歳)岩波新書

(41)「少女小説・青春小説の多様な展開」:江國香織(エクニカオリ)『きらきらひかる』(1991)アルコール依存の女性とゲイの男性の結婚!『神様』(1999)母子家庭の母と娘!
E  1990年代、青春小説や少女小説の主役となる人物も驚くほど多様化した。(145頁)
E-2  江國香織(エクニカオリ)(1964-)『きらきらひかる』(1991、27歳)は、アルコール依存症の女性・笑子(ショウコ)とゲイの男性・睦月(ムツキ)が見会いで出会って結婚する物語。(145頁)
《書評》情緒不安定でアルコール中毒の「笑子」、同性愛者の「睦月」。お互いの傷を認め合い、結婚生活を送る。「睦月」には大学生になる「紺」という恋人がいる。世間からはみ出した夫婦。だけど二人の間に愛がないわけではなくて、ちゃんとお互いを愛している。
E-2-2  江國香織(エクニカオリ)『神様』(1999、35歳)は、母子家庭の母と娘を描く。「あたし」草子(ソウコ)はもうじき10歳、「私」葉子は35歳。姿を消した草子の父がいつか戻ってくると信じ、ふたりは引っ越しを続ける。だがやがて草子は気づく。「うちのママはおかしいのではないか」。(145頁)
《書評》娘の視点と母の視点で交互に語られる。 母の宝物は3つ。ピアノ、あの人、娘。 一人の人を何年も待ち続け成長しない母と、段々と成長し現実が見えてくる娘。母の静かな狂気も儚く美しい。ずっと現実を見ないで生きていけたらいいかもしれない。

(41)-2 姫野カオルコ『ひと呼んでミツコ』(1990)「超能力」を持つ女子大生!『ツ、イ、ラ、ク』(2003)中学生女子と教師の恋愛!ユニークな「ヒメノ式」!
E-3  姫野カオルコ(1958-)『ひと呼んでミツコ』(1990、32歳)は、1980年代のバブル期を舞台にした女子の上京小説だ。三子(ミツコ)は英文科女子大生だが、「超能力」を持ち正義感から不正な相手にダメージを与える。ヒーローもののパロディだ。(145-146頁)
《書評1》ミツコが怒ると、盲腸の傷が疼き超能力を発揮して悪人を成敗してゆくワンパターンモノ。水戸黄門式のお話。
《書評2》昭和・平成初期ネタが多いので、平成生まれにわからない部分も多いが、それを抜きにしてもコメディーとして楽しめる。「フローベルの『紋切型辞典』」的な魅力。
E-3-2  姫野カオルコ『ツ、イ、ラ、ク』(2003)は、中学生女子と教師の恋愛。(146頁)
《書評1》地方の閉塞感と激しい恋愛。 思春期の子どもたちの後ろ暗い気持ち。 色々な思わくや感情が入り乱れて…だけど目が離せない物語だった。
《書評2》大人びた少女の恋愛小説。小学2年生から物語が始まる。あからさまでえげつない子供達の人間関係。それが懐かしく恥ずかしく生々しい。恋愛部分も、自分の記憶と重なって痛みを覚えるほど。青かった。ラストに2人が再会するのは、羨ましい反面、ちょっと安っぽいかなぁ…
《書評3》周りに比べ早熟な隼子、けれど彼女はやっぱり子供。20歳を過ぎ社会人で大人の先生、けれど彼も社会経験が少なく若すぎた。2人は「ツイラク」を経験する。
E-3-3  姫野カオルコの世界はいつもユニークで、「ヒメノ式」と呼ばれる。(146頁)

(41)-3 野中柊(ヒイラギ)『ヨモギ・アイス』(1991)!『アンダーソン家のヨメ』(1992)!国際化の時代を印象づける!
E-4  野中柊(ヒイラギ)(1964-)『ヨモギ・アイス』(1991)は、アメリカに留学した女性が、現地で知り合った男性と国際結婚をする物語。日本人のヨメに対する風当たりが強く、主人公のヨモギはふて腐れ気味。(146頁)
《書評》アメリカではじめた新婚生活。近所の奇妙な人たちを、日本人女性ヨモギ(風変わりな痩せた日本人女性で、アメリカ社会で生きてる)の目を通して描く。日米のカルチャーのハザマで、シニカルにハスに構える。
E-4-2  野中柊(ヒイラギ)『アンダーソン家のヨメ』(1992)も、国際化の時代を印象づける。(146頁)
《書評》窓子が、夫の実家でウエディングパーティーを開いてもらうが、夫の家族や友人たちに振り回される。人種差別とか政治的な背景がどうのという重たい話も、軽やかに井戸端会議的な目線で書かれている。

E-4-3  海外生活を送る日本人女性のイライラは、大庭みな子、米谷(コメタニ)ふみ子にも連なるテーマだが、「野中ワールド」はどこまでもポップだ。(146頁)
《参考》大庭みな子(1930-2007):1959年、夫の仕事の都合でアラスカに移住。1968年(38歳)、アメリカの市民生活を描いたデビュー作『三匹の蟹』(※夫婦のスワッピングという当時、センセーショナルな舞台背景)で芥川賞を受賞。1970年帰国。
《参考》米谷(コメタニ)ふみ子(1930-):『過越しの祭』(1986、56歳)で芥川賞受賞。(※米国で人種差別は根深い。脳障害を持つ次男と健常児の長男の2子を抱える主人公が、ユダヤ人の夫にも振り回される様がキョーレツ。自由を求めて渡米した道子の予期せぬ戦いを描く。)

(41)-4 藤野千夜(チヤ)『午後の時間割』(1995)!『少年と少女のポルカ』(1996)ではLGBTの高校生を描く!『夏の約束』(2000)!
E-5  藤野千夜(チヤ)(1962-)は『午後の時間割』(1995、33歳)でデビュー。(146頁)(※失恋から、人との距離をとろうとする予備校生を描く。)
E-5-2  藤野千夜(チヤ)『少年と少女のポルカ』(1996、34歳)はLGBTの高校生を描く。トシヒコは「昔から男の子のことが好きだった」。ヤマダは、自分は「間違った身体に生まれた女」だと思っている。2人は男子校の同級生同士。ヤマダはホルモン注射を打ち睾丸の摘出手術を受け、ついにスカートで登校する。(146頁)
《書評》主人公は3人、ゲイのトシヒコ、自分を女だと思うヤマダ、電車に乗れないミカコ。一見すると普通ではない彼らの、普通の日常を描く。この小説の良いところは、誰ひとりとして現状にクヨクヨしないこと。トシヒコは「ゲイであることに悩まないゲイ」となり、ヤマダは女性になろうと必死になり、ミカコも特段悩んだ様子がない。
E-5-3 なお藤野千夜(チヤ)自身もトランスジェンダーの作家で、後に『夏の約束』(2000、38歳)で芥川賞を受賞した。(146-147頁) 
《書評》健康診断で太りすぎを警告された会社員マルオと、フリー編集者ヒカルのゲイカップルの日常。「男性から女性へトランスセクシュアルした美容師のたま代」とキャンプに行く約束。それぞれ悩みはあるけれど、自分らしさを大切にしていて、「自由」を感じた。

(41)-5 鷺沢萌(サギサワメグム)『川べりの道』(1987)、『葉桜の日』(1990)、『君はこの国を好きか』(1997)、『ほんとうの夏』(1997)!在日三世の体験を描く!
E-6  鷺沢萌(サギサワメグム)(1968-2004)は18歳にして『川べりの道』(1987、19歳)でデビュー。(147頁)(※「自分と姉から離れ、知らない女の人と暮らす父親」の家に毎月生活費を貰いに行く道は、ある種の不安を感じさせ、早くその家に着きたいと思うほど哀しい道だった。)
E-6-2  鷺沢萌は『葉桜の日』(1990、22歳)の執筆過程で、祖父母が朝鮮半島の出身であることを知る。(147頁)
《書評1》バーを経営するママ(女装している男性)に雇われた健次の、進学校から大学、堅実な企業へのコースから外れた視点から、店を訪れる様々な客や関係者の生き様が描かれる。
《書評2》おじいは「みんな同じさあ。みんな誰かなんて判っちゃいねえよ」と言ってジョージを慰める。さらにおじいは「てめえのケツはてめえで拭うしかねえんだ」といい、「オイラも、死ぬまでは生きてっからよ」とカラカラ笑う。結局、ジョージも健次も自分は誰なのかわからないまま、日常に戻り生きていく。読後は悪くない。
E-6-3 鷺沢萌『君はこの国を好きか』(1997、29歳)は韓国語を学ぶためにソウルに留学した在日三世・木山雅美(李雅美イ・アミ)の体験を描く。(自身の留学体験も踏まえる。)(147頁)
《書評》「君」は在日韓国人、「この国」は大韓民国。日本に生まれ育った在日韓国人3世の雅美。彼女は、韓国へ留学する。「人付き合いが濃厚な韓国社会」と「なにかと過ごしやすい日本の生活」を比較しながら、「韓国人になりきれない、かといって日本人ではない」という心の整理がつかない状態が続いて、雅美は心も体も不安定になる。
E-6-4 鷺沢萌『ほんとうの夏』(1997、29歳)は、在日三世の男子高校生・新井俊之(トシユキ)(朴俊成パク・チュンソン)が女の子を好きになったことでぶつかるアイデンティの問題を描いた青春小説だ。(147頁)
《書評》俊之は在日韓国人三世。そのことを告げずに日本人の芳佳とつきあっている。彼女を乗せて運転中に追突事故を起こし、警官に提示する免許証から国籍を知られることを恐れた彼は、芳佳をじゃけんに遠ざける。

(41)-6 在日の若者を描いた小説:金城一紀(カネシロカズキ)『GO』(2000)!
E-7  在日の若者を描いた小説(主人公は男子だが)としては金城一紀(カネシロカズキ)(1968-)『GO』(2000、32歳)(直木賞受賞)も特筆される。「僕」こと杉原は在日三世の高校1年生。父は元ボクサーで総連の活動家だったが、ハワイ旅行を目論んだ父の一声で、朝鮮籍から韓国籍になる。「広い世界」に出ようと「僕」は日本の私立高校に入学するが「通名で通学してほしい」と学校に言われてしまう。友情・恋愛に民族問題をからめた、痛快な青春小説だ。(147頁)

(41)-7 少女の成長物語:ひこ・田中『お引越し』(1990)、森絵都『リズム』(1991)、梨木香歩(ナシキカホ)『西の魔女が死んだ』(1994)、湯本香樹実(カズミ)『ポプラの秋』(1997)!
E-8  1990年代には、児童文学(ジュブナイル、中高生向きならヤングアダルト)の分野から、後にロングセラーとなる少女小説が続々と誕生する。(147-148頁)
E-8-2  ひこ・田中(1953-)『お引越し』(1990、37歳):6年生の少女(漆場漣子ウルシバレンコ)が両親の離婚で、母と新しい生活に踏み出す自立譚。(148頁)
《商品の説明》「今日とうさんがお引越しをした。三人だった家がこれから、かあさんと私、二人になる。二人が別れるのは私のせいやないって、とうさんもかあさんも言うたけど、私のせいやないのに私に関係ある。あんまりや。」両親の離婚にゆれる11歳の少女の心模様と成長を描く。

E-8-3  森絵都(1968-)『リズム』(1991、23歳):中学1年生の「あたし」(藤井さゆき)と、ロックバンドに打ち込む従兄を中心に家族の問題を絡めた物語。(148頁)
《書評》昔、主人公と同じ中学生のころに読んだ本。改めて読み直すと、「中学生の頃なんて何も考えてなかった」と思っていたけれど、そうではなく、「その時特有の悩みを私自身も抱えながら生きていたのかな」と思いました。

E-8-4  梨木香歩(ナシキカホ)(1959-)『西の魔女が死んだ』(1994、35歳):不登校になった中学生の少女(まい)が、「魔女」を自称するイギリス人の祖母のもとで修業に励むお話。(148頁)
《書評》まいが死について父に質問したとき、「なんにもなくなる」と言われ悲しくなった箇所で、小学校低学年の時に「死」について考え始め、中学校になる直前まで「恐怖と絶望の感情」が常にあったのを思い出した。魔女として生きるという事は、大人として自分と向き合い丁寧に生きていく事だと学べる本。

E-8-5  湯本香樹実(カズミ)(1959-)『ポプラの秋』(1997、38歳):父を亡くした7歳の「私」(千秋)と、「あの世に手紙を届けてあげる」と語る大家のおばあさんとの交流譚だ。(148頁)
《書評》夫を失い虚ろな母と、7歳の私。二人は電車の散歩を繰り返し、引き寄せられる様に出会った「ポプラの木が庭にあるポプラ荘」に引っ越す事に。そこで大家のおばあさんと出会う。心が温まる素敵なお話。

E-8-6  いずれも少女の成長物語だが、大人の読者にも訴える力があった。(148頁)

(41)-8 ファンタジーノベル大賞系の少女が主人公の小説:恩田陸『六番目の小夜子(サヨコ)』(1992)、佐藤亜紀『戦争の法』(1992)、小野不由美『東亰異聞(トウケイイブン)』(1993)『図南(トナン)の翼』(1996)!
E-9  少女が主人公の小説には、さらにファンタジーノベル大賞系の作品が加わる。恩田陸(オンダリク)、佐藤亜紀、小野不由美といった人気作家たちの作品だ。(148頁)

E-9-2 恩田陸(1964-)『六番目の小夜子(サヨコ)』(1992、28歳)はミステリーやホラーのテイストが入った少年文学風の作品。「三年に一度、サヨコが現れる」という伝説のある地方の進学校が舞台だ。(148頁)
《書評》一度しかない高校生活を送る者たちの青春模様が鮮やかに描かれるのに、物語の軸である『サヨコ』の持つほの暗い、漠然とした怖さが滲み出ている。
E-9-2-2  恩田陸『夜のピクニック』(2004、40歳)は女子高校生を語り手に、夜どおし歩き続ける学校行事を描く。(148頁)
《書評》主人公は、同じクラスの高三の男女。異母兄弟である二人は、お互いを強烈に意識しているが、口をきいたことが無い。 高校生活最後のイベント、夜八時にスタートして夜通し歩いて朝ゴールする歩行祭。歩きながら二人は距離を縮める。懐かしい叙情的な青春物語。
E-9-2-3  これらは、恩田陸をすぐれた学園小説の書き手として印象付けた。(148頁)

E-9-3  佐藤亜紀(1962-)は『バルタザールの遍歴』(1991、29歳)でデビュー。(148頁)
《書評》舞台は第二次世界大戦前のウィーン。貴族で、一つの体を共有する双子、バルタザールとメルヒオール。シャム双生児でも二重人格でもない。非物質的実体としての二人が物質的実体としての一つの肉体に宿る。日本ファンタジーノベル大賞受賞の歴史幻想小説。
E-9-3-2 佐藤亜紀『戦争の法』(1992、30歳)は一種の「偽史」だ。1975年、N***が日本から分離独立を宣言し、社会主義国となる。街はソ連軍の兵であふれ、父は武器と麻薬の密売人、母はソ連兵相手の売春宿を経営する。14歳の「私」は義勇軍に入り少年ゲリラとして戦う。「私」はクラウゼビッツ『戦争論』を愛読する。(148-149頁)
《書評》佐藤亜紀さんの2作目。“信頼できない語り手による回想録”というスタイルの小説。文章が濃密でどのシーンも絵画的に脳裏に浮かぶ。ゲリラパートでは「生き生きとした描写」と「シニカルな視点」のブレンド。

E-9-4 小野不由美(1960-)は『東亰異聞(トウケイイブン)』(1993、33歳)で人気を博す。(149頁)
《書評》物語の舞台は架空の帝都・東亰。文明開花が進み明るく開けた世界になった一方で、夜は火炎魔人、長い爪で人を引き裂く赤姫(闇御前)など闇に蠢く魑魅魍魎。ホラー?ミステリー?色んな表情が楽しめる作品。 
E-9-4-2  小野不由美『十二国記』(1992~、32歳~)は、中国に似た12の国からなる異世界を描いた長大なシリーズであり、「偽史」だ。このうち『図南(トナン)の翼』(1996、36歳)は12歳の少女・珠晶が王を目指す物語だ。(149頁) 
《書評1》十二国記で一番おもしろいって同僚に教えてもらいました。
《書評2》主人公の珠晶が良い。利発でお利口、健全闊達なお嬢さんぶりが光る。
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