宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

「1980年代 遊園地化する純文学」(その4):「架空の国家の捏造」大江『同時代ゲーム』、井上『吉里吉里人』、丸谷『裏声で歌へ君が代』、筒井『虚航船団』!(斎藤美奈子『日本の同時代小説』3)

2022-03-03 15:55:53 | Weblog
※斎藤美奈子(1956生)『日本の同時代小説』(2018年、62歳)岩波新書

(29)「架空の国家の捏造に走ったベテラン作家」:①大江健三郎(1935-)『同時代ゲーム』(1979、44歳)「四国の森」つまり「村=国家=小宇宙」の「偽史」(ギシ)!
D 1980年代には「国家論」あるいは「偽史」(ギシ)が流行した。(100頁)
D-2 この種の国家論的小説として、1970年代の小松左京『日本沈没』(1973)が先行していたが、これは「ありうるかもしれない未来の歴史小説」だった。(100-101頁、Cf. 70-71頁)  
D-2-3 ところが1980年代の「国家論」(「偽史」)は「よくいえば奇想天外、悪く言えばただのバカ話」だった。(斎藤美奈子氏評)。(101頁)

D-3  1980年代の大江健三郎(1935-)を代表する作品が『同時代ゲーム』(1979、44歳)だ。(100-101頁)
D-3-2 『同時代ゲーム』は、神主の息子の「僕」が、皇子として教育された双子の「妹」に、「四国の森」つまり大江の言葉でいう「村=国家=小宇宙」の歴史(神話)を語り聞かせる。これは「偽史」=「歴史の捏造」だ。実際の歴史のアナロジーもあるが、「実態のない人物の歴史」であり「人の夢の話を延々と聞かされる」ようなものだ。(101頁)
D-3-2-2 この作品に積極的な意義を見出すとすれば、『聖書』や『古事記』のパロディということだ。(斎藤美奈子氏評)。(101頁)
D-3-2-3  しかし肝心の「妹」は「すでにこの世にいない」ことが最後に明かされる。この神話は「聞き手」を欠いた物語だった。(101頁)
《参考》「僕」の話(手紙)によれば、「村=国家=小宇宙」は徳川期に権力から逃れた脱藩者により四国の山奥に創建された。明治維新以後「村=国家=小宇宙」は大日本帝国の租税や徴兵に抵抗するため「二重戸籍」の仕組みを作った。しかしこの仕組みが露見し、大日本帝国は軍隊を派遣、「五十日戦争」が始まる……。
《参考(続)》『同時代ゲーム』について評論家の小林秀雄は軽口で、大江に対し「おれは2頁でやめたよ!」と言った。

(29)-2 「架空の国家の捏造に走ったベテラン作家」:②井上ひさし(1934-2010)『吉里吉里人』(1981、47歳)この作品の影響で日本各地の自治体が(※町起こしで)独立を宣言し「ミニ独立国」ブームが起きる!
D-4  井上ひさし(1934-2010)『吉里吉里人』(1981、47歳):青森行き夜行急行列車「十和田3号」に乗った小説家・古橋健二が一ノ関手前で、突然「ここはハァ吉里吉里国なんだものねっす」と東北弁のアナウンスを聞く。訳も分からず吉里吉里国の移民第1号となった古橋は、翌々日には大統領にされてしまう。共通語は東北弁、豊富な埋蔵金に裏打ちされた金本位制、木炭バスを改造した国会議事堂車等々。(101-102頁)
D-4-2 「しいたげられてきた東北の復権」、「日本政府への批判」という意味では興味深い。(102頁)
D-4-3 「設定の面白さは、それ以上のレベルにはなかなか進まず、後半、物語は完全に破綻し収拾がつかなくなってしまった。」(斎藤美奈子氏評)(102頁)
D-4-4  この作品の影響で日本各地の自治体がお遊びで(※町起こしで)独立を宣言し「ミニ独立国」ブームが起きた。これは1980年代の「ディズニーランダイゼーション現象」の一つだ。(斎藤美奈子氏評)(102頁)
《参考》1982年に吉里吉里という地区のある岩手県大槌町が、町おこしの一環として「吉里吉里国」として独立宣言する。これ以後、「ミニ独立国ブーム」が起こり、最盛期には200カ国を数えた。
《参考(続)》なお「ふるさと創生」事業として、1988-89年バブル経済最中の竹下内閣の時、全国3000の市町村に各1億円(使い道に国は関与しない)が配られた。

(29)-3 「架空の国家の捏造に走ったベテラン作家」:③丸谷才一(1925-2012)『裏声で歌へ君が代』(1982、57歳)台湾系日本人たちによる「心のなかの国」である「台湾民主共和国」!
D-5  丸谷才一(1925-2012)『裏声で歌へ君が代』(1982、57歳):物語は「台湾民主共和国準備政府」の大統領就任パーティーから始まる。といっても「台湾民主共和国」は台湾系日本人たちによる「心のなかの国」で台湾独立運動もシャレに近いものだった。しかし台湾政府の耳にも独立運動の話が伝わって・・・・というように物語は進む。(102頁)
D-5-2 だが実は、この小説の大部分を占めるのは「登場人物がだらだらと語る自らの国家論」で彼らの議論は物語とまるでリンクしない。(斎藤美奈子氏評)(102-103頁)
D-5-2-2  結果、「物語は終わった」、「ここからさきは、わたしではなくあなたが作者といふことになる」と「作者のギブアップ宣言」で小説は幕を閉じる。(斎藤美奈子氏評)(103頁)
《参考》書評1「ノンポリのアナキスト、動物的直感に生きる市民、老練な政治家、退役軍人などの国家論が軸」。書評2「書かれてあることの大半は国家論で、そういうことに興味がある人以外は面白くない。中年男女の恋愛も描かれてはあるが、それは本筋ではなく、延々と語られる『国家』に辟易させられる」。

(29)-4 「架空の国家の捏造に走ったベテラン作家」:④筒井康隆(1934-)『虚航船団』(1984、50歳)
D-6 筒井康隆(1934-)『虚航船団』(1984、50歳)は3章からなる。第1章「文房具」擬人化した文房具が乗り込む「文具船」の宇宙船団。各文房具の個人史が紹介される。(※文房具達は、目的不明の長い航海のせいで発狂している。)第2章「鼬(イタチ)族十種」10種のイタチが住む惑星クォールの1000年の歴史が語られる。第3章「神話」「文具船」が惑星クォールへ侵略し、文房具とイタチ族との血で血で争う戦争が始まる。(103頁)
D-6-2  惑星クォールは「地球」、イタチが「人類」の寓意であることは明らか。第2章は「偽史」というより(※高校の授業の)「世界史」のようなもの!(斎藤美奈子氏評)(104頁)
D-6-3  なお登場人物が「何よこれ『虚航船団』810枚ですか。枚数をかせぐことだけが楽しみなんですか」と作者に文句をつけるなど、後半は相当苦しくなる。(斎藤美奈子氏評)(104頁)
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